夏の涼を楽しむ!麻や絽の夏着物の魅力と選び方

暑い季節こそ、装いに涼をまとう楽しみを

本格的な夏の訪れとともに、街には浴衣や夏着物を身にまとう人の姿がちらほらと見られるようになります。高温多湿な日本の夏において、見た目の涼しさと着心地の軽やかさを両立させるために工夫されたのが、麻や絽といった夏素材の着物です。透け感や肌離れのよい素材感がもたらす涼やかな印象は、装う人だけでなく、目にする人にも心地よい清涼感を与えてくれます。

「麻」と「絽」──素材から感じる涼しさの違い

夏の着物でよく用いられるのが、「麻」と「絽」という二つの素材です。それぞれに異なる魅力があり、シーンや好みに応じて選ぶ楽しさがあります。

まず麻は、古くから夏着物の素材として親しまれてきました。麻特有のシャリっとした肌触りと通気性の良さは、真夏の蒸し暑さを和らげてくれます。また、吸湿性と速乾性に優れているため、汗をかいてもべたつかず、快適に過ごせます。生成りや淡い色合いが自然の美しさを感じさせ、カジュアルでナチュラルな雰囲気を演出できます。

一方の絽は、絹糸を使って織られる、夏の代表的な高級素材です。緯糸(よこいと)を部分的に抜いて織る「絽織り」の技法により、布地には細かな「すき間」が規則的に入り、そこから空気が抜けることで涼しさを感じられます。見た目にはほのかな透け感があり、肌に直接風が通るような軽やかさが魅力です。絽の着物は、控えめな艶と品のある印象を持ち、夏のお茶会や会食など、やや改まった場にもふさわしい格式を備えています。

シーンで選ぶ、夏着物の素材と装い

どちらの素材を選ぶかは、過ごす時間帯や目的に応じて決めるのが理想的です。

たとえば、昼間の散策や花火大会といったカジュアルなシーンでは、麻の着物や綿麻の浴衣が適しています。白や薄藍、若草色など、涼しげな色を選ぶことで、視覚的にも心地よさが増します。麻は丈夫でお手入れもしやすいため、気軽に楽しむ日常の夏着物として人気があります。
一方で、絽の着物は、上品でしなやかな印象を持つため、夕涼みの会食や夏の茶会といった格式のある場にぴったりです。無地の絽や、控えめな柄の付け下げ・訪問着などが選ばれることが多く、帯には絽綴れや紗(しゃ)の名古屋帯、袋帯を合わせると、清潔感と洗練さを両立できます。

季節感を大切にする和装では、麻や絽の着物は6月中旬から9月初旬ごろまでの限られた時期に着用されることが多く、短いシーズンならではの特別感も楽しみのひとつです。

 
帯と小物で広がる、涼やかなコーディネートの工夫

夏着物は素材が軽やかなぶん、全体がシンプルになりやすいため、小物や帯でアクセントを加えることで、装いに奥行きが生まれます。
帯には、絽や紗などの透け感がある素材の名古屋帯や半幅帯が人気です。淡いグレーや藤色、水色などを基調に、黄色や薄紅といった差し色を取り入れると、涼しさの中に個性が光ります。特に、絽の着物に合わせる帯は、織りの細やかさや光沢感にもこだわると、上質な印象になります。
帯締め・帯揚げも夏仕様があり、絽目が入った薄手の帯揚げや、透かし模様がある帯締めを選ぶことで、季節感がより際立ちます。また、足元には白木台の下駄や、麻素材の鼻緒を使った草履を合わせると、足元からも涼感を演出できます。扇子や籠バッグなどの小物も取り入れて、夏ならではの風情を楽しみましょう。

着用後のお手入れと、長く楽しむための保管方法

夏着物は汗や湿気にさらされやすいため、着用後のケアが大切です。着たあとはすぐに陰干しして湿気を飛ばし、シワを軽く伸ばすように整えておくと、生地が傷みにくくなります。麻は特に水に強い素材ですが、黄ばみやシミが残りやすいため、気になる部分があれば専門のクリーニングに出すのが安心です。
絽の着物は、繊細な絹糸でできているため、自宅での洗濯は避け、信頼できる着物専門のクリーニング店に任せましょう。保管の際は、防湿・防虫対策として桐のたんすや不織布の収納袋を活用し、適度に風を通すことも忘れずに。短い夏の期間しか着ることのないこれらの着物だからこそ、丁寧な管理が、次の年も美しく着こなすためのポイントになります。

保管の際は、湿気と虫から守るために、防湿剤や防虫剤を一緒に入れて、通気性の良い桐のたんすや着物専用ケースに収納すると安心です。夏物は着用時期が短いため、次の季節まで大切に保管することが、美しい状態を保つコツになります。

 
おわりに:涼しさの中に、日本の美意識をまとう夏

麻と絽の夏着物は、それぞれの素材に宿る「涼しさ」や「品格」を生かしながら、暑さの中に涼をまとうという日本ならではの感性を表現しています。ただ涼しさを求めるのではなく、見た目や着心地にも工夫を凝らすことで、装いそのものが夏を楽しむひとつの文化になります。
忙しい毎日の中で、少しだけ立ち止まって、風を感じるような装いをまとってみる。そんなひとときが、心に豊かさをもたらしてくれるかもしれません。

今年の夏はぜひ、麻や絽の着物を取り入れて、自分らしい涼やかなスタイルを楽しんでみてはいかがでしょうか。

カテゴリ
美容・ファッション

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