転職を繰り返す若者は“キャリア迷子”なのか?

――多様化するキャリア観と働き方の選択肢

社会の価値観が大きく変わるなかで、「転職を繰り返す若者」に対する評価も揺れ動いています。かつては一つの企業に長く勤めることが誠実さや信頼の証とされていましたが、現在では自分に合った働き方ややりがいを求めて行動する姿勢が、むしろ前向きな選択として受け入れられつつあります。
とはいえ、転職回数が増えると「落ち着きがない」「キャリアの軸がない」といった印象を持たれることもあるため、不安を抱えながら次の職場を選ぶ人も少なくありません。

 

なぜ若者は転職を繰り返すのか

まず、若者がなぜ転職を繰り返すのかを明らかにするために、実際の数字を見てみましょう。厚生労働省の「令和5年雇用動向調査」によれば、25〜29歳の転職率は12.3%と、全年代の中でも最も高くなっています。さらに、2022年に行われたマイナビの調査では、20代の転職経験者の約68.7%が「キャリアアップややりがいのある仕事を求めて転職した」と回答しています。若い世代の多くが「給与」よりも「仕事内容の充実感」や「自己成長の実感」を優先しており、20代の約60%が3年以内に転職を検討した経験があるというデータもあります。
若者の転職が目立つようになった背景には、働くことへの意識の変化があります。従来は安定や終身雇用を重視する傾向が強くありましたが、いまは「やりがい」や「成長実感」「自分らしさ」を大切にする価値観が主流になりつつあります。ある人材会社の調査によると、20代の転職経験者のうちおよそ7割が「もっと自分に合った仕事がしたい」「スキルを高めたい」という理由で職場を変えていると回答しています。

また、企業側も「同じ会社で長く勤める」ことよりも、「どのような経験を積んできたか」や「どんなスキルを持っているか」を重視する傾向が強まっています。新しいテクノロジーの登場や働き方改革、副業解禁などによって、キャリアの選択肢は増え続けています。そうした変化のなかで、転職は“逃げ”ではなく、むしろ自分の将来を真剣に考えたうえでの“行動”と捉えることもできるのではないでしょうか。

 
“キャリア迷子”というレッテルの正体

転職を重ねる若者に対して、「軸がない」「続かない人」といったイメージを持つ人もいます。確かに、仕事を短期間で辞めてしまうケースが多いと、企業側が慎重になることもあるかもしれません。しかし、その背景には一方的な偏見や、過去の雇用観に基づいた古い価値判断が潜んでいることも見逃せません。
企業側の意識調査によると、中途採用担当者の約72%が「多様な職務経験がある人材は柔軟性が高い」と評価しているとされています(リクルートキャリア調査、2023年)。社会が変わり続けている今、キャリア形成の方法も一様ではなくなりました。目の前の違和感に目をつぶって一つの会社に居続けるよりも、環境を変えて視野を広げることの方が、長期的に見て自分にとってプラスになることもあります。「キャリア迷子」とは、本当に進むべき道を見失っている状態を指すのであって、試行錯誤をしながら選択肢を広げている人すべてを指すものではないはずです。

 

年収と雇用の安定性をどう捉えるか

転職を重ねる際に気になるのが、年収や雇用の安定性です。確かに、場合によっては年収が一時的に下がることもあるでしょう。しかし、それを補って余りある成長機会や人脈、働き方の自由度を得るケースも少なくありません。とくにIT業界やクリエイティブ職などでは、複数回の転職によって年収を上げていく戦略が一般的になってきています。採用する企業側も、「異なる会社での経験」や「変化に適応できる力」に価値を見出しています。一つの会社で積み重ねたキャリアももちろん大切ですが、それに加えて、複数の職場で得た視点やスキルがあれば、それは大きな強みとなります。安定という言葉の意味自体が、多様なキャリアを積み重ねることによって広がりを持つようになってきたのです。

 
若者は本当に“迷子”なのか、それとも探索者なのか

「キャリア迷子」とは、必ずしも否定的な状態ではありません。むしろ現代においては、自分の目指す姿や働き方を見つけるまでに時間をかけ、選択肢を吟味することが自然なプロセスだといえるでしょう。情報があふれ、価値観が多様化する今、正解は一つではありません。若者が転職を繰り返すことは、迷っているというより、選択肢を見極め、自分に合った働き方を模索している姿でもあります。その過程で悩んだり立ち止まったりすることもあるかもしれませんが、それは決して遠回りではなく、必要な経験といえるのではないでしょうか。厚生労働省の統計では、30代までに2回以上の転職経験がある人は全体の36.4%に達しており、複数回の転職はむしろ“標準的な経験”となりつつあることが分かります。

重要なのは、自分の過去の選択を肯定的に語れるかどうかです。どんな職場で、どんな経験をして、そこから何を得たのか。そうした物語を丁寧に言葉にしていくことで、たとえ他人には遠回りに見えても、自分自身にとっては納得できるキャリアが形作られていきます。

カテゴリ
ビジネス・キャリア

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