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「働きたい国」ランキングから見える日本の立ち位置とは

世界で進む「知の争奪戦」と、日本が直面する危機

国境を越えて働くことが当たり前になった現代において、各国は優秀な人材を惹きつけるための競争を繰り広げています。資源や設備以上に、「誰が集まるか」が国の将来を左右する時代に入ったといえるでしょう。AIや半導体、バイオテクノロジーといった分野では、個々の研究者や技術者の選択が、そのまま産業の盛衰につながるケースも増えています。

かつて日本は、経済的な安定と技術力を背景に、世界から人材が集まる国でした。しかし現在、その磁力は確実に弱まっているように見えます。OECDが公表する高度人材の国際比較では、日本は賃金水準やキャリア展望の項目で評価を落とし、先進国の中でも存在感を示しにくい位置にとどまっています。単なる人手不足ではなく、「頭脳を選ばれなくなっている」という点に、より深刻な問題が潜んでいるのではないでしょうか。

 

賃金停滞と円安がもたらす「選ばれにくさ」

高度外国人材が日本を敬遠する最大の要因は、経済的な合理性にあると考えられます。IMDの世界人材ランキングでは、日本は「生活コストに対する報酬の妥当性」で低位が続いています。特に円安が進行したことで、日本で得た収入の国際的な価値は大きく目減りしました。

購買力平価ベースで見ると、日本の平均賃金はOECD加盟国の下位グループに位置し、韓国にも追い抜かれています。ITエンジニアやデータサイエンティスト、博士号を持つ研究者の場合、年収差が数百万円どころか、数倍に及ぶことも珍しくありません。同じ能力と労力を提供するなら、より高い報酬が得られる国を選ぶのは、極めて自然な判断といえるでしょう。
さらに、社会保険料や税負担の重さが実質的な手取りを押し下げています。この結果、日本は「文化体験として短期間滞在する国」にはなり得ても、「長期的にキャリアを築く国」として選ばれにくくなりつつあります。高度人材を定着させるためには、専門性に見合った報酬を提示できる環境整備が欠かせないといえます。

 

キャリアの不透明さと、見えない天井の存在

報酬と並んで重要なのが、将来のキャリアがどこまで開かれているかという点です。日本企業では、管理職や経営層への登用基準が明確に示されないケースが多く、外国人材にとって将来像を描きにくい構造が残っています。成果を上げても、最終的に日本語運用能力や社内慣行への適応度が重視されると感じ、成長の限界を意識する人も少なくありません。

ゼネラリスト育成を前提とした人事ローテーションも、専門性を磨きたい人材には不安要素となります。グローバル市場では、特定分野での実績がそのまま市場価値に直結します。専門外の部署への異動が続けば、自身の競争力が低下するのではないかという懸念が生まれるのも無理はないでしょう。
意思決定の遅さや長時間労働を前提とする評価軸も、生産性を重視する人材には理解しづらい側面があります。成果よりも滞在時間が重視される環境では、自律的に成長したい人ほど違和感を覚えると考えられます。

 

再び「知の集積地」となるために必要な転換

このまま高度外国人材から選ばれない状態が続けば、日本のイノベーション力は徐々に低下していくでしょう。重要なのは、制度の微調整ではなく、発想そのものを転換することです。「受け入れる側」という立場から、「世界の才能に選ばれる存在」へと意識を切り替える必要があります。職務内容と報酬を明確に結びつけるジョブ型雇用の定着や、国籍や年次に左右されない評価制度の確立は、その第一歩といえます。加えて、行政手続きの多言語対応、教育環境の充実、永住権取得要件の柔軟化など、家族とともに安心して暮らせる基盤整備も重要になるでしょう。

高度外国人材は、単なる労働力ではなく、社会を共につくるパートナーです。異なる視点や価値観を受け入れることは、日本社会そのものをしなやかにし、内側からの活力を生むはずです。働き方や組織の在り方を問い直すことは、外国人材のためだけでなく、これからの日本で働くすべての人にとって意味のある挑戦になると考えられます。

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