戦略から表現まで一気通貫する「設計思考」のススメ

なぜ、良い戦略は伝わらないのか?

どれほど練り上げた戦略でも、それが伝わらなければ意味がありません。「市場調査を基にした緻密なブランド戦略を策定したのに、広告表現でズレが生まれてしまう」「SNSでの発信が企業のビジョンと乖離しているように感じる」――そうしたジレンマを抱える企業やマーケティング担当者は、決して少なくありません。
このような“戦略と表現の断絶”を解消するために注目されているのが、「設計思考」というアプローチです。設計思考とは、顧客視点を起点に、コンセプト設計から表現、さらにはメディア運用までを一貫して組み立てていく方法です。単なるビジュアルのデザインやコピー開発にとどまらず、戦略全体を“体験”として設計することが可能になります。

 

顧客インサイトに寄り添う、コンセプト設計の再定義

設計思考の第一歩は、顧客の「インサイト発掘」にあります。インサイトとは、表面化していない本音や、本人も気づいていない深層のニーズのことです。数字や属性ではなく、“なぜそれを欲しいと思うのか”という背景に焦点を当てることで、より本質的なコンセプトが導き出されます。

ある企業が「高機能な調理家電」を開発したとします。しかし単に「機能性が高い」と訴求しても、生活者には届きません。設計思考では、「忙しい朝でも家族に温かいごはんを食べてもらいたい」という生活者の思いに焦点を当て、そこから「時間を味方にする家電」といった共感軸のコンセプトに昇華させていきます。
こうした設計によって、表現は単なるスペック訴求から、「誰かの願いに寄り添うストーリー」へと変化します。この視点の転換が、結果として商品やブランドへの愛着や選ばれる理由へとつながっていきます。

 

SNSからメディア展開まで、戦略を軸にした表現の統合

設計思考がもたらすもう一つの大きな利点は、アウトプットの一貫性です。たとえば、SNS投稿とテレビCM、Webコンテンツとリアルイベントが、それぞれ別のトーンや目的で動いていると、受け手の中でメッセージが分断されてしまいます。

設計思考では、コンセプト設計の段階で「何を伝えるか」だけでなく、「どのような感情を喚起し、どんな行動を促したいか」を明確にし、それをメディアごとに最適化して展開します。

たとえば、SNSではユーザー参加型のキャンペーンで共感を促し、オウンドメディアではその裏にあるストーリーや背景を丁寧に伝えるなど、異なる役割を持たせつつ、軸はぶらさない。こうした設計により、顧客との接点ごとに“らしさ”が伝わり、ブランド体験が自然と積み重なっていきます。

 

差別化ではなく“共鳴化”をめざす時代に必要な視点

かつては、競合との差別化がマーケティングの主眼でした。しかし現代では、似たようなサービスや商品があふれており、単なる差ではなく、「このブランドは私の価値観を理解してくれる」と感じられる“共鳴”が選ばれる理由になっています。

設計思考は、まさにこの共鳴を生む土台をつくります。表面的なコピーや流行をなぞるのではなく、ブランドが一貫して語る“想い”を設計し、それをどのタッチポイントでもぶらさずに伝える。そうした姿勢が、ユーザーの信頼や愛着を育てていきます。また、表現を見直しながら再設計していく“柔軟さ”も設計思考の強みです。一度つくって終わりではなく、データや反応に基づきながら表現を育てていくことで、ブランドは時代とともに進化し続けることができます。

 

まとめ:設計思考は、ブランドと顧客の関係を育てる“対話の道具”

設計思考とは、企業の伝えたいことを一方的に届けるのではなく、顧客の気持ちに寄り添いながら「どうすれば伝わるか」を丁寧に考えるプロセスです。戦略と表現、企画と現場、メディアと生活者――それぞれの間にある“溝”を埋めるための架け橋とも言えるでしょう。

戦略から表現、SNSからキャンペーン、広告から接客まで、あらゆる接点で“ひとつながりの体験”を届けること。それができたとき、ブランドは単なる商品以上の存在となり、顧客の日常に深く根を下ろすようになります。断片的な打ち手の積み上げではなく、意図と表現がひとつにつながる「設計思考」という視点が、あらゆるマーケティング活動に求められているのではないでしょうか。

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