サブスク型ビジネスが再拡大へ:競争に強い企業の戦略構造とは

サブスク型ビジネスが広がり始めた時期には、「便利だけれど飽和しつつある」といった見方もありました。しかし日本の社会や経済の動きを細かくたどると、このモデルは収束に向かうどころか再び拡大傾向にあり、利用者と企業の双方にとって価値が見直されている状況が見えてきます。価格変動が大きい時期に支出を一定にしたいという心理が強まっているほか、多くの企業が単発購入から継続契約へ比重を移すことで、安定的な収益を確保しようとしています。消費と働き方の両面に変化が表れており、転職市場でもサブスク事業を扱う企業が選ばれやすくなりつつあります。
所有から利用へという価値観の変化が広がるなかで、ユーザーの行動調査を確認すると、20〜40代の6割以上が「購入せずにサービス利用を選ぶ場面が増えてきた」と答えています。背景を読み解くと、サブスクの再拡大は単なる流行ではなく、日本の生活環境や産業構造と密接に結びついた動きだとわかります。
日本でサブスクが再び広がる社会的背景
サブスク型ビジネスの再拡大は、いくつかの社会的要因が重なった結果と考えられます。ひとつは、家計全体の支出構造の変化です。総務省家計調査では、2024年の実質消費が3年続けて減少し、可処分所得に余裕を持ちにくい状態が続いています。一定額で利用し続けられるサービスは、支出管理のしやすさから支持を受けやすく、契約を維持する動機になりやすい状況です。
企業側の事情も大きく影響しています。広告費や物流コストが上昇する環境では、単発販売だけに依存すると収益の波が激しくなり、投資計画が立てづらくなります。継続課金を軸にしたビジネスモデルは収益予測がしやすいため、事業の安定化を目指す企業にとって魅力があると言えるでしょう。
さらにデジタルツールの普及により、以前より低コストで管理システムを利用できるようになったことが、小規模事業者やスタートアップの参入を後押ししています。顧客管理や課金システムの仕組みを外部サービスに委ねられるようになり、初期投資を抑えながらサブスク型ビジネスを始めるケースが増えています。こうした環境の整備が、再拡大の基盤になっていると考えられます。
成功企業に見られる共通点
市場が広がるにつれ、業績を伸ばす企業にはいくつかの共通項が見えてきます。
まず、継続契約の理由が明確である点が挙げられます。利用者が契約を続けるかどうかを判断するとき、サービスに“続ける価値”があるかどうかを重視する傾向が強まっています。食品や日用品の定期配送型サービスでは、配送日の調整や品数の柔軟な変更といった要素が選ばれる理由になり、解約を防ぐ効果につながっている傾向にあります。
また、データ活用が洗練されている企業ほど、顧客満足度が高い傾向があり、利用履歴や行動データを分析し、ユーザーがつまずきやすいポイントを改善することで、解約に至る前に対策を打つことができます。実際に、データ分析を導入した企業では解約率が10〜15%ほど改善したという報告もあり、サブスク運営におけるデータの重要性は高まりつつあります。
なお、料金体系の工夫を丁寧に続けている企業は成長しやすい状況があります。複数の料金プランを細かく設けたり、初回限定の割引や長期利用の特典を用意したりすることで、利用開始のハードルを下げる工夫が広がっています。生活者のコスト意識が強い日本では、こうした価格設定が利用者の心理に合いやすいため、成功の大きな条件になりやすいでしょう。
これからの日本市場と、公的・民間の支援が果たす役割
サブスク市場は拡大する一方で、課題も明確になりつつあります。複数サービスを契約していることによる“サブスクの積み上がり”は利用者の悩みになりやすく、家計管理アプリの調査では、利用者が契約するサブスクの平均は5〜6件で、そのうち1〜2件は「ほとんど利用していないが継続されている」状態とされています。ユーザーが支払状況を把握しやすい工夫や、不要になったサービスを解約しやすい設計が求められるでしょう。
企業側にも、利用者数の増加に応じたサポート体制の整備が必要になります。問い合わせへの対応が遅れると、満足度の低下につながり、解約の引き金になる可能性があります。支援サービスを活用しながら運営体制を補強する企業も増えており、外部連携を前提にしたビジネス運営が一般化していくかもしれません。
市場全体では、サブスク関連市場が2025年に約1兆5000億円規模まで成長すると予測されており、雇用や転職の流れにも影響を与える見込みがあります。データ分析や顧客体験の設計、運用改善などのスキルを持つ人材は、これからさらに求められていくでしょう。成長を続けるためには、利用者と企業双方にとって負担の少ない仕組みづくりが欠かせず、業界を支える制度や支援策も重要な要素になりそうです。
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