旧姓使用をめぐる新制度議論が加速、働く女性の声はどこへ向かうのか
多様な働き方が広がるなかで見直される“名前の扱い”
旧姓使用の制度をめぐる議論が、再び注目を集めています。政府の検討会では、行政手続きにおける旧姓併記の拡大や、企業が運用しやすいガイドラインの整備について意見交換が行われたと報じられ、制度を改める必要性が以前よりはっきり示されるようになってきました。
働く女性にとって、名前の扱いは仕事に直結する現実的な問題です。総務省の調査では、旧姓使用を希望する割合が約7割とされ、キャリアや人間関係の継続性を大切にしたいという思いが広く共有されていることがわかります。専門職や営業職では、旧姓がそのまま“実績”として扱われる場面も多く、結婚を機に名前が変わることへの抵抗感が大きくなるのは自然な流れだと考えられます。
名前は、個人の人生の一部です。職場での呼ばれ方、名刺に印刷される文字、オンラインでの活動名などを通して長く使い続けるうち、自分の中に馴染んだ感覚が育つことがあります。働き方が変化する時代だからこそ、このテーマに向き合う人が増えているのではないでしょうか。
行政・裁判・企業の動きが生む“制度と現場のギャップ”
旧姓使用をめぐる動きは、行政、司法、企業の三方向で同時に広がっています。裁判では、旧姓使用を希望する原告が「職務上の信用に影響する」と訴えるケースが増え、司法判断の積み重ねが社会の議論を押し出す形にもなっています。世論調査では選択的夫婦別姓を制度として認めてもよいと答える割合が6割前後という結果もあり、制度と国民意識の差を指摘する声も聞かれます。
行政では、マイナンバーカードや住民票で旧姓が併記できるようになりました。また、オンライン行政手続きでの氏名管理の統一を進めるべきだという考えが示され、データ整合性を確保するための仕組みづくりが課題に挙げられました。生活の多くがオンラインに移行するほど、姓の扱いを曖昧にできないため、制度の精度がより問われる段階に入っているといえます。
企業の対応も少しずつ前進しており、民間調査によると、旧姓使用を認める企業は過半数を超えたものの、現場では「部署ごとに扱いが違う」「外部向け資料では戸籍名に戻さなければならない」など、実務上の揺れが残っています。金融機関や保険手続きでは戸籍名が基本となるため、職場ですべてを旧姓で統一できるわけではなく、従業員が場面ごとに使い分ける必要が生じているケースも多いようです。
制度が整いつつある一方で、こうしたギャップは依然として人の手間となって残っており、今後は行政・司法・企業の調整が進むかどうかが、大きな焦点になると考えられます。
旧姓は“実績”であり“アイデンティティ”
旧姓使用の議論が強まる背景には、名前がアイデンティティに深く関わるという認識が広がったことがあります。結婚を理由に姓が変わると、名刺やメールアドレス、資格証などに長く刻まれてきた名前とのつながりが薄れ、戸惑う人もいるでしょう。働く女性の中には、「実績を検索されたときに名前が一致しなくなる」「旧姓で呼ばれていた頃の信用が伝わりにくい」と感じる人も少なくありません。
旧姓使用に関する相談は、行政窓口やオンラインのコミュニティにも寄せられています。内容として多いのは、「保育園・学校の書類で旧姓が使えない」「銀行口座や保険の名義変更が複雑」「会社は旧姓使用が認められているのに、取引先では戸籍名でないと困る」といったものです。どれも日常に直結するため、少しの認識違いが大きなストレスになりやすいと考えられます。
こうした悩みを軽減するためには、制度の一貫性が重要になるでしょう。行政手続きと企業の運用が連携していれば、個人がそのつど説明を求められる場面は減り、安心して旧姓を選べる環境が整っていくと思われます。旧姓使用が“特別な扱い”ではなく“選択できる当たり前”になったとき、多様な生き方を後押しする力になるのではないでしょうか。
制度改革の行方と、選択肢が広がる未来へ
この議論で示された方向性は、旧姓使用をめぐる制度改革が新しい段階に入りつつあることを示しています。人口減少、女性活躍推進、働き手不足といった国全体の課題の中で、柔軟な名前の選択肢を用意することは、労働参加を支える施策のひとつとして位置づけられつつあります。姓の扱いを選べる仕組みは、キャリアの継続だけではなく、家庭環境の多様化にも寄り添う取り組みになるでしょう。
一方で、戸籍制度をどう位置づけるか、家族単位の姓を前提とする価値観をどう扱うかといった課題も残っています。世代間で考え方が大きく異なるテーマであるため、議論が短期間でまとまるとは言い切れません。けれども、制度を検討する過程で、私たち一人ひとりがどのような社会を望むのかがより明確になっていくのではないでしょうか。
旧姓使用の制度が、仕事のしやすさや生活のしやすさを後押しする形で整ったとき、個人が自分らしく選択できる未来が広がると期待できます。今回の議論が、働く女性の声に丁寧に寄り添いながら、多様な生き方を受け止める社会づくりにつながっていくことを願いたいところです。
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