EU圏内でSIMは共通?ローミング無料化の恩恵とは

ヨーロッパを旅するとき、スマートフォンの通信手段をどうするかは、旅の快適さを左右する大切なポイントです。日本国内で使っているSIMカードをそのまま持ち込んでも問題はないのか、あるいは現地でプリペイドSIMを調達したほうがよいのか、またはWi-Fiルーターを借りるべきか——そんな通信環境の選択は、旅行前の大きな悩みのひとつです。
そんな中で注目されているのが、EU(欧州連合)内で導入されている「ローミング無料化」の制度です。この制度を上手に活用すれば、複数の国を周遊してもSIMカードを入れ替えることなく、安定した通信を保つことができます。

 

ローミングとは?海外通信の仕組みを知る

ローミングとは、自国の通信会社との契約を維持したまま、海外で通信や通話を可能にする仕組みです。たとえば、日本の携帯会社と契約したSIMカードを入れたスマートフォンで、フランスやイタリアを旅行しても、現地の通信会社の回線を借りることで、通話やインターネットを利用することができます。

ただし、以前まではこのローミングに高額な追加料金が発生するケースが多く、特にデータ通信については、数分アプリを使っただけで数千円から数万円の請求が届くことも珍しくありませんでした。こうした事情から、多くの旅行者は現地でSIMカードを購入するか、ポケットWi-Fiをレンタルして対処してきました。
しかし、EU内ではこの状況が大きく変わりました。旅行者にとって嬉しい制度として知られる「ローミング無料化」によって、EU圏内での通信環境は格段に改善されています。

 

EUのローミング無料化制度とその進化

EUでは、2017年に「Roam Like at Home」という施策が導入され、加盟国間でのローミング料金が基本的に無料となりました。これにより、スペインで契約した携帯電話を持ってフランスやドイツを訪れても、追加料金なしでそのまま通話やデータ通信が利用できます。
この制度はEU27か国だけでなく、アイスランドやノルウェー、リヒテンシュタインといった欧州経済領域(EEA)諸国も対象となっており、旅行者にとって非常に利便性の高い仕組みといえるでしょう。さらに2025年には、欧州委員会がウクライナとモルドバを2026年から制度の対象に加える方針を示しており、今後ますますその適用範囲が広がる見込みです。

この制度自体も強化が続けられており、2022年の新たな規則により、ローミング無料化は少なくとも2032年まで継続されることが決まっています。旅行者にとって安心してスマートフォンを活用できる環境が、着実に整備されているといえるでしょう。

 
フェアユースポリシーと実際の使い方

便利な制度ではありますが、「無制限で使い放題」というわけではありません。EUではフェアユースポリシー(公正利用の原則)が定められており、通信会社ごとにローミング中のデータ使用量に上限が設定されています。

月額30ユーロのモバイルプランであれば、EU域内のローミングでは約36GBまで利用できるといったルールがあり、それを超えると追加料金が発生する場合があります。また、2025年時点でのデータ通信の卸売価格は1.30ユーロ/GBで、2027年には1ユーロ/GBへと段階的に引き下げられる予定です。この価格は通信会社間の取引価格であり、将来的には利用者への価格にも影響すると見られています。
さらに、旅行ではなく、EU域内のある国に長期間滞在してローミングを使い続ける場合、通信会社から警告や制限がかかることもあります。一般的には4か月間で「自国内よりも多く利用した」と判断されると、追加料金が発生する可能性があるとされています。こうした制限はあるものの、観光や短期滞在での利用であれば、ほとんどのケースで快適に使えるのが実情です。

イギリスは対象外?注意しておきたい点

注意すべき点として、イギリス(UK)はEU離脱によりこの制度の対象外となっています。したがって、イギリス国内では通信会社ごとにローミング料金が設定されており、無料で使えるとは限りません。
たとえば、O2は現在もEU圏内同様のローミング無料サービスを提供していますが、EEやVodafoneなどは1日あたり2〜2.5ポンドの課金制を導入しており、事前の確認が欠かせません。イギリスにも立ち寄る旅程の場合は、対応キャリアやプランの詳細を確認しておくと安心です。

 
通信手段の選び方:eSIMやWi-Fiとの比較

EU旅行においてローミング無料化は強力な選択肢ですが、すべての人にとって最適とは限りません。

たとえば…

  • 短期で複数国を巡る旅 → ローミング無料制度を活用するのが便利でスムーズです。

  • 長期間1国に滞在 or 大容量データ使用 → 現地のプリペイドSIMやeSIMがおすすめです。

  • スマホがeSIM対応であれば → 渡航前にeSIMを契約しておくことで空港到着後すぐ通信可能です。

  • 複数人で旅行する場合 → ポケットWi-Fiルーターを活用すると通信をシェアできコストを抑えられます。

それぞれの手段にはメリット・デメリットがあり、通信量・期間・訪問国の数によって適切な選択肢は異なります。

 
まとめ:通信制度を活用して、ヨーロッパ旅行をもっと自由に

EU圏内で導入されているローミング無料化制度は、旅行者にとって非常に大きな恩恵をもたらしています。国境を越えても追加料金を気にせずスマートフォンを使えるというのは、旅の自由度を格段に高めてくれます。制度の延長や適用国の拡大により、今後さらに便利になっていくことが期待されます。
ただし、すべてのケースでローミングがベストな選択とは限らず、滞在期間や通信スタイルによってはeSIMや現地SIM、ポケットWi-Fiといった別の方法が適している場合もあります。自分の旅に合った通信手段を選ぶことが、安心で快適なヨーロッパ旅行の第一歩になるでしょう。

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パソコン・スマートフォン

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