停滞と物価上昇が同時進行する時代に企業が再定義すべき価値とは何か
物価が上がるのに景気が伸びない時代に企業が考えるべきこと
いまの経済は、少し複雑な状況にあります。景気は力強く伸びているとは言いにくい一方で、物価は上がり続けています。こうした状態は「スタグフレーション」と呼ばれます。世界銀行やIMFの見通しでも、世界経済の成長率はコロナ前より低い水準にとどまり、エネルギーや原材料価格の上昇が長引いていると指摘されています。日本でも2023年以降、消費者物価指数はおおむね2〜3%台で推移し、家計の負担は確実に増しています。
企業にとっては、仕入れ価格や光熱費、人件費が上がる一方で、簡単に値上げできないという難しさがあります。以前のデフレ期であれば、価格を下げて販売量を増やす戦略が有効でした。しかし今は、値下げをすれば利益が大きく減ってしまいます。だからこそ、「安さ」で勝つのではなく、「納得してもらえる価値」で選ばれることが大切になっているのではないでしょうか。
消費者は“全部節約”ではなく“選んで使う”
物価が上がると、人々は無駄な支出を減らそうとします。実際、総務省の家計調査でも、食料や日用品の支出を抑える傾向が見られます。ただし、すべてを節約しているわけではありません。旅行や趣味、推し活、自己投資など、「自分にとって意味があるもの」にはお金を使う人も多いのです。
このような消費行動は「選択的消費」と呼ばれます。つまり、価格だけで判断するのではなく、「自分にとって価値があるかどうか」で選んでいるといえます。企業が提供する商品やサービスも、単に機能が優れているだけでは不十分になってきました。「それを使うとどんな気持ちになるのか」「どんな体験が得られるのか」が、価格以上に重要視されていると考えられます。
また、若い世代ほど、企業の姿勢や社会への取り組みを重視する傾向も見られます。各種調査では、Z世代の半数以上が「環境配慮や社会貢献を行う企業の商品を選びたい」と回答しています。背景やストーリーが見える商品は、多少価格が高くても支持されやすいといえるでしょう。
納得できる価格には理由がある
では、どうすれば「高いけれど納得できる」と感じてもらえるのでしょうか。ポイントは、価格の理由をわかりやすく伝えることです。原材料費が上がったから値上げするのではなく、「安全性を守るため」「品質を落とさないため」という説明があれば、受け止め方は変わります。
ここで役立つのが、行動経済学の考え方です。人は、最初に見た価格を基準にして判断する傾向があります。たとえば、3つの価格プランを用意すると、多くの人は真ん中を選ぶ傾向があると知られています。これはアンカリング効果や妥協効果と呼ばれています。価格の見せ方を工夫するだけで、納得感は大きく変わるのです。
サブスクリプション(定額制)も、安心感を与える方法の一つです。経済産業省の調査では、日本のサブスクリプション市場は拡大を続けています。毎月一定額を支払う仕組みは、「想定外の出費がない」という安心につながります。価格そのものよりも、「どう支払うか」が重要になる時代に入っているのかもしれません。
長く選ばれる企業になるために
厳しい経済環境のなかで、企業にとって最も大切なのは、既存のお客様との関係を深めることです。多くの研究で、新規顧客を獲得するコストは既存顧客を維持するコストの数倍かかると示されています。短期的な売上よりも、長期的な信頼関係を築くほうが、結果的に安定した成長につながると考えられます。
顧客の声を取り入れたり、コミュニティを作ったりすることは、「一緒にブランドを育てている」という意識を生みます。その関係性は、価格以上の価値になります。多少の値上げがあっても、「応援したい」と思ってもらえる企業は強い存在になれるでしょう。
物価が上がり、景気が伸びにくい時代は、企業にとって試練であると同時に、自社の本当の価値を見つめ直す機会でもあります。価格の安さだけに頼らず、体験や信頼、共感といった目に見えない価値を育てることが、これからの成長の鍵になるのではないでしょうか。
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