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世界の投資マネーが注目する東京:人材確保の壁とは

東京が直面する国際金融競争の波

世界の金融市場が活況を取り戻し、日本株が急騰する局面では、海外からの投資資金が東京市場に一気に流れ込む光景が目立っています。取引量の急増は市場を支える人材への需要を急激に押し上げ、金融機関には即応力と高度な専門性を備えた人材の確保が強く求められています。
しかし、ロンドンやニューヨーク、香港、シンガポールといった都市と比べると、東京は依然として人材獲得競争で優位性を確立できていません。年収数千万円規模で転職市場を移動するトレーダーやアナリストが世界中で活発に動いているなか、東京では外資系金融機関が報酬水準を引き上げても人材獲得に苦戦する状況が続いています。日本株市場の国際的存在感が増す一方で、その中核を担うべき人材の層は十分に厚くなっていないという構造的な課題が浮き彫りになっています。

 

言語と文化の壁が人材流入を阻む

東京で金融人材を確保するうえで大きな障壁となっているのが、言語と文化の問題です。グローバル金融市場では英語が事実上の共通言語として用いられていますが、日本の金融機関では依然として日本語での業務が基本となっています。
そのため、英語圏や多言語環境で育った専門人材にとって、日本の職場に適応するまでに大きな負担がかかります。業務が英語のみで完結する職場は限定的であり、意思決定において合意形成を重視する日本独特の企業文化も、スピードを重んじる海外人材には障壁と映っています。
採用後に離職してしまう例も少なくなく、結果として優秀な人材が定着しづらい環境が生まれています。社内公用語を英語に切り替えたり、評価制度に多様性を取り入れる企業も増えていますが、金融業界全体としてはまだ一部にとどまっており、構造的な転換には時間を要している状況です。

 

税制・規制の重さが国際競争力を削いでいる

金融人材の確保において東京が苦戦している背景には、税制と規制の問題もあります。香港やシンガポールは法人税率が15〜17%程度に抑えられ、所得税の累進率も緩やかで、高額報酬を得る人材にとって魅力的な環境となっています。対して日本では法人税率が約30%、所得税の最高税率は55%と高水準で、報酬の多くが税負担に回る構造が国際人材の敬遠につながっています。
加えて、金融ライセンス取得やコンプライアンス関連の手続きが複雑かつ時間を要するため、外資系企業にとって東京に拠点を設けること自体が大きなリスクと受け止められています。金融庁は特定高度人材向けの在留資格制度や金融スタートアップ向け規制の見直しなどを進めていますが、制度改革のスピードは競合都市に比べて緩慢であり、その間にも優秀な人材はシンガポールやロンドンに流出し続けています。

 

東京が金融人材を惹きつけるために必要な視点

東京が世界的な金融人材争奪戦に勝ち残るには、構造的な障壁を解消するための複合的な取り組みが欠かせません。まずは、英語のみで業務を遂行できる職場環境の整備を本格的に進め、言語の壁を取り払うことが必要です。同時に、金融セクターに限った所得税や法人税の軽減措置を導入し、高報酬人材にとっての魅力を高めることも検討する価値があります。
金融ライセンスの取得手続きや規制対応をデジタル化して迅速化し、海外企業にとって参入しやすい制度環境を整えることも不可欠です。さらに、東京が持つ文化的多様性や安全性、生活インフラの充実度といった利点を積極的に発信し、「働きやすく暮らしやすい都市」としてのブランドを高める戦略も重要です。
日本株市場の存在感が高まっている今こそ、世界中の金融人材が長期的なキャリアを築ける都市としての姿を明確に示すことが、東京に求められています。

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