「ゼロトラスト」ってなに?企業セキュリティの新常識
テレワークの普及やクラウドサービスの一般化が進む現代において、企業が抱えるセキュリティリスクはこれまで以上に複雑化しています。情報資産が社内のみにとどまらず、インターネット上やモバイル端末、外部サービスにも広がったことで、「何を、どこまで、どう守るか」の判断がより難しくなっています。
そのような時代背景の中で、注目を集めているのが「ゼロトラスト(Zero Trust)」というセキュリティモデルです。これは、従来のように「一度認証されれば信頼する」仕組みではなく、「すべてのアクセスを最初から疑い、都度検証する」ことを前提としています。
「境界」で守れない時代に登場したゼロトラスト
従来のセキュリティ対策は、社内ネットワークと社外を分けて考える「境界型モデル」が主流でした。たとえばファイアウォールを設置して、社外からのアクセスを遮断し、社内にいるユーザーや端末は「安全」とみなすのが基本的な方針でした。
しかし、テレワークの急増、スマートフォンやノートパソコンの業務利用、そしてSaaSを中心としたクラウドサービスの拡大により、「社内と社外」という境界線そのものが曖昧になっています。加えて、社内ユーザーによる不正アクセスや誤操作による情報漏えいも問題視されており、「内部だから安全」という前提そのものが崩れてきました。こうした背景から登場したのが、「すべての通信やアクセスを信用せず、常に検証する」ことを原則とするゼロトラストの考え方です。
ゼロトラストとは?本質をやさしく解説
ゼロトラストとは、その名の通り「信頼を前提としない」セキュリティモデルです。たとえ社内ネットワークに接続している端末やユーザーであっても、それが安全であると自動的には判断しません。常に「それは誰か?」「安全な端末か?」「そのアクセスは妥当か?」と確認を行い、適切でなければアクセスを遮断する仕組みです。この概念は、アメリカのIT調査会社Forresterが2009年に提唱し、近年になってようやく日本国内でも本格的に取り入れられ始めています。
ゼロトラストの運用では、次のような原則が重要視されます。
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常に確認する(Verify Always)
すべてのユーザーや端末、アプリケーションに対してアクセスの都度、認証と検証を行います。 -
最小権限アクセス(Least Privilege Access)
ユーザーやアプリケーションに与える権限は、必要最小限にとどめることで万が一の被害を最小化します。 -
マイクロセグメンテーション
ネットワークやシステムを細かく区切り、万が一侵害されても影響を局所的に抑えます。
ゼロトラストを導入するメリット
ゼロトラストの導入によって、企業はさまざまな利点を享受できます。まず、サイバー攻撃に対する耐性が高まることが挙げられます。不正アクセスがあっても、一度侵入されたからといって他の資産に影響を及ぼしにくく、迅速に封じ込めることが可能です。
また、柔軟な働き方への対応も容易になります。テレワークやBYOD(私物端末の業務利用)などの多様な勤務形態に対応しながら、安全性を確保できます。さらに、法令や規制対応という観点でも効果的です。GDPRや個人情報保護法などへの適切な対応を実現できるため、企業の信用力向上にもつながります。
「ゼロトラストは大企業向け」という印象を持つ方も多いですが、近年では中小企業向けのクラウド型セキュリティサービスも充実しています。Microsoft 365やGoogle Workspaceなどには、ゼロトラストの概念に基づいたアクセス管理機能が標準で備わっており、コストを抑えての導入も可能になっています。
導入ステップ:ゼロトラストはどう実践する?
ゼロトラストの導入には段階的な取り組みが必要です。一度にすべてを切り替えるのではなく、既存のシステムに徐々に取り入れていくのが現実的な方法です。
ステップ1:アセットの可視化
まずは、社内にどのようなユーザー、端末、アプリケーションが存在し、それぞれがどこにアクセスしているのかを可視化します。この作業によって、不要な権限やリスクの高い設定が浮き彫りになります。
ステップ2:多要素認証(MFA)の導入
パスワードに依存した認証方法は非常に脆弱です。そこで、スマホアプリや生体認証を使った多要素認証を導入し、不正ログインを防ぎます。
ステップ3:アクセス制御ポリシーの設計
ユーザーの役割、接続元のIPアドレス、使用する端末、利用する時間帯など、さまざまな条件に応じて細かくアクセス権を定義し、動的に制御する仕組みを構築します。
まとめ:信頼ではなく「確認」する時代へ
ゼロトラストは、単なるセキュリティ対策の一手段ではなく、企業の情報管理に対する根本的な姿勢の転換を意味します。信頼を前提とせず、アクセスのたびに「確認」し、必要最小限の情報にのみアクセスさせるという姿勢は、組織の透明性や信頼性にも直結します。
サイバーリスクが高まる今、企業の規模や業種を問わず、ゼロトラストは「検討すべき未来」ではなく、「すでに始めるべき現在」の対応と言えるでしょう。まずは社内のアカウント管理や端末状況の見直しから、第一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。
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