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「もはや趣味ではなく業務」小坂鉄道保存会に夢中になることが、町を盛り上げる力に【秋田県小坂町】

ローカリティ!

秋田県小坂町にある小坂鉄道は、かつて鉱山都市を支えた物流の要として活躍していました。1994年に旅客列車の運行が終了し、その後貨物輸送も廃止された鉄道は、今では観光施設「小坂鉄道レールパーク」として生まれ変わり、地域のシンボル的存在となっています。小坂鉄道保存会(以下、保存会)では、小坂鉄道を後世に伝えるため「小坂鉄道レールパーク」事業企画や車両整備などに参画し、開業してから今年で10年という節目となりました。

保存会の創設時から携わっていた総務企画局長・亀沢修(かめざわ・おさむ)さん(64)に、保存会を通じた小坂町への思いなどについて伺いました。

【本記事中の画像一覧】

「廃止でも終わりじゃない」小坂鉄道のために活動を続けてきた保存会
小坂鉄道保存会集合写真(小坂・鉄道まつり2024)

小坂鉄道が注目を浴びたのは1993年に無明舎出版より発売された写真集『小坂鉄道』が地元で大ヒットしたことでした。現在、保存会の会長である千葉裕之(ちば・ひろゆき)さんが出版し、その鉄道写真の美しさが注目を浴びた一方で、1994年5月に小坂鉄道旅客列車の廃止が発表されてしまいます(同年9月30日を最後に廃止)。

これをきっかけに全国各地の鉄道ファン有志が自然発生的に集まり小坂鉄道活性化に向けた活動が行われるようになりました。

これが後に保存活動の核となるグループの原点です。

現在の保存会の前身とも言えるこのグループは、鉄道の日イベント実行委員会として10月14日の「鉄道の日」に近い連休に小坂鉄道で、4台のディーゼル機関車が連結する四重連で多くのタンク車をけん引するなどのイベントを実施して、さらに鉄道ファンから注目されるようになります。

しかし、ついに2008年4月に小坂鉄道の貨物鉄道も営業が休止になり、翌年の4月に廃止になってしまいます。鉄道の日イベント実行委員会のメンバーは「廃止になって終わりじゃなくて、まだ何かお手伝いできることがあるのでは」と、手作りのイベントを行うようになり、それが保存会の活動としてずっと続いています。また、鉄道跡地をレールパークにしたいという動きもあり、ぜひとも協力したいと2009年12月にイベント実行委員会メンバーを中心として保存会準備室が発足し、2013年6月には新たなメンバーも加えて正式に保存会が誕生します。そして2014年6月に保存された鉄道車両や施設を活用した観光施設「小坂鉄道レールパーク」がオープンしました。

2024年6月に行われた、レールパークオープン10周年記念式典の様子

小坂鉄道旅客列車の廃止が決まった当時、亀沢さんは小坂町立総合博物館「郷土館」の学芸員として、小坂鉄道に関する資料の保存を担当していたこともあり、次第に小坂鉄道の鉄道の日イベント実行委員会活動の輪に入っていきます。さらには観光担当として「小坂鉄道レールパーク」開設準備に携わることになり、保存会準備室と協力して小坂町を盛り上げていきました。

 

鉄分少なめの亀沢さんがハマった「魅せ鉄」

「実は、そんなに鉄ちゃんじゃなかったんです」と亀沢さん。好きで「乗り鉄」を行ったり、鉄道雑誌などは見ていたものの「そんなに詳しくはなかったのですが、保存会会員の方から鉄道の魅力や知識を教えてもらい影響されてしまいました」と語ります。「レールパークでは当初、運転体験があり、私も駅員の格好で発車合図などを行いました。最初はちょっと抵抗がありましたけど少しずつハマっていきました(笑)。その後車掌の車内放送にも挑戦。段々と上手になり、完璧にやれるようになって完全にハマりました(笑)」と、亀沢さんの「鉄分」も次第に増えました。

「保存会の活動で『魅せ鉄』という新たな取り組みを行いました」と亀沢さん。宿泊可能な状態に改装した寝台特急「ブルートレインあけぼの」をレールパークに導入した際、どうせなら当時の車内放送になりきってやろうということで実施したところ話題になり、さらに実際の鉄道の制服を着て集まるという「魅せて楽しむ」ことを保存会の会長が考えて、それを『魅せ鉄』と名付けました。

