移民政策の国際比較:日本はどこまで開かれているか
人口減少と高齢化が急速に進む日本にとって、外国人材の受け入れは避けて通れないテーマとなっています。かつては「単純労働者は受け入れない」としてきた日本政府も、近年では技能実習制度や特定技能制度を通じて、事実上の移民政策を段階的に進めつつあります。しかし、制度の曖昧さや受け入れ体制の整備不足により、移民の定着や社会統合には多くの課題が残されています。
一方、アメリカやEU、カナダ、オーストラリアといった移民大国では、制度としての移民政策が確立しており、経済や地域社会の活性化に寄与しています。これらの国々の事例を比較することで、日本の移民政策が国際的に見てどのような立ち位置にあるのか、また今後どのように改善していくべきかが見えてきます。
日本の制度と現実:形はあるが、共生の仕組みが伴っていない
2023年末時点で、日本の在留外国人数は約340万人となり、過去最多を更新しました。建設、介護、農業、飲食業など、特に人手不足が深刻な分野において、技能実習生や特定技能の外国人が急増しています。特定技能制度は、2019年に導入された比較的新しい枠組みで、一定の日本語能力や技能試験に合格した人材が最大5年滞在できる制度です。さらに「特定技能2号」では、在留期間の上限撤廃や家族の帯同も可能となり、制度上は定住への道が開かれつつあります。
しかしながら、こうした制度の運用には依然として課題が残ります。たとえば技能実習制度では、名目上「人材育成」や「国際貢献」が掲げられているものの、実態としては安価な労働力として利用されるケースも少なくありません。劣悪な労働環境、長時間労働、賃金未払いといった問題が度々報道されており、制度そのものの見直しが求められています。
日本語教育の支援が不十分であることや、地域住民との関係構築の機会が乏しい点も、移民の定着や共生を妨げる要因となっています。一部の自治体では多言語対応窓口や日本語教室、医療通訳などの支援策が進められていますが、それらはあくまで例外的であり、全国的な標準とは言えません。
アメリカとEU:移民を「社会の一員」として迎える制度と実践
アメリカは世界最大の移民国家であり、2023年には約4,780万人の移民が暮らしており、それは全人口の約14.3%を占めています。さらに、2025年1月時点の調査では外国出生人口は5,330万人、割合にして15.8%と過去最高を記録しており、特にバイデン政権下で8.3百万人の純増があったと報じられています。この増加は、米国の移民が人口増、労働市場、経済成長を支える重要な柱となっていることを示しています。
移民は農業や建設業、介護、サービス業などの現場を支えるだけでなく、ITや医療などの先端分野でも重要な役割を果たしています。特にH-1Bビザを通じた高度人材の受け入れは、経済成長戦略の一部となっており、グリーンカード制度や市民権取得プロセスも整備されています。
EUでも移民・庇護政策は大きな転換期を迎えています。2024年に採択された「移民・庇護パクト」は、外部国境管理の強化、庇護審査の迅速化、加盟国間での受け入れ分担を柱とする包括的な枠組みです。2026年の制度本格施行を目指し、移民の公平な受け入れと送還制度の効率化を進めています。
また、ドイツやフランスなどでは、語学研修や職業訓練、住宅支援、子どもへの教育サポートなどが制度化されており、受け入れ後の統合が重視されています。EUは移民を社会に組み込むことを前提とし、「共に生きる」ための支援体制を国全体で共有しようとしています。
日本が学ぶべきカナダ・オーストラリアの柔軟かつ戦略的なモデル
カナダでは2023年に約46万人の移民が新規に受け入れられ、人口の約1.2%を占めました。移民政策の中核にあるのは「ポイント制」です。年齢、学歴、語学力、職歴などを評価し、国家が必要とする人材を戦略的に受け入れる仕組みが確立されています。そして、多文化主義を掲げ、文化や宗教の多様性を尊重する社会づくりが進んでおり、トロントやバンクーバーなどでは、公共施設や行政窓口で多言語対応が整備され、移民が生活しやすい環境が整っています。
オーストラリアも同様にポイント制を採用しており、2022年には約20万人の移民が永住権を取得しました。特に地方都市への移住を促進する制度や、移住者の語学教育・職業訓練への支援が充実しており、地域の労働力不足の解消と地方活性化を同時に実現しています。
このように、制度と社会支援が連動していることが、カナダやオーストラリアの移民政策の強みであり、日本が参考にすべき大きなポイントです。
まとめ:受け入れから共生へ、日本が進むべき道とは
現在の日本の移民政策は、制度としての受け皿が整いつつある一方で、「ともに暮らす」ための社会的基盤はまだ十分とは言えません。特定技能制度や技能実習制度は一定の成果を挙げてはいるものの、依然として一時的な「労働力確保」の色合いが濃く、長期的な社会統合には不安が残ります。
アメリカでは移民が15%以上を占める中で、制度も社会も彼らを受け入れる前提で動いています。EUは移民を巡る課題に対し、制度と運用の両面から改革を進めており、カナダやオーストラリアは戦略的に人材を選び抜き、社会統合を国家の一部として位置づけています。日本が今後、移民を「社会の一員」として受け入れるには、永住・定住に至る制度設計、教育・医療・行政の多言語化、地域との信頼関係構築など、総合的なアプローチが求められます。そして何より必要なのは、「異なる文化と共に生きる」ことを肯定し、受け入れる社会的な覚悟です。
移民政策とは、単なる制度論ではありません。それは、日本社会が未来に向けてどのような姿を描き、どのような価値を共有していくかという、国のあり方そのものに深く関わる問題なのでしょう。
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