サブスク時代にエンタメの「選択疲れ」が起きる理由

サブスクリプション型のサービスが生活に深く浸透したことで、エンタメは「探せば必ず見つかるもの」になりました。動画配信、音楽配信、電子書籍、ゲーム、さらにはオンラインイベントやSNS上のライブ配信まで、選択肢は無限に広がっています。一方で、楽しみのはずの娯楽が、いつの間にか疲労感や迷いを生む存在になっていると感じる人も少なくないでしょう。この背景には、サブスク時代特有の「選択疲れ」という現象が関係していると考えられます。

 

選択肢が増えるほど人は疲れやすくなる

人は自由な選択肢を与えられるほど満足度が高まるように思われがちですが、心理学の分野では必ずしもそうではないと指摘されています。アメリカの心理学者バリー・シュワルツは、選択肢が過剰になると意思決定の負担が増し、結果的に幸福感が下がる傾向があると述べています。エンタメのサブスクはこの典型例で、動画配信サービス一つを取っても、国内外で数千本規模の作品が常時並んでいます。実際、国内調査では、動画配信利用者の約6割が「何を見るか決めるのに時間がかかる」と回答しており、選択そのものがストレス源になっていることがうかがえます。限られた余暇時間の中で迷い続ける体験は、楽しさよりも疲労感を残しやすいといえるでしょう。

 

インターネットとSNSが疲労感を増幅させる構造

インターネットやSNSの存在も、選択疲れを強める要因として見逃せません。SNSでは、話題の作品やおすすめ情報が常に流れ込み、ECサイトや配信サービスはアルゴリズムによって次々と候補を提示してきます。一見すると親切な仕組みですが、「見逃してはいけない」という心理が働くことで、選択へのプレッシャーが高まります。総務省の調査では、平日のインターネット利用時間は1日平均2時間を超えており、その多くが娯楽やSNSに費やされています。情報に触れる時間が長くなるほど比較対象は増え、どれを選ぶべきか迷う状態が続きやすくなると考えられます。娯楽が無限に供給される環境は、安心感と同時に判断疲労を生みやすい構造を持っているのではないでしょうか。

 

選択疲れがエンタメ体験に与える影響

選択疲れが続くと、エンタメそのものへの満足度にも影響が及びます。決断にエネルギーを使いすぎると、実際に作品を楽しむ段階で集中力が下がり、「思ったほど面白くなかった」と感じやすくなる傾向があります。行動経済学では、意思決定の回数が増えるほど判断の質が低下するとされており、これは日常の娯楽にも当てはまるでしょう。その結果、サブスクを契約しているにもかかわらず利用頻度が下がり、惰性的に解約を検討する人が増えるケースも見られます。楽しみを広げるためのサービスが、逆に満足感を下げてしまうのは皮肉な状況といえます。

 

選択疲れを減らすための現実的な向き合い方

この問題への解決策としては、選択肢を意識的に減らす姿勢が有効でしょう。たとえば、利用するサブスクを目的別に絞り、「平日は音楽、週末は映画」といったルールを設けるだけでも判断回数は大きく減ります。海外の調査では、事前に視聴リストを作成している利用者は、満足度が約20%高いという結果も報告されています。SNSやレコメンド機能から一度距離を置き、自分の趣味や気分を基準に選ぶ習慣を持つことも、疲労感の軽減につながると考えられます。エンタメは本来、心を休めるための存在であり、すべてを追いかける必要はないでしょう。

 

まとめ

サブスク時代のエンタメは、選択肢の豊富さという大きな利点を持つ一方で、選択疲れという新たな悩みを生み出しています。インターネットやSNS、ECサイトの仕組みが重なり合うことで、迷い続ける状態が日常化しやすくなっているといえます。しかし、選ぶ基準を整理し、情報との距離感を調整することで、娯楽は再び心地よいものへと変わる可能性があります。自分にとって本当に必要な楽しみを見極めることが、サブスク時代を快適に過ごす鍵になるのではないでしょうか。

カテゴリ
趣味・娯楽・エンターテイメント

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