発災後72時間が重要と言われる理由と“救助の限界”を考える
命を守るための72時間という境界線
大規模災害が発生すると、被災地では建物の倒壊や道路の寸断、通信障害が同時に起こり、多くの人が突如として危険な状況に置かれます。こうした混乱のなかで「発災後72時間が生死の分かれ目になる」と指摘されてきました。国連防災機関の分析によれば、生存率は発災48時間を過ぎるあたりから低下し、72時間を境に急激に落ち込む傾向が示されており、日本の災害統計でも同様の傾向が確認されています。
倒壊した家屋や瓦礫に閉じ込められた場合、脱水や低体温、外傷の悪化が重なり、身体の許容限度が急速に縮まっていきます。だからこそ、最初の3日間が生存率を大きく左右する時間といえるでしょう。災害に直面したとき、状況を冷静に整えられない場面が多く見られますが、この「72時間をどう耐え抜くか」が命をつなぐ鍵になると考えられます。
救助が追いつかない理由は“地形と人員”にある
被災地域へ救助隊が到達できない理由として、地形の制約が大きく影響しているといえます。山間部では道路が崩れやすく、迂回路が存在しない地域も多く、平野部であっても液状化や冠水によって移動が難しくなるケースが報告されています。とくに地方部の集落は主要道路が一本に限られる場所も多いため、救助隊がたどり着くまでに時間がかかることが避けられない状況でしょう。
さらに問題となるのが救助人員の減少です。総務省消防庁の統計では、全国の消防団員はこの20年で約30%減少しており、専門的な救助訓練を受けた人材の確保が難しくなっています。こうした現実を踏まえると、巨大災害が起きた際に即座に十分な人数を投入することが難しくなる場面は増えると考えられます。
発災後の限られた時間で救助を行うには、被災地域の道路事情、人員体制、地形の特徴を日頃から理解しておく必要があり、地域全体で防災力を底上げしていく取り組みが求められるのではないでしょうか。
技術と情報が救助の限界を補い始めている
救助活動の現場では、技術の進歩が生存率を押し上げる可能性を広げています。たとえばドローンによる上空からの被害把握は、発災から1時間以内に広範囲の写真を得られるようになり、救助隊がどの地域を優先すべきか判断しやすくなりました。加えて人工衛星の観測データやAI解析を組み合わせることで、地滑りの危険箇所や道路断絶の位置を迅速に特定でき、救助隊の移動時間を短縮する事例も報告されています。
SNSや個人投稿から被災状況を解析する技術の精度も高まりつつあり、実証実験では従来より20〜30%早く救助対象を割り出せたケースが確認されています。こうした仕組みが広がれば、救助の限界を少しずつ補えるようになると期待されます。ただし、大規模災害時には通信が途絶しやすいという弱点もあるため、衛星携帯や多重化された通信インフラの整備が不可欠といえるでしょう。
技術は救助を支える強力な手段となりつつありますが、情報が正しく伝わる基盤が整っていなければ十分に機能しません。自治体や地域団体との連携により、平時から運用できる体制を育てておく必要があると思われます。
自力で72時間を生き抜く備えを整える
救助が必ず迅速に到着するとは限らない現実を踏まえると、私たちができる最も直接的な対策は「自分と家族を72時間守れる備え」を整えることだといえます。政府は1人1日3リットルの水、3日分の食料、簡易トイレは最低7回分を推奨しており、これらは災害時に生命を維持するための基準として重要です。
常備薬や持病のある人のための個別セット、充電器、ライトなど生活に必要な道具をまとめた“個別防災ポーチ”を用意しておくことも生存率を高める手段となるでしょう。
都市部では倒壊リスクや火災、エレベーター停止が課題になり、地方では孤立化や道路寸断の危険が高まるため、地域ごとの課題を踏まえて備蓄の方向性を考える必要があります。自宅だけでなく勤務先や通学先で72時間を過ごす可能性もあるため、置き場所を分散させる工夫も効果的ではないでしょうか。
まとめ
発災後72時間は、統計的にも医学的にも命を守るための重要な区切りとされています。救助隊が遅れる背景には、地形や人材不足といった要因が複雑に絡み合っており、災害が起きた瞬間に万全の救助体制が整うとは限りません。一方で、技術の進歩によって救助の速度や精度が高まる可能性が広がっており、情報基盤の整備が進めば、これまで以上に救助が届きやすい社会が期待されます。
それでも最後のよりどころとなるのは、自分自身が72時間をどう乗り切るかという視点でしょう。備えを整えることで生存率が大きく変わることが見込まれるため、家庭や地域で具体的な対策を考え、行動に移す重要性が高まっています。日常の延長にある防災意識が命をつなぐ力になるのではないでしょうか。
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