デジタルからリアルへ。D2Cブランドが「店舗」で成長の壁を突破する理由

デジタルで広がったD2C、その先に見えてきた変化

D2C(Direct to Consumer)は、メーカーが中間業者を介さず消費者へ直接販売する仕組みとして広がりました。SNSと自社ECを軸にした運営は、高い利益率と顧客データの蓄積を両立できる点で革新的だったといえます。実際、米国では2010年代後半にD2Cブランドの売上が急拡大し、eMarketerの推計では2021年の米国D2C市場規模は約1,280億ドルに達しました。日本でもアパレルやコスメを中心に参入が相次ぎ、新規ブランド創出の土壌が整ったと考えられます。

ところが現在、多くのブランドが成長の踊り場に立っています。象徴的なのが顧客獲得単価(CAC)の上昇です。米国のマーケティングデータ企業の分析では、FacebookやInstagramの広告費は2018年以降数年で大幅に上昇したと報告されています。競争激化により広告単価が数倍になるケースも確認され、新規顧客を獲得しても初回利益で回収できない構造に陥る企業も出てきました。

また、AppleのATT(App Tracking Transparency)導入などによりターゲティング精度が低下し、広告効率は以前ほど安定しなくなっています。オンラインだけで急成長する前提が揺らぎ始めたことが、いわゆる「成長の壁」の背景にあるといえるでしょう。

 

なぜ今、実店舗が再び注目されるのか

こうした状況のなかで、改めて注目されているのが「実店舗」です。一見するとデジタルからの後退に見えるかもしれませんが、実際にはブランド体験を広げるための前向きな選択と考えられます。

店舗に足を運ぶと、商品を実際に手に取ることができます。質感を確かめ、色味を見て、サイズ感を試し、スタッフと会話を交わす。その一連の体験が、購入への安心感につながることは少なくありません。特にアパレルや美容商材では「実際に試せる」という価値が大きく、納得感が生まれやすいと考えられます。
ECでは返品率が20〜30%に達するカテゴリーもあるといわれています。店舗で体験してから購入することで、こうした返品リスクが抑えられる可能性もあります。体験がコスト削減につながると考えると、店舗は単なる販売拠点ではなく、戦略的な投資ともいえるでしょう。

さらに、物理的な拠点は信頼の可視化でもあります。高単価商品や継続利用型プロダクトでは「実際に存在する場所」が安心材料になります。百貨店や主要商業施設への出店は、ブランドの信用力を示すシグナルとして作用し、新規層への認知拡大が期待されます。オンラインだけでは接点を持ちにくかった顧客層に届く可能性も高まるでしょう。

 

オンラインとリアルをつなぐことで生まれる長期的価値

実店舗の価値は、感覚的なものだけではありません。数値面でも効果が示唆されています。Harvard Business Reviewの調査では、複数チャネルを利用する顧客は単一チャネル利用者より支出額が高い傾向があると報告されています。オンラインと店舗の両方を利用する顧客は、来店頻度や購入額が増える可能性があります。
店舗で商品を体験し、後日オンラインで再購入する。オンラインで注文し、店舗で受け取る。こうした行動はすでに一般的になりました。チャネルを分けて考えるのではなく、つなげて設計することが重要だといえます。

ショールーム型店舗のように、在庫を最小限に抑えた運営も増えています。展示中心にし、購入はオンラインで行う形なら固定費を抑えながら体験価値を提供できます。データとリアルを組み合わせる発想が、今後の小売の標準になるのかもしれません。さらに、店舗はコミュニティ形成の場にもなります。イベントやワークショップを通じて顧客同士がつながり、ブランドとの関係が深まる。その熱量がSNSで自然に広がれば、広告に依存しない拡散も見込まれます。

 

成長の壁は、次の進化への入り口かもしれない

D2Cブランドが直面する成長の鈍化は、終わりではなく転換点と捉えることができるのではないでしょうか。これまで効率とスピードを重視してきたモデルが、体験や信頼といった質的価値を取り込み始めた段階にあるともいえます。オンラインで集めた顧客データを店舗接客に活かし、店舗で得た声を商品開発へ反映する。その循環が生まれれば、ブランドは単なる販売者から、生活の一部へと存在感を広げていくでしょう。

広告費が高騰する時代において、体験を通じたファン化は、長期的に見れば最も効率的な成長戦略になる可能性があります。デジタルの俊敏さとリアルの温度感。その両方を柔軟に組み合わせられるブランドこそが、次の10年を切り拓いていくのかもしれません。成長の壁は、止まるためのものではなく、進み方を見直すためのサインなのではないでしょうか。

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インターネット・Webサービス

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