気がつけば、春が終わっていた。夏が通り過ぎていた――そんなふうに、季節の移ろいを見逃してしまうこと、ありませんか？日々の仕事や家事に追われていると、空や風の色が変わっていくことにさえ、なかなか目が向かないものです。
そんな忙しい毎日の中でも、食卓に“季節”を取り入れることで、自然のリズムとゆるやかにつながることができます。たとえば、春の香りを運ぶ菜の花や、秋の訪れを感じさせる栗ご飯。「旬」を食べるという行為には、身体を整えるだけでなく、心を癒やし、生活そのものを豊かにしてくれる力があります。

四季のある国で育まれた、食と暮らしの知恵

日本にははっきりとした四季があり、それぞれの季節に応じて旬を迎える食材があります。春にはタケノコや菜の花、夏には枝豆やトマト、秋には栗やキノコ、冬には大根や柚子など、自然のリズムとともに食材は入れ替わり、まるで季節が目に見えるように感じられます。
かつての日本の家庭では、冷蔵庫や保存食に頼らず、身のまわりで手に入る旬のものを上手に取り入れながら暮らしていました。季節に逆らわず、その時期に自然が与えてくれる食材をありがたくいただく――その知恵は、単なる料理の知識ではなく、生き方そのものでもありました。

たとえば、夏にウリ科の野菜やすいかを食べるのは、暑さで火照った体を冷やすため。冬に根菜の煮物を食べるのは、身体の内側からあたため、風邪をひきにくくするため。旬の食材は、理屈ではなく経験から得た暮らしの知恵として、日々の生活の中に溶け込んでいます。

旬を食べると、体も心も元気になる

旬の食材が体にもたらす影響はとても大きいです。その季節に必要な栄養素が多く含まれていることが多く、無理にサプリメントや特別な食材に頼らなくても、自然とバランスのとれた食生活が実現できます。
春の野菜は、冬の間にたまった老廃物を排出してくれる働きがあります。菜の花やフキノトウなどのほろ苦さは、体の目覚めを促すと言われています。夏は、トマトやナス、ゴーヤなどの水分やカリウムが豊富な野菜が、暑さで疲れた体をクールダウンしてくれます。

秋は、食欲の季節とも言われますが、それは実際に栄養価の高い食材が豊富に揃うから。きのこ類はビタミンDが豊富で、骨の健康を保つ働きもあります。そして冬の野菜は、根菜や葉野菜を中心に体をあたためる力を持ち、免疫力を高めてくれます。

また、旬の食材は流通量も多く、価格も安定しています。スーパーや市場で「旬のおすすめ」として手に取りやすいところに並べられているので、取り入れやすく、家計にもやさしいのが魅力です。

忙しい日々の中で、季節を感じる工夫を

平日の仕事帰り、疲れた身体で台所に立つのはなかなか大変なことです。でも、ほんの少しでも季節を意識することで、料理の時間が“作業”から“楽しみ”に変わることもあります。
たとえば、春には新じゃがでシンプルな塩煮、夏には冷やしたトマトに塩とオリーブオイルをかけるだけの一品、秋には炊飯器でできるキノコの炊き込みご飯、冬には根菜を使った豚汁など。手のかからない調理法でも、旬を活かせば、立派な“季節のごちそう”になります。

少しだけ料理の香りや彩りを意識してみると、不思議と気分も変わります。冷蔵庫の中に季節の野菜があるだけで、ちょっと気持ちがやわらぐこともあるのではないでしょうか。

家族や子どもと一緒に楽しむ“旬の時間”

食卓は、家族との会話が生まれる場所でもあります。今日の食事がどこかで見た風景や思い出とつながっていたりすると、そこから自然と話が弾みます。「これ、昔おばあちゃんがよく作ってくれたよね」「小学校の給食で出てきた味だね」――そんな言葉が交わされるだけで、季節がもたらすぬくもりを感じられます。

また、お子さんにとっては、旬を通じて季節を学ぶいい機会にもなります。買い物に出かけるときに「今は何が旬か探してみよう」と声をかけるだけで、食への関心が高まり、自然と食育につながります。食材を一緒に洗ったり、切ったりするだけでも、季節に触れる小さな体験になります。

まとめ：自然のリズムに寄り添う丁寧な暮らしを、食卓から

忙しい現代だからこそ、私たちは季節のリズムを忘れがちです。しかし、ほんの少し意識を向けるだけで、食卓からでも季節を感じることはできます。
「旬を食べる」ことは、栄養のある食事をとるというだけではなく、自分や家族を思いやり、心と体の調子を整える行為でもあります。自然に沿った暮らし方は、ストレスの多い現代において、ひとつの癒しとなるのではないでしょうか。