見落とされがちな“ネット上の財産”を守るには

日々の暮らしの中で、私たちは無意識のうちに多くの情報をデジタル上に残しています。スマートフォンに保存された写真、ネットバンキングの口座、SNSでのやりとり、クラウドに保管した文書。これらはすべて、私たちが亡くなった後に「デジタル遺品」として残されるものです。
紙の通帳や印鑑のように目に見える形ではないため、遺族がその存在に気づけないケースも少なくありません。さらに、アクセス権限がパスワードで保護されていることから、たとえ家族であっても内容を確認できないまま“失われる”リスクが潜んでいます。

 

「見えない遺品」が残された人を困らせる時代へ

かつて遺品といえば、実物の手紙、預金通帳、アルバムといった形あるものでした。しかし現在では、インターネットサービスの利用拡大により、個人の思い出や資産がクラウドやサーバーに格納されています。たとえば、次のようなものがデジタル遺品に該当します。

  • SNS(Instagram、X、LINEなど)の投稿、メッセージ履歴

  • GmailやiCloud、Dropboxなどのメール・ファイル保管サービス

  • ネット証券や仮想通貨ウォレットといった資産情報

  • 写真・動画のデータ、日記アプリの記録

  • ECサイトのアカウント、保有ポイント、購入履歴

  • 有料動画・音楽配信サービスの契約情報

こうした情報は、日常的に私たちが活用しているものである一方で、亡くなった後に誰もアクセスできなければ、資産的価値や思い出の記録がすべて失われてしまうことになります。

 

放置されたデジタル遺品が引き起こすリアルな問題

デジタル遺品を適切に整理しないまま放置すると、家族や関係者にさまざまな負担を与える可能性があります。
まず、データの喪失という問題があります。子どもの成長記録や家族旅行の動画など、クラウドに保存されたデータにアクセスできなくなることで、二度と取り戻せない記憶が失われてしまうことがあります。特に最近ではスマートフォン一つで撮影から保存まで完結するため、写真をプリントしていない家庭も多く、クラウドサービスに依存している傾向が顕著です。

また、経済的な損失を引き起こす可能性があります。例えば、ネット証券口座に資産が残っているにもかかわらず、ログイン情報が不明なまま相続できない場合、その資産は実質的に“無価値”になってしまいます。仮想通貨については、ブロックチェーンの仕組みによって本人以外がアクセスすることは極めて困難であり、パスフレーズの所在が明らかでなければ資産は永久に凍結されます。また、SNSアカウントが乗っ取られ、詐欺やスパム投稿に悪用されるリスクもあります。遺族にとっては精神的にも大きな負担となりかねません。

 

生前にできる備え:安全にデジタル資産を遺す方法

こうした問題を回避するには、生きているうちの準備が何より重要です。以下の対策を順を追って実行していくことで、万が一のときにも安心して家族に引き継ぐことが可能になります。

デジタル資産の“棚卸し”をする

第一に行うべきは、自分が保有するすべてのアカウントやサービスをリスト化することです。SNSやメール、サブスク、銀行、証券会社、仮想通貨、オンラインショップなど、思いつくかぎりのサービスを漏れなく書き出します。

サービス名、ログインID、登録メールアドレス、契約内容、重要性(相続対象、削除希望など)といった情報もあわせて記録しておくとよいでしょう。紙に記載する方法でも構いませんが、更新や安全性を考えると、デジタルノートやパスワード管理アプリを使ったほうが現実的です。

情報の管理は「一元化」と「信頼」がカギ

アカウント情報やパスワードは、セキュリティ面を考慮しつつも、家族が引き継げるようにしておく必要があります。近年普及しているパスワード管理アプリ(例:1Password、Bitwardenなど)は、1つのマスターパスワードで複数の情報を管理できるうえ、共有機能や緊急アクセス設定もあるため、デジタル遺品対策に最適です。これらの情報を「信頼できる相手」に託すことも忘れてはなりません。相手は家族でも、相続専門の弁護士でも構いません。内容を誰がいつ、どのように扱うかを明確にしておくことが大切です。

デジタル遺言の作成で“想い”も残す

形式的な遺言書では対応できないのが、デジタル遺品の厄介なところです。多くの法律では、IDやパスワードそのものは“財産”とは見なされないため、通常の遺言に記載しても効力が不明確な場合があります。
そこで有効なのが、「デジタル遺言」という形式です。これは、アカウントの所在、アクセス方法、削除または保存の意志、残された人へのメッセージなどをまとめた文書で、形式は問われません。ただし、より確実な引き継ぎを希望する場合は、弁護士を通じた公正証書遺言に組み込むことをおすすめします。

 
まとめ:デジタル資産は“第二の財産”としての視点を

デジタル遺品は、単なる“情報”ではありません。それは、あなたの人生の軌跡であり、場合によっては大切な資産でもあります。だからこそ、亡くなったあとに残された人が困らないよう、いまからできることに目を向けることが大切です。

人生の終わりは誰にでも訪れますが、そのときに「整理されたかたちで想いが引き継がれる」ことこそ、現代における新しい“思いやり”の形ではないでしょうか。

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