社会を変えたいのに動けない——Z世代が抱える「行動の壁」の正体
Z世代と社会課題への関心
「今の若者は社会に無関心だ」と言われることがありますが、実際のデータを見るとまったく違う姿が浮かんできます。日本労働組合総連合会が2022年に15歳から29歳の男女1,500人を対象に行った調査では、なんと87%もの人が「社会課題に関心がある」と答えました。10人中9人近くが社会のことを「なんとかしたい」と思っているわけで、これは決して低い数字ではありません。
この世代がなぜそこまで社会に敏感なのかといえば、SNSとインターネットが大きく関係しています。生まれたときからスマートフォンが身近にある環境で育ったZ世代は、世界中のニュースや社会問題がタイムラインに次々と流れてくる日常を送ってきました。気候変動、格差、ジェンダー、メンタルヘルスといった重いテーマも、10代のころから自然と目に触れてきたため、「これはおかしい」「変えなければ」という感覚が身についているといえるでしょう。
ただ、関心の高さと実際の行動はイコールではありません。OECDの報告によると、2022〜2023年における日本のボランティア参加率は、2008〜2010年の水準と比べて30%も低い状態が続いており、特に20代の参加率の低さが目立っています。「問題だとは思っている、でも動けていない」——Z世代の多くが抱えるこのもどかしさこそ、この世代を語るうえで避けて通れないテーマです。
行動を阻む「不安」とリスク回避の構造
では、なぜ関心があるのに行動できないのでしょうか。その核心にあるのが「不安」という感情です。デロイト トーマツ コンサルティングが世界44カ国のZ世代とミレニアル世代を対象に実施した調査では、この世代を一言で表すキーワードとして「不安」が挙げられました。物価上昇による生活費の心配に加え、将来のキャリアに対しても見通しが立てにくいと感じている若者が世界的に多いことがわかっています。
なかでも日本の若者の将来への見方は、国際的に見てもかなり厳しいものがあります。日本財団が2024年に6カ国の17〜19歳を対象に行った調査では、自国の将来が「良くなると思う」と答えた日本の若者はたった15%で、調査した6カ国のなかで最下位でした。「夢を持っている」という回答も60%と、こちらも最低水準です。社会への問題意識が強い一方で、「自分が動いたところで何かが変わるのだろうか」という感覚が先に来てしまう気持ちは、こうした数字を見ると自然なことのように思えてきます。
デロイト トーマツの2024年調査によると、グローバルなZ世代が「失業」「気候変動」「メンタルヘルス」を社会の大きな問題として挙げているのに対し、日本のZ世代では「所得格差」「出産・育児」「経済成長」など、自分自身の生活に直結するテーマへの関心が上位に並びました。社会全体を変えることより、まず自分の暮らしを守ることを優先するのは、決して後ろ向きな姿勢ではなく、現実的な判断ともいえます。ただそれが続くと、社会を動かすエネルギーを持つ世代の力が、外ではなく内側へと向かい続けてしまう状況が生まれてしまいます。
リスクを避けたいという心理も、行動の妨げになっています。「失敗したくない」という気持ちが強くなると、何かに踏み出す前から立ち止まってしまいやすくなります。SNSで誰かが発言して炎上する場面を何度も見てきたZ世代にとっては、社会的な行動を起こすこと自体が、リスクを背負うことと重なって見えるのかもしれません。
「積極派」と「諦め派」に二極化するZ世代の内側
Z世代をひとまとめに語るのは、実はあまり正確ではありません。大規模な生活者調査の分析によると、Z世代の内訳は「積極派」が約11%と全世代平均の1.5倍、「無気力あきらめ派」が約41%と全世代平均の1.8倍という構成になっています。「社会に貢献できる仕事をしたい」という意識は、積極派では45%に上るのに対し、あきらめ派では22%にとどまっており、Z世代のイメージとして語られる積極的な行動の多くは、全体の約1割にあたる積極派が牽引しているともいわれています。
ここで少し意外なのが、あきらめ派の若者たちも社会への関心が低いわけではないという点です。同調査では、あきらめ派のZ世代は131の社会テーマに関して、同世代の平均より認知率が高い項目が多く、他の世代の同タイプと比べても社会問題への関心は高めであることがわかっています。「損したくない」「後悔したくない」という気持ちから、万が一に備えて情報を集めている結果だとも解釈できます。知っている、気になっている、でも動かない——その背景には、失敗や損失への恐れが実際の行動を上回っている「損失回避バイアス」が関係しているとみられます。
ラグザス株式会社が2024年に行った調査では、仕事を通じて社会課題を解決したいという気持ちが「ある」または「漠然とある」と答えたZ世代は54.3%で、半数以上が課題解決への意欲を持っていることが示されています。それでも転職や起業、社会活動への参加に踏み出せないのは、意欲を受け止めるだけの環境が整っていないことも大きな要因でしょう。
世界経済フォーラムが紹介したランドスタッドの調査では、2024年以降グローバルで初級職の求人数が29ポイント減少しており、Z世代の約半数が「今の仕事は自分が本当にやりたいこととズレている」と感じているとのことです。やりたいことと現実の選択肢の間に距離がある状況では、行動に踏み出せないのもうなずけます。
「壁」を越えるために社会に求められること
Z世代が行動できないのは、気持ちや意志の問題ではなく、社会の構造そのものに原因があります。教育費や生活費の不安、家庭の事情、経済的な背景——こうした個人の力だけではどうにもならない障壁が、行動への意欲を削いでしまっているのです。「若者が動かないのは甘えだ」という見方は、こうした現実を無視していることになります。
行動を後押しするアプローチとして、行動経済学の知見が役に立ちます。信頼できる身近な人から「一緒にやってみよう」と声をかけてもらうことで動きやすくなる「ウィンザー効果」や、参加しやすい環境をあらかじめ整えておく「デフォルト設定」の工夫は、なかなか自分から動き出せないタイプに対して特に有効とされています。
Z世代の若者が社会の中で力を発揮できるかどうかは、受け入れる側の企業や社会がどれだけ変わっていけるかにかかっているという声もあります。「変えたい」という気持ちは確かにある、その気持ちが実際の行動につながるには、失敗しても大丈夫という文化、挑戦を歓迎する雰囲気、そして声を上げても安心できる場所が必要です。Z世代の「変えたい」は本物であり、その思いを活かせる社会をつくっていくことこそ、私たちみんなに求められていることではないでしょうか。
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