セキュリティ投資はコストか?経営に与える「信頼」の影響

日々進化するテクノロジーの中で、企業がインターネットを活用したサービスを展開することはもはや当たり前になりました。Webサービスやアプリ、クラウド業務の普及によって利便性は向上しましたが、それと引き換えに、情報漏洩やサイバー攻撃といったリスクも身近なものとなっています。特にWebサービスやアプリを提供する企業にとっては、顧客の情報を預かる責任があり、万が一のインシデントは信頼の失墜に直結します。
こうした背景の中で問われているのが、「セキュリティ投資はコストなのか、それとも企業価値を高める投資なのか」という視点です。

セキュリティが支える企業の「信頼」

企業経営において、信頼は売上や資産と同じくらい重要な“無形資産”です。とくに、Webサービスを提供する企業や個人情報を扱う業態では、たった一度の情報漏洩や脆弱性の露呈が致命的な打撃となり得ます。
2023年には大手通信会社の個人情報流出がニュースとなり、30万人以上の情報が外部に漏洩しました。この事件は世間の注目を集めただけでなく、企業としての信用にも大きな傷を残しました。信頼の回復には時間がかかり、短期的な損害をはるかに上回る長期的な損失につながることもあります。

反対に、堅牢なセキュリティ体制を整えている企業は、「この会社なら安心できる」という評価を得やすくなります。BtoB取引においても、近年ではセキュリティ体制が取引条件となることが増え、信頼性そのものがビジネスチャンスを左右する時代になっています。

セキュリティは“費用”ではなく“将来損失の予防”

「セキュリティにかける予算がもったいない」と感じる経営者も少なくありません。とくに中小企業では、限られた予算の中でどこに投資すべきかの判断が難しくなりがちです。しかし、サイバー攻撃の被害は企業規模を問わず発生しており、標的になるのは大企業だけではありません。

実際に、IPA(情報処理推進機構)が発表した2024年の報告書によれば、サイバー攻撃による1件あたりの平均被害額は約2億8000万円にのぼるとされています。さらに、顧客対応や再発防止対策、風評被害対策など、目に見えないコストも含めれば、損失はさらに膨らみます。一方で、多要素認証の導入や、AIによるウイルス検知、アクセスログの監視、従業員のセキュリティ教育などは、大きな投資をせずとも始められる対策です。とくにSaaS型のセキュリティサービスは中小企業にも手が届きやすく、初期コストを抑えて信頼性を高める手段として注目されています。

つまり、セキュリティ投資は「今、見えない損失を防ぐ未来への備え」であり、将来のブランド価値と経営安定を守るための保険のようなものといえます。

経営・法務・ITの三位一体で「安心」をつくる

セキュリティ体制の構築は、技術部門だけに任せるものではありません。近年の法制度の変化やグローバル対応の流れを受けて、経営層や法務部門も含めた組織的な取り組みが求められています。2022年の個人情報保護法の改正では、事業者に対し迅速な報告義務や被害者への通知義務が課されるようになりました。これにより、企業としての「情報に対する姿勢」が問われる時代になっています。

また、海外展開を視野に入れる企業にとっては、GDPR(EU一般データ保護規則)などの海外法規への対応も欠かせません。このような規制は、ただの法令順守ではなく、企業の「誠実さ」や「透明性」を評価する基準として見られています。
情報漏洩のリスクだけでなく、「守るべきルールを守っているか」という点も、社会や顧客からの信頼を左右するのです。だからこそ、経営・法務・ITの三部門が連携し、計画的にセキュリティ方針を策定することが重要になっています。

セキュリティを「差別化の武器」に変える

セキュリティ対策は、防衛手段であると同時に、他社との差別化を図る「攻めのツール」にもなります。とくに、セキュリティに関する国際認証(ISO/IEC 27001など)を取得することで、第三者からの信頼を得やすくなり、新規取引の促進にもつながります。
ある中堅IT企業では、セキュリティ体制の強化をマーケティング戦略に組み込み、「安全性と透明性」を前面に出すことで、大手企業との取引を次々に実現しました。また、AI技術を活用した自社開発のセキュリティツールを外部企業に提供し、新たな収益モデルを築いた事例も見られます。
セキュリティを“守り”のものと見るだけでなく、“信頼”を資産として活用し、成長戦略の一部として捉える視点が、今後の企業にはますます求められていくでしょう。

 

セキュリティ投資は「信頼のインフラ」

セキュリティ投資は、単なるリスク回避のための出費ではなく、信頼を築き、守り、広げていくための大切な取り組みです。目に見える売上には直接つながりにくいかもしれませんが、顧客との長期的な関係性や、ビジネスの継続性、さらには新しい価値創出に深く関わっています。

インターネットやスマートフォンが生活の基盤となる今、情報の安全性は、企業の“選ばれる理由”になります。だからこそ、セキュリティへの投資を「未来への準備」として前向きに捉え、経営の中心に据えていく姿勢が、これからの企業に求められているのではないでしょうか。

カテゴリ
インターネット・Webサービス

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