幼児は嘘に敏感?研究が示す嘘と認知の仕組み

幼児は本当に嘘を見抜けるのか

「子どもはだまされやすい」という印象を持つ人は少なくないでしょう。大人の方が経験も知識も豊富で、嘘を見抜く力に長けていると思われがちです。しかし、近年の発達心理学や認知科学の研究では、その常識を揺るがす結果が示されています。条件によっては、幼児のほうが大人よりも早く、しかも正確に嘘を察知する場面があると報告されているのです。この現象は直感的に判断する力や注意の向け方の違いと関係していると考えられます。子どもは無邪気でだまされやすい存在というイメージがありますが、その直感的な反応には、人間の認知の原点ともいえる重要な仕組みが隠れているのではないでしょうか。

研究が示した意外な結果

アメリカやカナダの大学で行われた複数の実験では、3〜5歳の幼児と成人を対象に、話し手が本当のことを言っている場合と嘘をついている場合を見分ける課題が実施されました。その結果、話の内容よりも表情や声の抑揚に微妙な矛盾が含まれている状況では、幼児の正答率が60〜65%程度となり、大人の正答率である55%前後を上回るケースが確認されています。特に初見の場面では、幼児の反応が早く、判断までの時間が平均で1〜2秒短かったという報告もあります。この違いは、論理的に考え込む前に感覚的な違和感を拾っている可能性を示しており、経験の少なさが必ずしも不利に働くわけではないことを示唆しているといえます。

幼児と大人の認知の仕組みの違い

大人は話の一貫性や過去の経験と照らし合わせて判断する傾向が強く、情報処理が段階的になりやすいとされています。その一方で、幼児は状況全体を一度に捉え、視線の動きや声の揺らぎといった非言語情報に強く反応します。脳科学の観点から見ると、幼児期は前頭前野による抑制機能がまだ十分に発達しておらず、その分、扁桃体や感覚処理に関わる領域の影響を受けやすい段階にあります。このため、「何かおかしい」という感覚を抑え込まずに表出しやすいと考えられます。大人になるにつれて理屈で納得しようとする力が強まり、直感的な違和感を見過ごしてしまう場面が増えるのではないでしょうか。

子どもの直感から学べること

幼児が嘘を見抜く力を持つという研究結果は、子どもが大人より優れているという単純な優劣を示すものではありません。むしろ、人間が本来備えている感覚的な判断力を、大人が成長の過程で理屈によって覆い隠している可能性を示しているように思われます。対人関係や日常生活においても、論理的に納得できる説明だけを求めるのではなく、自分の中に生じる小さな違和感に耳を傾ける姿勢は、判断の質を高める助けになるでしょう。
幼児の反応を観察することは、人の言動を多角的に捉える視点を取り戻す手がかりになると考えられます。子どもの直感は未熟さの象徴ではなく、人間の認知の原点を映し出す鏡として、私たちに多くの示唆を与えてくれる存在ではないでしょうか。

カテゴリ
学問・教育

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