SNS×ECで加速する“ソーシャルコマース”:企業はどう組織を変えるのか

SNSを通じて商品を見つけ、そのまま購入までつながる「ソーシャルコマース」は、世界的に拡大を続けています。日本でもこの動きは加速しており、SNSが単なるコミュニケーションの場から、企業と顧客を直接結ぶ“購買の入り口”へと変化しました。従来のECサイト中心の販売戦略から、SNSを軸に据えた新たな顧客体験づくりが求められている今、企業の組織はどのように変わるべきでしょうか。

 

ソーシャルコマースの急成長と市場環境

ソーシャルコマースとは、SNS上で商品やサービスの発見から購入までが完結する仕組みを指します。InstagramやTikTok、LINE VOOMなどのプラットフォームがその代表格で、ユーザーは友人やインフルエンサーの投稿をきっかけに商品を知り、スムーズに購入へと移行します。
市場データによると、日本のソーシャルコマース市場は2025年に約3兆7,000億円(約253億米ドル)に到達する見込みで、年平均成長率はおよそ9.9%に上ると予測されています。加えて、ライブコマース市場は2024年の時点で約13億米ドル、2030年には73億米ドルまで拡大するとの見通しもあり、ECとSNSの融合は今後さらに加速していくと見られます。スマートフォンの普及率は国内で97%を超え、SNSの平均利用時間は1日あたり1時間以上という調査もあり、消費者が常に「つながりながら買う」環境が整っています。
こうした背景から、企業は“ECサイトで待つ”のではなく、“SNSで顧客を迎えに行く”という発想への転換を迫られています。投稿・動画・ライブ配信など、SNS上のコンテンツ自体が新しい販売窓口となり、マーケティング戦略と組織構造を再定義する必要が出てきました。

 
組織が直面する課題と変化の圧力

急成長の裏で、多くの企業は新しい課題にも直面しています。最大の課題は、SNS・Webメディア・EC部門の連携不足です。部門ごとにKPIが異なり、SNSはフォロワー数やエンゲージメント、ECは売上や在庫回転率など、指標の方向がそろっていないケースが多く見られます。この結果、SNSで得た顧客の興味がECサイトの購買につながらないという断絶が起きています。さらに、サイバーセキュリティのリスクも高まっており、SNSを通じて直接購入へ誘導する構造では、不正リンクや偽アカウント、フィッシング詐欺などのリスクが顕在化しています。SNSの運用を担う部門だけでなく、IT部門やセキュリティ部門、カスタマーサポートまでを含めた統合的なリスク対策が欠かせません。
組織文化にも大きな影響が生まれています。これまでの「販売計画に基づく年次型マーケティング」から、SNSを通じたリアルタイムな顧客反応に即応する「動的マーケティング」への転換が求められています。顧客は企業の一方的な発信ではなく、共感できる“体験”を求めており、投稿コメントやライブ配信でのやり取りがブランド価値を左右する時代になっています。

 
ソーシャルコマース時代に求められる組織改革

変化を前向きに捉え、組織が進化するためには三つの視点が重要です。

まず、顧客体験を縦断的に設計する体制づくりです。SNSで商品を発見し、レビューやライブ配信で体験し、最終的に購入するまでのプロセスを一連の流れとして可視化し、部門をまたいで改善できる仕組みを整えることが大切です。マーケティング、SNS運用、EC、データ分析など複数の部署が共通KPIを持ち、顧客との接点を中心に据えたチーム構成を取ることで、購買への導線が明確になるでしょう。
次に、デジタル基盤とサイバーセキュリティの強化が求められます。SNSとECシステムを連携させ、リアルタイムでアクセスログや購入データを分析できる環境を構築する一方で、SNS投稿ポリシーの整備や不正アクセス検知などのガバナンスも必要です。特に、顧客データの取り扱いには個人情報保護法やGDPRの基準に適合する運用ルールが求められます。
そして、組織文化と人材の刷新も必要となります。固定化された業務分担を超え、クリエイティブとデータ分析を両立できる人材を育成することが、ソーシャルコマースを推進する原動力となります。意思決定のスピードを高め、現場の発想が施策に反映される柔軟なチーム構造が理想です。SNSではトレンドの変化が早く、消費者の関心も移ろいやすいため、「試して改善する」姿勢を文化として根付かせることが競争力の鍵となります。

 
まとめ:SNS×ECがもたらす新しい企業のかたち

ソーシャルコマースの拡大は、単に販売チャネルが増えるという話ではなく、企業の存在そのものを問い直すきっかけになっています。SNSを「発信の場」ではなく「顧客体験の舞台」と捉え、購買につながる流れをどう設計するかが、今後の企業成長を左右します。
アジア太平洋地域の市場規模は2033年に160兆円を超えると予測されており、日本もこの成長の波に乗るためには、マーケティング、販売、IT、セキュリティ、組織文化を横断的に再構築する必要があります。SNSとECが融合する時代において、顧客とのつながりをどれだけ柔軟に設計できるかが、企業の新しい競争力となるでしょう。

カテゴリ
インターネット・Webサービス

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