観光心理学から見る旅行者の行動変容:データ分析が示すトレンド

旅行は、ふと「どこかへ行きたい」と思う心の動きから始まります。そんな気持ちの変化を科学的に捉える「観光心理学」が、今あらためて注目を集めています。SNSや口コミ、予約行動などのデータから、人々の旅のかたちがどのように変わってきたのかが見えてきました。

旅行先を決めるのはSNSの影響が大きい?

昔は旅行ガイドブックやパンフレットを見て行き先を決めることが一般的でしたが、今ではSNSがその役割を大きく担っています。株式会社リクルートの『じゃらん宿泊旅行調査2024』によると、旅行者の約82.6%が「SNSで見た投稿が旅行先選びに影響した」と答えています。
特に10〜30代では、視覚的な刺激や動画による“疑似体験”が、「行ってみたい」という気持ちを強く喚起する傾向にあります。さらに、旅先での“映える”体験を前提として旅行を計画する人も増えており、観光地の発信力が旅行需要に直結する時代になったといえるでしょう。

思い立ったらすぐ予約!増えている「即決型旅行」

旅行の予約タイミングにも変化が見られます。観光庁のデータによると、以前は旅行出発の約45日前に予約するのが平均だったのに対し、2024年には出発の24.8日前まで短縮されています。
スマートフォンの普及や、予約サイトの便利さが広まったことで、「思い立ったらすぐ予約」というスタイルが当たり前になってきました。特に都市部で忙しく働く人たちは、「今すぐどこかに行ってリフレッシュしたい」という気持ちをすぐに行動に移す傾向が強いようです。

情報が多い今だからこそ「期待しすぎ」がリスクに

SNSやレビューサイトのおかげで、旅先の情報を手軽に集められる時代になりました。ただその一方で、「期待しすぎてがっかりした」という声も増えてきています。
観光科学会の調査によると、口コミ評価が★4.5以上の宿に泊まった人のうち、実際に「期待通りだった」と感じたのは58.2%にとどまりました。これは、情報から想像する理想と、実際の体験とのギャップが満足度に影響していることを示しています。だからこそ、観光施設や宿泊業者には、誇張しすぎず正確な情報を届けることがとても大切になってきています。

「学びの旅」を求める人が増えている理由

最近では、「楽しむ」だけでなく、「学ぶ」ことを目的に旅をする人が増えてきました。たとえば、陶芸体験や地元の歴史を学べる街歩きツアー、食文化に触れるワークショップなどが人気です。
観光庁の発表によると、2023年に教育型・体験型プログラムへ参加した旅行者は前年比で36.5%増加し、特に40代以上の層では「ただ楽しむだけでなく、何かを得たい」という意識が強まっていることがわかります。こうした行動は、旅行を「レジャー」から「自己投資」へと変化させているといえるでしょう。

「心に残る旅」をどう届けるかが今後のカギ

今後の観光産業においては、単なる情報提供を超えて、旅行者が得られる「感情的価値」の明示が鍵を握ります。たとえば、「癒された」「つながりを感じた」「自分が変わった」といった感覚を、ストーリー性や体験映像を通して伝えることが求められています。
また、AIによる顧客データ分析を用いた「パーソナライズ提案」も進化しています。旅行者一人ひとりの過去の予約傾向や興味に基づいて、最適な宿泊施設やアクティビティを提示する仕組みは、満足度の向上に直結し、再訪率や口コミ拡散の向上にもつながります。

旅は「どこへ行くか」だけでなく、「どう感じるか」「何を持ち帰るか」がますます大事になってきています。観光心理学は、そんな心の動きを理解するヒントを与えてくれます。これからの旅は、情報にあふれた中でこそ、“自分らしい旅”を見つける時代なのかもしれません。

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