更年期に起こる“膝の違和感”、見逃してはいけないサインとは

更年期を迎えるころ、体の変化はさまざまな形で現れます。多くの人がホットフラッシュや気分の波、睡眠の乱れなどを思い浮かべるかもしれませんが、実は「膝の違和感」も見逃せないサインの一つです。
40〜60代の女性のうち、およそ7割が関節のこわばりや痛みを経験していると報告されており、特に膝の重さや立ち上がり時の不安定さを訴える人が増えています。こうした変化は単なる“加齢現象”ではなく、ホルモンと筋肉・骨の関係が深く関わっています。放置すれば、変形性膝関節症などの慢性的な疾患につながることもあるため、早い段階での気づきとケアが大切です。
ホルモンと筋肉の変化が膝に与える影響
更年期を迎えると、体内のエストロゲン分泌が大きく減少します。エストロゲンは骨や関節の新陳代謝を支え、軟骨細胞の修復を助ける役割を持っています。ホルモン量の減少によって関節内の潤滑が低下し、わずかな衝撃でも膝の軟骨に負担がかかりやすくなります。
日本整形外科学会によると、50代の女性のおよそ60%が膝の違和感を訴え、その半数が閉経後に痛みを自覚するようになったと報告されています。エストロゲンの減少と関節痛の関連性は、医学的にも明確に認められつつあります。
同時に、筋肉量の低下も膝の安定性を弱める原因です。人間の筋肉量は40歳を過ぎると年に0.5〜1%ずつ減少し、特に太ももの前側にある大腿四頭筋の衰えは膝への負担を増やします。筋肉が関節を支えられなくなることで、歩行や階段動作のたびに膝がぐらつき、違和感や痛みを感じやすくなるのです。
こうした変化が重なることで、日常の中で「膝が重い」「しゃがむのが億劫」といった初期症状が現れます。初期の違和感を放置してしまうと、関節の変形や炎症が進み、慢性的な痛みへと発展することがあります。
「年齢のせい」と決めつけず、早めのサインに気づくことが重要
膝の違和感は、軽い不快感やこわばりから始まります。たとえば、朝の起床時に膝が重く感じる、長時間座ったあとに動かすと痛みが走る、階段の上り下りがつらいといった症状です。これらは単なる疲労ではなく、膝関節の軟骨がすり減り始めている初期サインの可能性があります。
世界保健機関(WHO)の報告では、女性の約15%が50歳以降に関節の構造的変化を経験するとされ、放置すると歩行障害や転倒リスクの上昇にもつながると指摘されています。
初期段階であれば、日常生活の見直しで進行を遅らせることができます。体重が1kg増えると、歩行時の膝への負荷はおよそ3〜4倍に増えるとされており、適正体重を保つことが基本です。
また、ウォーキングやスイミングなどの有酸素運動は膝への衝撃を抑えながら筋力を維持できるため効果的です。特に太ももの前側(大腿四頭筋)を鍛える軽いスクワットや椅子に座っての膝伸ばし運動は、日常に取り入れやすい方法として整形外科医も推奨しています。
さらに、ホルモンバランスの変化を踏まえて、必要に応じて医師にホルモン補充療法やサプリメント相談を行うのも一つの選択肢でしょう。
女性だけでなく、男性にも訪れる「膝年齢」
更年期と聞くと女性特有の変化と捉えがちですが、男性も40代以降になるとテストステロンの分泌が減少し、筋肉量や骨密度が低下します。日本整形外科学会のデータでは、男性の約25%が50代で何らかの膝の違和感を感じていると報告されています。
特にデスクワーク中心の生活では、下半身の筋力低下が早く進行しやすく、膝関節の不安定さが増します。立ち仕事が多い人は、逆に荷重ストレスによって関節軟骨に摩擦が生じやすくなります。つまり、性別に関係なく「使い方の偏り」と「筋力の衰え」が膝を傷める共通要因となるのです。
生活習慣の中で膝を守るためには、1日6,000〜8,000歩程度の歩行を目標にし、正しい姿勢を意識することが大切です。さらに、膝を冷やさず温めることも関節液の循環を促し、炎症の緩和につながります。軽いストレッチや温浴を取り入れることで、膝の血流を改善し、違和感の軽減が期待できるでしょう。
まとめ
更年期の膝の違和感は、身体が送る「今を整えるためのメッセージ」です。エストロゲンやテストステロンといったホルモンの変化、筋力低下、体重増加など、複数の要因が重なって生じますが、早めに気づけば十分にケアできます。
筋肉を鍛えることはもちろん、姿勢や歩き方の見直し、体を温める習慣を持つことが、膝の健康維持につながります。自分の体の今感じている小さな違和感を、そのままにせず、丁寧にケアしていくことが何より大切です。変化を受け入れ、正しく向き合うことが、これからの人生をより快適にする第一歩となるでしょう。
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