見た目は普通のメガネ、中身はAI──最新スマートグラス事情
一見してごく普通のメガネ。しかし、その内側にはAIアシスタント、高性能カメラ、音声認識機能、ARディスプレイなど、驚くほど多機能なテクノロジーが詰まっています。いま「スマートグラス」と呼ばれるこのアイウエアが、静かに私たちの暮らしに変化をもたらし始めています。手に持たず、画面に触れず、視界に直接情報が流れ込む体験は、スマートフォン以来の大きな進化かもしれません。
ここ数年のスマートグラス市場には、MetaやAppleといった巨大IT企業から、日本発のブランドまでが参入し、多様な製品が登場しています。
スマートグラスとは何か?進化する“かけるデバイス”
スマートグラスは、ARやAI技術を搭載した次世代のウェアラブル端末で、視界に情報を重ねて表示したり、音声で操作したりできる点が特徴です。デバイスによっては視線追跡や音声認識も可能で、両手がふさがった状態でも操作が行えるため、仕事や日常生活の中で“ながら”操作を可能にする存在として注目されています。
最近登場したRay-BanとMetaのコラボモデルは、一般的なサングラスのデザインを保ちながらも、内蔵カメラで撮影やライブ配信ができ、AI音声アシスタントとも連携しています。カメラ越しに見える景色に対してAIがリアルタイムで情報を補完し、ユーザーの疑問に応じて視界上に答えを返してくれるなど、「見ること」が「知ること」とシームレスにつながる体験を実現しています。
アイウエアとしての自然な装着感を保ちつつ、軽量かつバッテリー性能も改善されてきており、日常的に使いやすいモデルが増えてきました。こうした進化は、かつての「未来的ガジェット」から、「生活の道具」へとスマートグラスの立ち位置を変えつつあります。
SNS・ライブ配信との親和性とマーケティングへの応用
スマートグラスが多くの若年層に受け入れられている理由のひとつに、SNSとの高い親和性があります。手ぶれのない目線動画をそのままリアルタイム配信できる機能は、従来のスマートフォンやアクションカメラでは難しかった体験を可能にしています。
米国では人気インフルエンサーがライブ配信やVlog撮影にスマートグラスを活用し、視聴者に“まるでその場にいるような没入感”を届けるコンテンツが広がっています。特にZ世代にとっては、リアルタイム性と臨場感を兼ね備えた発信ツールとして、スマートグラスが魅力的に映っているようです。
企業もこの点に注目し、マーケティングの現場にスマートグラスを取り入れ始めています。たとえば、スポーツブランドがアスリートの目線でトレーニング風景を撮影し、視聴者に体験の臨場感をそのまま伝える試みや、観光地での体験型プロモーションに活用される事例もあります。特定の視点からの映像は、製品やサービスの魅力をストーリーとして届ける手段として非常に効果的です。
ブランド戦略とスマートグラスのファッション化
このところのスマートグラスは、単に高機能であるだけでなく、見た目にもこだわった製品が増えています。Ray-BanやGUCCIといったファッションブランドとのコラボレーションは、ガジェット感を払拭し、“かけることが楽しい”プロダクトへと進化させました。
たとえばRay-Ban Meta Smart Glassesは、クラシックなWayfarer型やRound型などのフレームをベースに、内部にAIアシスタントやHDカメラ、スピーカーを内蔵しています。それでいて重量は約50g前後に抑えられており、通常のメガネと変わらない装着感を実現しています。
日本国内でも、JINS MEMEシリーズなど健康管理や集中力の可視化に特化したスマートグラスが展開されており、眼鏡メーカーが持つデザイン性と技術の融合が進んでいます。アイウエアの延長線上にスマートグラスを位置づけることで、日常に自然と馴染む製品として広まりやすくなっています。
市場動向と今後の可能性
スマートグラスの世界市場は、2024年に約72億ドル規模に達し、2028年には倍以上の150億ドルを超えると見込まれています(Statista調査)。BtoB分野では、遠隔支援や工場での作業効率化、医療や介護現場での支援など実用的な導入が進んでおり、すでに一部の現場では欠かせない存在になりつつあります。
一方で、一般消費者向けにはプライバシー保護や価格帯、充電持続時間といった課題が依然として残っています。とくにカメラの使用に関しては、撮影されていることが周囲に伝わりにくいため、法的・倫理的なルール整備も求められています。
それでも、AIの急速な進化により、音声認識や翻訳精度、視覚認識能力は日々向上しており、“かけるだけで情報が手に入る”体験は確実に現実に近づいています。スマートグラスは今後、単なるガジェットではなく、視覚や知覚を拡張する「知的ウェアラブル」として、暮らしのあらゆるシーンに入り込んでいく可能性を秘めています。
まとめ
今後さらに、スマートグラスは見た目の自然さと高機能性を両立させながら進化していくでしょう。装着することに抵抗がないデザインでありながら、日常に不可欠な機能を提供するこのテクノロジーは、私たちの視点を文字通り変えていく存在になりそうです。次に目にする「普通のメガネ」が、実は最先端のAIツールである可能性も、そう遠くない未来にやってくるのかもしれません。
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