2024年、ブルートレインあけぼの車内放送の様子

コロナ禍でも希望を捨てず、地域活動が認められての受賞とクラウドファンディング成功

2020年から、コロナ禍によりレールパークの営業は一時的に停止を余儀なくされました。「せっかく今までやっていた車内放送や『魅せ鉄』オモテナシなどが、ほぼ3年間実施できなかったのが、非常に残念でした」と亀沢さん。しかし、その間も車両整備や資料整理を地道に続け、2020年に国土交通大臣が地域づくりに取組む活動団体などの優れた地域活動を表彰する『手づくり郷土(ふるさと)賞』(大賞部門)を小坂町とともに受賞(認定)。このこともあり、大変だけど希望は捨てていなかったといいます。

2017年のディーゼル機関車運転体験

長期間の休止により車両の老朽化が進み、「ブルートレインあけぼの」の車両外装にも傷みが生じるなどの弊害もありましたが、小坂町がクラウドファンディングで資金を募り全国の方から応援してもらいました。「お客さんの応援の声も多くありがたかったですし、再開した後 『待ってたよ』と言ってもらえてうれしかったですね」。

ブルートレインあけぼの宿泊営業再開セレモニーの様子

「小坂鉄道を盛り上げたい」保存会の活動が地域に与える影響

全国各地から会員が集う保存会の活動は、鉄道ファンだけでなく地域の住民にも影響を与えています。レールパークは観光地として町のにぎわいを生み出し、地域外の人々(関係人口)との交流の場となっています。
「関係人口という言葉を意識せずに、必ずしも鉄道ファンでなくても、鉄道の写真を撮ってみたい、車両の修理や保存活動をしてみたい、車掌のコスプレや車内放送をしてみたいなど、ただ小坂鉄道を盛り上げたいということでいろんな人が集まって、それぞれが刺激を受けながら参加することで、自然と町も盛り上がっていると思います」と亀沢さん。

保存会では、鉄道を軸にして、切符の検札体験をしたり、親子でブルートレインに泊まったりと、鉄道が持つ「つなぐ力」を活用しています。「鉄道を通じて地域の歴史や文化に触れることで、次世代にその価値を伝えていきたい」との思いからです。

小坂・鉄道まつり2024にて、キ115ラッセル車操作実演

次世代のために車両の保存や修理を行い、交流の場も設ける

保存会の今後の目標について「老朽化した車両を少しずつでも直して、できるだけきれいにしたい」と、亀沢さんは話します。

「本来の保存会の役割はそこにあるので、放置されたディーゼルカーも少しずつでもいいので、きれいにしていくのが大きな目標です。また、最近は保存会に若い人が少しずつ増えていてとてもうれしいですね。鉄道好きの人も増えていて、そういう人たちのつながりを大事にしていきたいです」

「保存会では、みんなで車両を直すなどの達成感もあり、定期的な会合、さらには年に数回のイベントもあります。まずはイベントに来てもらうことから初めてもらえればいいかもしれません」と、亀沢さんは保存会への参加を大歓迎し、一緒に活動する仲間が来てくれることに意欲的な姿勢を見せています

2022年のDD132機関車塗装修繕作業

2024年の枕木交換作業

「趣味ではなく業務」保存会に関わることが小坂町を盛り上げる

亀沢さんにとって保存会は「趣味ではなく業務です(笑)。自分の生活の中ではかなりの部分を占めています」と語ります。そして、本業である郷土史研究家としては、「小坂鉄道開業時の明治初期からの膨大な資料を全部ひも解いて、最終的には記録にまとめたいですね」。

保存会は、「小坂鉄道レールパーク」を基盤に、鉄道を通じて地域内外を問わない人とのつながりの場を提供しています。それぞれの鉄道への思いや趣味などを自由に語ったり交流することこそが、小坂町を盛り上げることにつながります。

小坂駅とブルートレインあけぼの

※写真提供はすべて小坂鉄道保存会

 

関わりしろ

小坂鉄道保存会「一般会員」と「サポート会員」として活動に参加する。

小坂鉄道レールパークホームページ:http://kosaka-rp.com/publics/index/82/
ページ内の小坂鉄道保存会会員募集のお知らせから詳細をご確認ください。

情報

小坂鉄道保存会Facebook:
https://www.facebook.com/KosakaRailroadPS

「あきたの物語(https://kankei.a-iju.jp/)」は、物語をとおして「関係人口」の拡大を図ることで、県外在住者の企画力や実行力を効果的に生かした地域づくりを進め、地域の課題解決や活性化を促進する事業として秋田県が2023年度から始めました。秋田県や秋田にまつわる「ローカリティ!」のレポーターや地域の関係者が、秋田県各地の人々の活動を取材し「あきたの物語」を執筆して秋田県を盛り上げています。

情報提供元:ローカリティ!

森川淳元
ローカリティ!は、地元に住む人々が、自分が大好きな地元の人やモノや出来事を、自分で世界に発信し、
その魅力を共に愛する仲間を募れる住民参加型・双方向の新しいニュースメディアを目指しています。
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