予期せぬ出来事が成功の鍵になる?キャリアにおける「幸運」の引き寄せ方

偶然を設計するという発想がキャリアの地図を描き替える

将来のために計画を立て、目標に向かって努力を積み重ねることは、長く王道のキャリア形成と考えられてきました。しかし、テクノロジーの進展や産業構造の変化が加速する社会では、数年先の仕事の姿さえ大きく変わる可能性があります。世界経済フォーラムの「Future of Jobs Report」では、今後数年で現在の職務内容の相当部分が変化し、新たな職種が多数生まれると予測されています。こうした環境において、当初描いた計画だけに依拠する姿勢が十分なのかと感じる場面もあるのではないでしょうか。不確実性が高まる時代には、計画と同時に“偶然を活かす力”を備えることが、結果として安定につながると考えられます。

スタンフォード大学のジョン・D・クランボルツ教授が提唱した「プランド・ハプンスタンス理論(計画的偶発性理論)」は、その視点を体系化した理論です。クランボルツらの研究によれば、多くの社会人が現在の職業選択において予期せぬ出来事の影響を受けたと回答しており、代表的な調査では約8割が偶発的な要因を転機として挙げています。この結果は、キャリアが必ずしも直線的な努力の延長ではなく、思いがけない出会いや経験によって形成される側面を持つことを示しているといえます。

重要なのは、偶然を待つ姿勢ではなく、偶然が起こりやすい環境に身を置く選択を重ねる点にあります。変化を拒まず、未知の領域に目を向けることで、思いもよらない接点が生まれる可能性が高まるのではないでしょうか。

 

五つの行動特性が広げる可能性の輪郭

プランド・ハプンスタンス理論では、好奇心、持続性、柔軟性、楽観性、冒険心という五つの特性が鍵になると整理されています。これらは特別な才能というより、日々の選択によって育まれる姿勢といえます。

好奇心は、自分の専門外にも視野を広げる態度です。異分野の勉強会や社外コミュニティへの参加は、直接的な成果がすぐに見えないこともありますが、将来的なつながりを生む土壌になると考えられます。持続性は、失敗や停滞に直面しても試行を続ける力です。心理学やキャリア研究では、挑戦回数の多さが機会獲得の確率を高める傾向があると示されています。柔軟性は、当初の目標に固執しすぎないことを意味し、市場の変化に応じて方向転換できる人材は、長期的な適応力を持ちやすいといわれています。

楽観性は、出来事の意味づけに関わります。出来事を前向きに解釈できる人は、その後の行動量が増える傾向があると報告されています。冒険心は、小さなリスクを取る姿勢であり、新しい業務に手を挙げる、未知のテーマを学ぶといった行動が積み重なることで、偶然の交点が増えていくと考えられます。
これらの特性は、環境に左右されるものではなく、日常の意識と選択の積み重ねによって培われるものといえるでしょう。

 

転機の背景にある準備と発信の力

転職やキャリアチェンジの場面でも、偶然の影響は小さくありません。厚生労働省の雇用動向調査によれば、転職入職経路の中で「知人の紹介」や「縁故」は一定の割合を占めています。人とのつながりが職業選択に関わる現実は、統計からも読み取れます。

ただし、偶然の誘いが成果につながるかどうかは、日頃の準備に左右されます。自分の関心や強みを周囲に伝えている人は、声がかかりやすい傾向があると考えられます。キャリア理論では、自己概念の明確化が機会活用の前提条件とされています。偶然は無秩序に訪れるというより、行動の延長線上に現れるものと捉えるほうが実態に近いのではないでしょうか。

基礎的なスキルを磨き続ける姿勢と、新しい可能性に対する開放性が両立したとき、偶発的な出来事は単なる出来事にとどまらず、転機へと発展する可能性が高まります。努力と偶然は対立する概念ではなく、相互に作用する関係にあるといえます。

 

不確実性を力に変える視点の転換

組織の観点から見ても、偶発性を受け入れる文化は重要性を増しています。イノベーション研究では、異分野の接触や予想外の課題が新たな発想の源泉になることが示されています。複雑性の高い環境では、厳密な長期計画よりも、変化に応じて軌道修正できる適応力が成果に結びつきやすいと報告されています。

将来への不安は自然な感情ですが、正解を探し続けるよりも、小さな挑戦を重ねる姿勢のほうが選択肢を広げやすいのではないでしょうか。不確実性を排除することは困難ですが、その中に含まれる機会を見出す視点を持つことで、キャリアの可能性は着実に広がっていくと考えられます。

偶然を味方につけるという発想は、運任せに身を委ねることではありません。出会いの総量を増やし、挑戦を重ね、出来事の意味を前向きに解釈する。その積み重ねが、振り返ったときに一本の道筋として浮かび上がるのではないでしょうか。変化の激しい時代だからこそ、計画と柔軟性を両立させる姿勢が、これからのキャリアを支える確かな土台になると考えられます。

カテゴリ
ビジネス・キャリア

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