子どもの弱視と斜視はどう違う?知っておきたい視力の話
子どもの視力に関する悩みは、保護者にとって見過ごせない問題のひとつです。「目が寄っているように見える」「見えにくそうにしている気がする」など、小さな違和感が将来的な視力の問題につながることもあります。そのなかでも、混同されがちな「弱視」と「斜視」は、まったく異なる原因と治療法をもつ視力の障害です。
多くの親御さんが「成長すれば自然に治るのでは」と考えがちですが、実は弱視も斜視も放置して治ることはほとんどありません。視力の発達には限られた時期があり、早期発見・早期治療が将来の“見える力”を左右します。
成長だけでは治らない?弱視の特徴と治療の可能性
弱視とは、目そのものに病気や器質的な異常がないにもかかわらず、視力が十分に発達しない状態を指します。原因には、左右の目の視力差(不同視)や遠視・乱視といった屈折異常、さらには斜視や眼の病気による視覚刺激の遮断などがあり、脳が片目からの視覚情報を無視することで視力の発達が阻害されます。
視力は生後すぐから6〜8歳ごろまでに急速に発達します。この期間が「感受性期」と呼ばれ、治療の効果が最も期待できる時期です。最新の研究では、かつては「治療は6歳まで」とされていたものの、最近では12〜15歳でも改善が見られる例が報告されています。とはいえ、年齢が上がるほど改善の可能性は下がるため、早期発見・早期治療の重要性は変わりません。
日本弱視斜視学会によれば、日本の3歳児健診で弱視の疑いが見つかる割合は約2〜3%、世界的なメタ分析では1.36%と報告されており、決してまれな疾患ではありません。治療には眼鏡による矯正のほか、アイパッチ療法(健常な目を覆って弱視の目を鍛える)やアトロピン点眼などが用いられます。正しい治療を行えば、8〜9割の子どもで視力の改善が期待できるとされています。
斜視は見た目だけの問題ではない——自然に治るのか?
斜視とは、片方の目が正しく正面を向いているにもかかわらず、もう片方の目が内側、外側、あるいは上下にずれてしまう状態をいいます。内斜視、外斜視、上下斜視といった分類があり、ずれの方向や持続時間によってタイプが異なります。
乳児に見られる「乳児内斜視」はごくまれに成長とともに軽快することもありますが、多くの斜視は自然に治癒することはなく、視機能への悪影響を引き起こすリスクがあります。斜視を放置しておくと、両目で物を見る力(両眼視機能)が育たず、立体感や距離感を捉える力が損なわれたり、弱視を併発する恐れもあるのです。
治療は斜視の種類により異なりますが、「調節性内斜視」であれば眼鏡での矯正によって目の位置が整うこともあります。その他、視能訓練士によるリハビリや、必要に応じて手術が行われることもあります。最近では再発リスクを減らすために、「アジャスタブル縫合法」と呼ばれる再調整可能な斜視手術の技術も進化しています。
日常生活に潜むヒントと新たなリスク:スマホ時代の注意点
子どもの視力異常は、専門家でなければ気づきにくいものですが、日常生活の中に小さなサインが隠れていることもあります。たとえば、片目をつぶって見る、顔を傾ける、テレビを異常に近くで見たがる、写真を撮ったときに片目の位置がずれて見えるなどが代表的な兆候です。
また、近年ではデジタル機器の使用が斜視の新たなリスク要因として注目されています。厚生労働省と小児眼科医会の共同発表によれば、スマートフォンやゲーム機などの長時間使用が外斜視や調節障害に関連している可能性があるとされ、30分に1回の休憩や30cm以上の距離を保つことが推奨されています。
家庭でできるチェックや3歳児健診・就学前健診を活用することで、異常の早期発見につなげることができます。子どもの視力は「今」しか育たないものであるからこそ、大人の観察と行動が大切です。
メガネは治療の第一歩。自然に任せず親子で視力を守ろう
「子どもが眼鏡をかけるのはかわいそう」と感じる方もいるかもしれません。しかし、眼鏡は単なる視力矯正具ではなく、視力を“育てる”ための重要な治療器具です。特に弱視や調節性斜視においては、適切な眼鏡の使用が視力改善や斜視の矯正に大きく寄与します。
成長によって視力が自然に改善するという考え方は、現代の医療の立場では否定されています。視力の発達は8歳前後までに完成するとされており、それ以降は治療効果が出にくくなるため、治療の“最適な時期”を逃さないことが大切です。治療には時間がかかることが多く、途中での中断やモチベーションの低下も課題となります。保護者が理解し、根気強くサポートする姿勢が、子どもの視力を守る何よりの支えになるでしょう。
まとめ:自然に任せず、今できる視力ケアを
子どもの視力は、心身の発達と同じく「今しか伸ばせない」成長の一部です。弱視や斜視は、単なる目の問題ではなく、学習や生活の質にも関わる大切なテーマであり、成長に任せて自然に治ると考えるのは危険です。
目の健康を守るためには、早期の気づき、専門機関での適切な検査、そして必要に応じた治療の継続が不可欠です。親子で一緒に取り組むことで、子どもが明るく広い「見える世界」を育む手助けとなります。視力の土台をつくるこの大切な時期に、しっかりとしたサポートを届けてあげましょう。
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