SNS運用が“続かない企業”に共通する設計上の課題とは

企業のSNS活用は、今や特別な取り組みではなく、広報やマーケティングの一部として当たり前に語られる存在になりました。しかし現場に目を向けると、開設当初は意欲的に投稿していたものの、数か月後には更新が止まり、アカウントだけが残っている企業も少なくありません。「担当者が忙しくなったから」「ネタが尽きたから」といった理由が語られがちですが、それだけで片付けてよい問題でしょうか。
国内調査では、企業アカウントの約6割が「継続運用に課題を感じている」と回答しており、個人の努力や熱意だけでは乗り越えにくい構造的な要因が潜んでいると考えられます。SNS運用が続かない企業に共通するのは、投稿内容以前に、運用を支える設計そのものに無理がある点が考えられます。
属人化を防ぐ運用設計が継続性を左右する
SNS運用が続かない企業では、担当者一人に業務が集中しているケースが目立ちます。企画から投稿、コメント対応、効果測定までを単独で担う体制では、業務負荷が高まりやすく、繁忙期や異動の影響を強く受けてしまいます。総務省の情報通信白書でも、SNS活用の課題として「人的リソース不足」を挙げる企業は約5割に達しており、属人化が構造的な問題になっていることがうかがえます。
この状況を改善するには、専門スキルの有無に関わらず関われる役割分担を設計し、投稿作成、承認、分析といった工程を分解する視点が重要でしょう。運用マニュアルや投稿テンプレートを用意し、引き継ぎを前提とした仕組みにすることで、特定の人に依存しない安定した運用が見込まれます。
目的とKPIを結び付けることで運用は続きやすくなる
NSを始める際に目的が曖昧なままだと、成果を判断できず、次第に優先度が下がりがちです。認知拡大、採用、問い合わせ獲得、広告補完など、目的によって追うべき指標は異なりますが、その整理が不十分なままでは運用の意義が見えにくくなります。マーケティング調査では、KPIを設定している企業は、未設定の企業と比べて施策継続率が約1.7倍高いという結果も示されています。
解決の鍵は、フォロワー数やいいね数といった表面的な指標だけでなく、経営やマーケティング施策と接続する評価軸を持つことにあるでしょう。月次で振り返れる数値を設定し、経営層と共有する仕組みを整えることで、SNSは「やった方がいい活動」から「意味のある業務」へと位置付けが変わっていくと考えられます。
分析と改善を前提にした運用フローを組み込む
投稿を続けていても成果が実感できない状況は、現場の疲弊を招きます。その背景には、分析と改善が業務設計に含まれていない問題があります。SNSは投稿時間や内容による反応差を数値で確認できる点が特徴ですが、分析の時間が確保されていないと感覚的な運用に偏りやすくなります。実務データでは、月1回以上インサイトを確認している企業は、エンゲージメント率が平均で約30%高い傾向が見られます。
運用を改善するには、投稿後に必ず振り返る時間を業務として組み込み、小さな仮説検証を繰り返すことが効果的だと考えられます。分析を専門的な作業にせず、簡易的なチェック項目として定型化することで、現場の負担を抑えながら改善が回り始めるといえるでしょう。
続くSNS運用は経営設計から逆算する
SNS運用を安定させるためには、現場任せにせず、経営やマーケティング戦略の中に位置付ける視点が欠かせません。目的を明文化し、役割を分散し、分析と改善を業務として設計することで、SNSは個人作業から組織的な仕組みへと変わっていきます。加えて、ブランドリスクへの対応方針やITツールの活用を事前に定めておけば、炎上や担当者交代といった不測の事態にも対応しやすくなるでしょう。
SNSは短期的な成果を求める施策ではなく、中長期で企業価値を育てるマーケティング資産と捉える姿勢が重要ではないでしょうか。続かない理由を人の問題として片付けるのではなく、設計を見直すことこそが、実効性のある解決策につながると考えられます。
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