なぜドラッカーは「わかるようで、わからない」のか?
みなさん、こんにちは、勝見靖英です。 普段は製造業のコンサルティングを行いながら、ポッドキャスト「二番経営 -組織を支えるNo.2のひきこもごも-」を配信しています。
皆さんは、ピーター・ドラッカーの本を読んだことがありますか? 「マネジメントの神様」と呼ばれ、『もしドラ』ブームなど日本でも絶大な人気を誇るドラッカー。しかし、多くのビジネスパーソンが、ある「共通の悩み」を抱えています。
それは、「いいことが書いてあるのは分かるが、いまひとつ腹落ちしない」という感覚です 。 なぜ、ドラッカーは「分かるようで、分からない」のか。今回は、ポッドキャスト「二番経営」の視点から、その謎を解き明かし、名著『現代の経営』の深層に迫ります。
なぜ「腹落ち」しないのか?その正体
書店に行けばドラッカーのコーナーがあり、多くの解説書が並んでいます。言葉自体は平易で分かりやすい。それなのに、読み終わった後に「分かったような、分からないような」感覚が残る 。
実は本国アメリカの経営学者ですら「ドラッカーを読んでいる人はほとんどいない」と語ることがあるほど、この「理解のギャップ」は根深い問題なのです 。

このモヤモヤを解消し、ドラッカーを真に理解するためには、3つの「鍵(視点)」が必要です 。それは、彼の思想が生まれた「背景」、彼独自の「アプローチ」、そして独特な「言葉の定義」です 。

鍵① 背景:すべては「文明の終わり」から始まった
ドラッカーを理解する上で最も重要なのが、彼が生きた時代背景です。 1909年、彼はオーストリア・ハンガリー帝国の首都ウィーンで生まれました 。5歳の時、第一次世界大戦が勃発。父たちが「これはハプスブルク家の終わりではなく、文明の終わりだ」と語るのを聞き、国の解体と社会の崩壊を目の当たりにしました 。

この原体験から、彼の生涯を貫く問いが生まれます。それは「人が幸せになる社会とは何か?」という問いです 。 彼は、資本主義も、社会主義も、そして当時台頭していた全体主義(ファシズム)も、人々を幸せにすることはできないと見抜いていました 。
そこで彼が見出した希望、それこそが「組織」だったのです 。 崩壊したコミュニティに代わり、現代社会において人々の幸福と成果を実現する機関。それが企業をはじめとする「組織」である。だからこそ、彼の経営学は単なる金儲けのノウハウではなく、人間と社会を良くするための「実践哲学」なのです 。

鍵② アプローチ:「社会生態学者」という視点
多くの学者がデータや科学的証明から結論を導くのに対し、ドラッカーは自らを「社会生態学者」と称しました 。 彼は現実の社会や企業を徹底的に「観察」し、そこから本質を見抜きます 。だからこそ、彼の著作は無味乾燥なデータレポートではなく、深い洞察に満ちた結晶となっているのです。

鍵③ 言葉の定義:同じ言葉、違う意味
ドラッカーが難解なのは、私たちが普段使う言葉と、彼が使う言葉の定義が微妙にズレているからでもあります 。
例えば「マネジメント」。一般的には「経営陣」を指すことが多いですが、ドラッカーはこれを「成果を上げるための道具・機能・機関」と定義します 。 「マネージャー」も単なる役職名ではなく、「人の仕事に責任を持つ者」を指します 。この定義のズレを修正するだけで、彼の言葉は驚くほどクリアに響いてきます。

不朽の名著『現代の経営』を読み解く
これら3つの鍵を持って、1954年の名著『現代の経営(The Practice of Management)』を開いてみましょう 。マネジメントを初めて体系化した、彼の最高傑作の1つです。

ここで語られる企業の目的。それは「利益の追求」ではありません。 ドラッカーは断言します。「企業の目的は、顧客の創造である」と 。 利益とは目的ではなく、企業が存続し、未来へ投資するための「条件」に過ぎないのです 。
そして、顧客を創造するために企業が持つべき2つの機能が、「マーケティング」と「イノベーション」です 。

組織を動かす「マネジメント」の正体
では、マネジメントとは具体的に何をする機能なのでしょうか。ドラッカーは以下の3つを挙げています 。
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事業のマネジメント:顧客を創造し、経済的な成果をあげる 。
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マネージャーのマネジメント:明日のマネージャーを育成する 。
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人と仕事のマネジメント:人の強みを生かし、仕事を生産的にする 。

これを実践レベルに落とし込むと、常に2つの問いに向き合うことになります。
一つは、「我々の事業は何か?」という問い 。 顧客視点で自分たちの事業を定義し直し、短期と長期のバランスを取る必要があります 。
もう一つは、「凡人が非凡な成果を出す」組織を作ること 。 働く人の動機付けは、報酬などの「満足」ではなく、仕事への「責任」から生まれると彼は説きます 。人の「強み」を最大限に生かし、凡人でも天才のような成果が出せる仕組みを作ることこそが、マネジメントの真髄です。

組織のNo.2にとっての「羅針盤」
ドラッカーの言葉は、組織のトップ(No.1)だけでなく、それを支えるNo.2にこそ響くものです 。 トップが掲げるビジョンを現実のものとするために、組織というエンジンをどう設計し、どう動かすか。 「凡人が非凡な成果を出す」環境を整え、組織を未来へ導くための、これ以上なく実践的な「力」となるはずです 。

ドラッカーが生涯問い続けた「人が幸せになる社会とは何か?」という問い 。 私たちもまた、日々の経営を通じてこの問いに向き合い続けていく必要があります。「二番経営」のポッドキャストでは、こうした経営のヒントを深掘りしています。ぜひ、音声でもお楽しみください。

この記事は、ポッドキャスト番組「二番経営」の#80~82「No.2視点のピーター・ドラッカー」の内容をベースに執筆した記事です。よろしければポッドキャストも聴いてみて下さい。
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著者:勝見 靖英(株式会社オーツー・パートナーズ取締役)
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