氷食症に要注意:夏に急増する意外な健康リスク
蒸し暑い夏の日、つい氷をガリガリと噛んでしまう。そんな行動に心当たりがある方は少なくないかもしれません。暑さをしのぐために冷たいものを口にするのは自然なことですが、氷を食べることが毎日のように習慣化している場合には、身体からのサインを見逃している可能性があります。
実は、氷を過剰に摂取する「氷食症(ひょうしょくしょう)」という状態があり、これは単なる癖では済まされないこともあります。とくに女性や若年層に多くみられ、健康やメンタルの不調が背景にあるケースも少なくありません。
氷を食べたくなるのはなぜ?知られざる「氷食症」の正体
氷を無性に食べたくなるという行動には、医学的な背景があることがわかってきています。氷食症とは、食事としての栄養価がない氷を日常的に大量に摂取してしまう症状で、英語では「Pagophagia(パゴファジア)」と呼ばれることもあります。氷食症は「異食症」の一種で、本来食べ物ではないものを口にする傾向を指します。氷は水であり安全に見えますが、過剰な摂取には注意が必要です。なかでも多くのケースで関係しているのが「鉄欠乏性貧血」です。鉄分が不足していると、体がうまく酸素を運べず、慢性的な疲労感や頭痛、集中力の低下といった症状が現れやすくなります。このような不調があると、氷の冷たさが一時的な刺激となって脳を活性化させるため、体が無意識のうちに氷を求めてしまいます。
氷を数個口にする程度であれば問題ありませんが、1日中氷を噛んでいないと落ち着かない、氷を切らすと不安になる、といった状態が続いているようなら、一度体調を振り返ってみることが大切です。
氷への執着の裏に潜むストレスと生活習慣
氷食症は、鉄分不足だけでなく心理的な要因とも深く関わっています。とくに近年では、SNS上で「氷がないとイライラする」「氷を持ち歩いている」といった投稿も見られ、氷への強い欲求がライフスタイルの一部となっている人も少なくないようです。
このような背景には、日々のストレスや不安感、孤独などのメンタル面の負荷が隠れていることがあります。氷を噛む行為には、感情を鎮めたり、無意識の不安を和らげたりする役割があるとも考えられています。なかには、過去に摂食障害の傾向があった人や、思春期の若者、仕事や子育てに追われる30〜40代の女性にも氷食症が多くみられる傾向があります。
また、食事の時間を削ってしまう忙しい生活や、栄養バランスの偏りも関係しています。食事の代わりに氷で空腹感を紛らわせる、という行動が長期的に続くと、より深刻な健康被害につながる恐れがあります。
氷の過剰摂取が体に及ぼすリスクとは?
氷は水からできており、一見無害なように思えますが、習慣的な摂取が続くと以下のような健康への影響が懸念されます。胃腸が冷えることによって消化機能が低下し、食欲不振や腹痛などの症状が現れることがあります。冷たいものを過剰に摂ることで体の代謝も落ちやすくなり、免疫力の低下につながることもあるでしょう。
さらに、氷を噛むことで歯に強い負担がかかります。硬い氷は歯の表面を傷つけたり、知覚過敏やヒビ割れを引き起こす原因になります。実際、歯科を受診する患者のなかに、「氷を食べ続けて歯が欠けた」と訴えるケースもあるほどです。そのうえ、氷の摂取が慢性化している場合には、根本的な体調不良や精神的なストレスが背景にあることも多いため、早めの気づきと対処が必要です。
氷食症への対策と、必要なサポートの考え方
氷をやめたいと思っても、なかなかやめられない。そんなときは、まず自分の身体や心に目を向けてみることが大切です。氷を食べたくなる原因が、鉄分不足なのか、ストレスなのか、あるいはその両方なのかを明らかにすることで、適切な対応ができるようになります。
貧血が疑われる場合は、内科や婦人科での血液検査を受けてみましょう。治療が必要であれば、鉄剤の処方や食生活の見直しが行われます。鉄分を豊富に含むレバーや赤身の肉、ほうれん草、ひじきなどを積極的に取り入れることも有効です。一方、心理的な側面が強い場合には、氷を食べたくなったときに代替行動を用意することが効果的です。たとえば、ハーブティーをゆっくり飲む、手を動かして気を紛らわせる、軽く散歩をするなど、自分に合ったリラックス方法を見つけることで、習慣を徐々に緩和できることがあります。
氷を「やめなければいけない」と無理に抑え込もうとするのではなく、まずは自分の体と心の状態に優しく寄り添い、必要であれば専門家のサポートを受けることも選択肢の一つです。
おわりに:夏の癖にひそむサインを見逃さないために
暑い季節に冷たいものを求めるのは自然なことです。しかし、その習慣が度を超えていたり、日常生活に影響を与えていたりする場合には、何らかの不調が隠れている可能性があります。
氷食症は、「氷を食べること」そのものよりも、「なぜそうした行動を繰り返してしまうのか」という背景に注目することが大切です。体の栄養状態や心の疲れを見直すきっかけとして、氷への執着をただの癖と片づけずに受け止めてみましょう。
暑さに負けない健康な毎日を過ごすためにも、何気ない日々の習慣に小さな気づきを持つことが、自分自身を守る一歩につながります。
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