海外ではどう向き合っている?男性更年期とグローバル事例
年齢を重ねる中で心や体に変化を感じることは、誰にでも起こりうることです。その中でも男性に起こる「男性更年期」は、見過ごされやすいにもかかわらず、生活の質を大きく左右する問題として注目されています。日本ではまだ十分に理解が進んでいない一方で、海外では医療や社会の仕組みを通じて、男性が抱える変化と向き合う動きが広がっています。
見落とされがちな男性更年期―症状と背景
男性更年期とは、男性ホルモン(テストステロン)の分泌量が加齢とともに低下することによって生じる心身の不調のことを指します。医学的には「加齢男性性腺機能低下症(LOH症候群)」と呼ばれ、40代後半から60代にかけて発症するケースが多く見られます。
症状には、疲労感や睡眠障害、集中力の低下、性欲の減退、抑うつ感、イライラといった精神的なものから、筋力の低下や体脂肪の増加といった身体的な変化まで多岐にわたります。こうした変化は、本人にとっても原因が分かりにくく、「年齢のせい」と片づけてしまいがちです。実際、日本の40代以上の男性のおよそ15~20%がこの症候群に該当すると推定されているものの、医療機関を受診する人は少なく、問題の深刻さが見えにくくなっています。
社会的にも「弱音を吐かないこと」が美徳とされがちな風潮が、男性の健康問題への対処を難しくしている背景があります。家族や職場など身近な人々の理解と支援がないまま、症状を抱え続ける男性は少なくありません。
しかし、男性更年期は放置すべきではなく、適切な対処によって改善が期待できるものです。たとえば、血液検査によるホルモン値の測定を受けることで、自身の状態を客観的に知ることができます。治療法には、テストステロン補充療法(TRT)をはじめ、生活習慣の見直しやカウンセリング、サプリメントの活用など、複数の選択肢があります。
欧米諸国の取り組み―男性の健康を社会全体で支える仕組み
ドイツでは、家庭医制度が充実しており、定期健診の中でホルモンバランスの確認が行われることも珍しくありません。症状があれば、泌尿器科や内分泌科での診断を経て、必要に応じたテストステロン補充療法が行われます。この治療法は、注射・ゲル・経皮パッチなど複数の形式があり、症状や体調に合わせて選択されます。加えて、医師と連携した栄養指導や運動プログラムが治療に組み込まれることも多く、生活全体の質の向上を重視しています。
イギリスでは「Andropause(アンドロポーズ)」という言葉が一般的に使われており、国民保健サービス(NHS)の公式サイトでも、更年期症状の自己チェックや受診ガイドラインが提供されています。治療法としては、心理的なサポートに重きを置くカウンセリングや、パートナーとの対話を促すコミュニケーション支援も重視されています。
アメリカでは都市部を中心に「Low T(低テストステロン症)」専門クリニックが数多く展開されています。テストステロン補充療法だけでなく、栄養士による食生活のアドバイスや、睡眠改善指導、ストレスマネジメントセッションなど、統合的な治療が提供されています。男性が年齢に応じて変化を受け入れ、自らの健康を主体的に管理する文化が広がっているのが特徴です。
アジアの現状と日本の課題―文化的背景と認識の壁
アジア諸国の中でも、韓国や中国では男性更年期の認知度はまだ限定的です。特に農村部では、「男性が更年期になる」という概念自体が浸透しておらず、症状が出ても我慢してしまうケースが多く見られます。それでも都市部では、泌尿器科を中心にLOH症候群に対応するクリニックが増えており、オンラインカウンセリングやスマホアプリによるセルフチェックの普及など、新しい支援の形が広がりつつあります。
日本においては、症状を自覚していても受診しない人が多く、周囲の理解もまだ十分ではありません。ある調査では、LOH症候群の可能性があるとされる男性のうち、実際に医療機関を訪れている割合は10%未満という結果も出ています。
一方で、近年は職場の健康診断にホルモン検査を導入する企業が出始めており、少しずつ環境が整ってきています。医療機関によっては、男性更年期に特化した外来やホルモン治療プランを設けているところもあり、治療の選択肢は広がりつつあります。
日本に求められる変化とは―家族・社会・医療の連携がカギ
男性更年期は、決して一人で抱え込むべきものではありません。パートナーや家族、職場の理解があってこそ、本人が症状を自覚し、適切なサポートを受けられる環境が整います。欧米諸国のように、男性の身体的・心理的な変化を社会全体が理解しようとする姿勢が、日本にも必要です。具体的には、以下のような取り組みが今後の鍵となります。
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保険診療におけるホルモン検査の普及
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自治体や企業による啓発活動と情報提供
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医師・医療従事者の知識研修と専門外来の整備
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家族やパートナーへの相談支援と対話の場づくり
日本でも徐々にメディアで取り上げられる機会が増えてきてはいますが、まだまだ「恥ずかしい」「年だから仕方がない」といった固定観念が根強く残っています。国や自治体による啓発活動、企業内でのヘルスチェック制度の導入、医師の知識向上など、取り組むべき課題は多岐にわたります。
今後、海外の先進的な取り組みから学び、医療と社会の両面から男性更年期への理解と対応が進むことが、日本の中高年男性の健康と生活の質を向上させる鍵となるでしょう。
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