ディープフェイクと投資詐欺:技術の進歩がもたらした「見えない罠」

人工知能(AI)の進化は、私たちの生活や経済活動を効率化し、投資の世界にも新しい選択肢をもたらしてきました。情報収集や分析が容易になり、個人が資産形成に取り組みやすい環境が整いつつあります。一方で、この技術は犯罪の手口にも取り込まれています。

警察庁の公表によれば、2024年上半期のSNS型投資詐欺の被害額は約660億円に達しました。認知件数も前年同期比で大きく増加しており、被害は一部の人に限られた問題ではなくなっています。生成AIを用いた自然な文章や映像、音声によって、信頼そのものが再現される状況が生まれているためです。

 

統計が示す、投資詐欺の「量」から「質」への変化

金融庁や警察庁の資料を総合すると、近年の投資詐欺には二つの特徴が見られます。一つは被害件数の増加、もう一つは被害単価の上昇です。

2020年頃まで主流だった詐欺は、比較的少額を広く集める手法が中心でした。しかし2023年以降は、1件あたり数百万円から数千万円に及ぶ被害が目立つようになっています。これは、AIによって信頼関係の構築が効率化された結果、より深く踏み込んだ勧誘が可能になったためと考えられます。

また、被害者の年齢層にも変化が見られます。警察庁の分析では、50代以上が多数を占める一方で、30〜40代の被害も増加傾向にあり、資産形成期を狙った詐欺が拡大していることが示唆されています。詐欺は一部の層の問題ではなく、広く社会全体のリスクになりつつあるといえるでしょう。

 

ディープフェイクと音声合成がもたらす信頼の錯覚

AI詐欺を語るうえで欠かせないのが、ディープフェイクと音声合成技術です。海外の調査会社による推計では、2023年時点でディープフェイクを用いた詐欺被害は前年比で数倍規模に拡大したとされています。

動画や音声が提示されると、人は文章情報よりも高い信頼性を感じやすくなります。これは心理学的にも知られており、視覚情報は直感的な判断を強く刺激するとされています。AIによる偽造は、この認知特性を巧みに利用しているといえます。

実在の経営者や専門家が投資を勧めているように見える映像や、家族や上司の声を再現した音声が使われることで、疑念を持つ前に行動してしまうケースが増えています。見たもの、聞いたものを前提に判断する従来の感覚は、すでに安全策とは言い切れなくなっています。

 

データから考える、現実的な資産防衛の視点

消費者庁や警察庁の分析によると、高額な詐欺被害の多くは「第三者に相談しないまま判断した」状況で発生しています。相談の有無が、被害の規模を分ける一因になっていると考えられます。

この点からも、資産防衛には多層的な確認が欠かせません。公式情報の照合、多要素認証の導入、時間を置いた再検討といった基本的な行動は、被害リスクを下げる要素として整理されています。

注目すべき点として、防御側でもAIの活用が進んでいます。金融機関では、不正取引や詐欺の兆候を検知するAIシステムの導入が広がっており、攻撃と防御の双方でAIが使われる段階に入っています。その中で重要性を増すのは、人の判断と制度的な仕組みを組み合わせる視点だといえます。

 

まとめ

投資詐欺を巡る統計は、この問題が一過性ではないことを明確に示しています。被害額の拡大、年齢層の広がり、手口の高度化は、今後も続く可能性が高いと見込まれます。

そのような環境で求められるのは、完璧な知識よりも、立ち止まって確認する姿勢です。統計が示す通り、孤立した判断は被害リスクを高めます。家族や友人、専門家との対話は、最も現実的で効果の高い防御策の一つといえるでしょう。

AIは強力な道具ですが、万能ではありません。数字と事実を冷静に見つめ、人とのつながりを保ちながら判断する力が、AI時代の資産防衛の土台になるのではないでしょうか。

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