出社回帰で変わる上司と部下の関係、そのメリットと課題

働き方の大きな転換期を迎えるなか、日本企業では出社を軸にした働き方へシフトする方針が目立つようになってきました。テレワークの普及は、通勤負担の軽減や作業効率の向上につながる一方で、組織の一体感が薄れやすいことや、マネジメントの難しさが課題に挙げられていました。総務省の調査では、テレワーク実施率が2021年の56%から2024年には30%前後へ下がり、企業が「対面による関係構築の必要性」を再評価している姿も浮かび上がります。
企業が出社を重視する理由には、情報共有の精度を保ちたい意図や、若手育成を強化したいという組織的な背景があり、コミュニケーションの量と質を高めたい企業、組織文化を再構築したい企業など、その目的は多岐にわたります。
企業が出社回帰を選ぶ背景と目的
企業が出社を重視する理由は一つではありません。経営や業務の特性に応じて、複数の目的が存在しています。
まず、意思決定のスピードと正確さを確保したい意図があります。オンライン会議では、表情や息遣いが伝わらず、議論のテンポが乱れやすい傾向があります。複雑な判断が必要になる場面では、対面のほうが誤解なく情報を処理できるという評価が多く聞かれます。
また、組織文化の継承も大きな理由の一つであり、新人や若手は、先輩の振る舞いや業務の進め方を職場の空気を通して学ぶ機会が必要です。テレワーク期間はこの“非言語の学習”が大きく制限され、育成の遅れを企業が課題として認識したケースもあります。セキュリティ確保を優先した判断も見逃せません。顧客情報を扱う部署では、在宅環境でのデータ扱いにリスクが残りやすく、企業が出社を求める動機となっています。
こうした要因が絡み合い、出社回帰が「組織運営の再強化」という意味を持つようになってきたと考えられます。
出社によって広がるコミュニケーションと学びの機会
オフィスで直接顔を合わせる時間が増えることで、上司と部下の関係は自然と変化していきます。表情や声の調子を目の前で感じ取りながら会話できれば、細かなニュアンスが伝わりやすく、相談や確認のハードルが低くなると考えられます。オンラインでは話しかけるタイミングを探る場面が多く、短い相談でも緊張感が生まれやすかったという声も聞かれています。
出社の増加は、若手育成の観点でも大きな意味を持ち、先輩の働き方や商談への準備、顧客との距離感を間近で観察できることは、暗黙知を学ぶ上で欠かせないものです。こうした情報は画面越しでは得にくいため、対面の環境が若手の成長を後押しする場面が期待されます。
また、組織の心理的な安定にもつながっており、社内アンケートでは「職場にいることでチームの雰囲気を把握しやすくなった」という意見が増えたケースもあり、オフィスは人間関係を自然に確認できる場として作用することがうかがえます。
働き方を再調整する負担と向き合う現場
一方で、出社中心の働き方に戻ると通勤時間の負担が大きくなります。都市部では往復80〜90分が一般的で、家庭や育児と両立してきた人にとって生活の調整が必要になる場面も出てくるはずです。
対面でのコミュニケーションは情報を拾いやすい反面、干渉と受け取られる可能性もあります。リモート期間に自主性を高めて働いていた人ほど、出社の増加によって自由度が低下したと感じることがあり、ストレスの蓄積につながるケースもあります。管理側も、突発的な相談や即時の判断が増えることで負担が偏りやすく、働き方の変化に順応する必要が出てきます。
環境が切り替わる時期は、コミュニケーションの誤解が生じやすいタイミングでもあります。上司と部下の双方が状況に慣れていない期間は、すれ違いが起きやすいため、企業としても相談できる窓口や情報共有の仕組みを整えることが重要になるでしょう。
多様性を前提にした“ハイブリッド型”という選択肢
出社とリモートを組み合わせる働き方は、今後ますます重要性を増していくと思われます。独立行政法人労働政策研究・研修機構の調査でも、企業の半数以上がハイブリッド型を採用しており、働く人の事情に合わせた仕組みを整えようとする動きが続いています。
対面で意見を交わす時間を確保しつつ、自宅で集中して作業するなど、業務内容によって働く場所を柔軟に選べれば、生産性の向上も期待できます。上司と部下の心理的な距離を適度に保ちながら、必要なときにしっかり向き合える関係をつくりやすくなる点も、ハイブリッド型の強みと言えるでしょう。
企業側が取り組むべき課題としては、成果に基づく評価制度や、オンラインでも気軽に相談できる場の仕組みづくりが挙げられます。働く側の事情を尊重しながら調整する姿勢が、ハイブリッド型を継続させる鍵になると考えられます。
まとめ
出社回帰の流れは、働き方の価値観が揺れ動いていることを象徴しているといえます。対面で得られる安心感や学びの機会は大きい一方、通勤の負担や環境の変化によるストレスも避けられません。働く場所を固定するのではなく、その時々の状況に合わせて柔軟に選べる環境が、今後の職場づくりに欠かせない視点になるでしょう。
上司と部下の関係は、働き方が変われば自然と再構築が求められます。相談しやすさを保ち、相手の立場を理解しながら関係を整えていく姿勢が、チームの安心感につながるはずです。出社回帰をきっかけに、働きやすさと組織のまとまりを両立させる新しい関係性が形づくられていくのではないでしょうか。
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