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TikTok世代の“マネー異形症”--Z世代とお金のズレ

SNSが映す“理想の暮らし”が生むお金の違和感

Z世代にとって、情報の出発点はニュースよりもSNSです。短い動画のなかで、投資に成功した若者やブランド品を身につける同年代の姿が繰り返し流れ、現実との境界があいまいになります。スクロールする指先のたびに、別の世界の暮らしが目に飛び込み、気づかないうちに「自分も同じように稼ぐべき」と感じてしまう。そうした心理が積み重なり、実際の生活と感覚がずれていく――この状態が“マネー異形症”と呼ばれるものです。
金融広報中央委員会の調査では、20代の約半数が「将来の不安から資産運用を始めたい」と回答しています。けれど、投資リスクを正しく理解している層は2割程度にとどまります。堅実さよりスピードや派手さを優先する情報環境のなかで、お金の現実を見失いがちな若者が増えているのです。こうした傾向は、お金に対する意識が薄いのではなく、情報が氾濫する時代に、自分の立ち位置を見つけづらくなっていることの表れでもあります。

 
預金では守れない現実と焦りの連鎖

長く続いた超低金利の時代を経て、Z世代は「預けても増えないお金」を前提に生きてきました。最近では都市銀行でも0.02%前後、ネット銀行では0.20%ほどの金利が提示されるようになりましたが、消費者物価指数が年2〜3%上昇している現状では、実質的な価値はむしろ下がっています。数字だけを見ると小さな差でも、月々の生活費や将来の備えを考えると、この乖離は大きな意味を持ちます。
そんな環境のなかで、「お金を動かさなければ損をする」という意識が強まり、SNS上の投資情報に飛びつく若者が増えています。「1日で利益が出る」「誰でも簡単に増やせる」といった刺激的な見出しに惹かれ、内容を十分に理解しないまま行動するケースも少なくありません。金融庁の調査では、20代の6割が「お金の管理に自信がない」と回答しており、知識と行動の間に大きなギャップがあることが分かります。焦りが先行するほど、冷静な判断を欠きやすくなるのが今の課題です。

 
“増やす”より“整える”マネー感覚へ

本来、お金の使い方や増やし方は人それぞれであり、年収や環境、価値観によって最適解は違います。それでもSNSの世界では、「これをすれば成功する」といった単一のモデルが強調されがちです。そうした情報に触れ続けるうちに、「普通に暮らしている自分は遅れている」と感じる人が少なくありません。
しかし、お金に対する健全な向き合い方とは、他人との比較ではなく、自分の生活をどう整えるかにあります。毎月の支出を把握し、生活費と積立金を分ける。収入の1〜2割を自動で貯蓄に回し、残りを心地よく使う。この地味に見える行動が、長期的な安定を支える最も確かな手段です。さらに、インデックス型の投資信託をコツコツと積み立てるだけでも、インフレへの耐性が高まります。短期的な利益を求めるより、自分のペースで習慣を整えることが、安心を生み出す近道です。

 
共感でつながる“新しい経済感覚”

Z世代の消費は、「見せるため」から「共感するため」へと移り変わっています。自分の価値観を反映するように、環境配慮型の商品や社会貢献に関わるプロジェクトを選ぶ若者が増えています。モノではなく体験や意義にお金を使う。その動きは、単なるトレンドではなく、自分の生き方を映し出す選択として根付き始めています。
企業もこの変化に合わせて、社会的インパクト投資やサステナブル金融商品を拡充させています。これは、お金が「競う」ためではなく「つなぐ」ための道具になりつつある兆しです。Z世代の多くが抱える不安や迷いは、社会全体が情報や制度を整えることでやわらげることができます。金融教育を広げ、リスクとリターンを正しく理解できる環境を整える。そうした取り組みが広がれば、“マネー異形症”は恐れる対象ではなく、時代の転換点を示す言葉として受け止められるようになるでしょう。

 
まとめ

他人のポストに映る「理想の暮らし」を基準にするのではなく、自分の時間、大切にしたい人間関係、将来描きたい生活から逆算してお金の使い方を決めていく。その感覚を共有できる社会になれば、“マネー異形症”は若者を追い詰めるレッテルではなく、「自分とお金の関係を見直すきっかけ」として静かに役割を終えていきます。焦りではなく納得を軸に、お金との距離を整えていくこと。それこそが、TikTok世代がこれからの時代をしなやかに生き抜くための、一歩ずつ確かに積み重ねていける選択ではないでしょうか。

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