ジョブ型雇用が定着する時代に問われる「専門性」の新しい定義
ジョブ型雇用が定着する時代に起きている、働き方の変動
日本の雇用慣行はいま、歴史的な転換点に差しかかっているといえるでしょう。長く主流だったメンバーシップ型雇用から、職務内容と責任を明確に定義するジョブ型雇用への移行は、人事制度の話題にとどまらず、働く個人の価値観やキャリア観そのものを揺さぶっています。
パーソル総合研究所の調査では、ジョブ型雇用を「導入済み」または「導入を検討している」と回答した企業は大企業を中心に過半数を超えています。この動きの背景には、DXの進展による高度専門人材の不足や、グローバル競争下で迅速な意思決定を迫られる経営環境があります。人を長期的に囲い込み育てる余裕よりも、必要なスキルを必要なタイミングで確保する合理性が優先され始めています。
こうした変化の中で注目すべきなのは、ジョブ・ディスクリプションの整備そのものよりも、「専門性」という言葉の意味が変わりつつある点ではないでしょうか。かつては「同じ部署で長く働いた経験」が専門性と見なされてきましたが、現在はその前提が揺らぎ始めています。時間の長さではなく、その期間にどのような成果を生み出したのかが、より強く問われる時代に入ったと考えられます。
経験年数では測れない時代へ、専門性は「成果」で語られる
専門性という言葉は、しばしば知識量や経験年数と結びつけて語られます。しかし、情報へのアクセスが容易になった現代において、知識そのものは希少性を失いつつあります。ジョブ型雇用のもとで評価される専門性とは、特定領域で再現性のある成果を生み出せる力だと捉える方が実態に近いと思われます。
リクルート系の中途採用分析でも、「即戦力」として評価される基準は、業界経験の長さよりも、具体的な課題解決の実績へとシフトしている傾向が示されています。たとえば、マーケティング分野では「◯年勤務」という経歴よりも、「顧客獲得単価を30%改善し、売上を1.2倍に伸ばした」といった定量的な成果が、はるかに強い説得力を持ちます。
これは、専門性の評価軸がプロセス中心からアウトカム中心へ移行していることを意味します。職務を無難にこなすだけではなく、その領域でどのような変化を起こし、どの指標を動かしたのか。こうした実績の積み重ねが、ジョブ型社会における信頼の基盤になっていくのでしょう。専門性を「知っていること」ではなく「実行できること」として捉え直す視点が、これからのキャリア形成では欠かせなくなります。
実績がもたらすキャリアの自立と、企業との新しい関係
成果に裏打ちされた専門性を持つようになると、個人のキャリア意識も大きく変化します。会社への帰属を前提とした働き方から、自身の価値を市場に提示する働き方へと軸足が移るためです。これは「就社」から「就職」への転換とも言い換えられるでしょう。
OECDのデータを見ると、ジョブ型雇用が浸透している国ほど労働移動が活発であり、同時にスキル向上への投資意欲も高い傾向があります。流動性が高い環境では、個人は常に自らの市場価値を意識せざるを得ず、その結果として学び直しや能力開発が促進されると考えられます。日本においても、特定領域で実績を積み上げることは、不確実な経済環境への有効なリスクヘッジとなるでしょう。企業側にとっても、従来型の一律管理より、高い専門性を持つ人材と対等な関係を築く方が競争力を高めやすい局面が増えています。専門性の再定義は、個人と企業の関係をより健全で柔軟なものへ変えていくプロセスだといえます。
学び続ける力が専門性を育てる、ジョブ型時代のマインドセット
ジョブ型雇用が定着する社会では、一度獲得した専門性に安住することは難しくなります。技術や市場環境の変化が速いため、数年前の成功体験がそのまま通用し続ける保証はありません。そのため、自身の市場価値を定期的に見直し、学びを更新し続ける姿勢が重要になるでしょう。
厚生労働省の能力開発基本調査でも、自己啓発に取り組む人ほど職務満足度や年収が高い傾向が示されています。ただし、ここで求められる学びは、資格取得や座学だけでは不十分です。実務の中で新しい手法を試し、仮説検証を繰り返しながら成果につなげる実践的な学習こそが、専門性を磨く近道だと考えられます。
さらに、専門領域を縦に深めるだけでなく、隣接分野との掛け合わせによって独自性を生み出す視点も重要になります。一つの分野で確かな実績を持ちながら、別の文脈で応用できる柔軟性が、ジョブ型社会における強い適応力を育てます。
専門性の再定義とは、自分が社会にどのような価値を提供できるのかを問い続ける営みそのものです。会社の看板を外したときに語れる実績を持つことが、これからの時代を生き抜く大きな支えになるのではないでしょうか。
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