ブロックチェーンで資本主義の「先」を実現する〜GFA株式会社・松田元社長インタビュー(前半)
ここ数年の間で「Web3.0」や「ブロックチェーン」などの技術や考え方は、多くの人々の間に浸透しはじめています。ブロックチェーン技術などは、暗号通貨等に使われるようになってから、一般的な人にも徐々に馴染み深いものとなっていますが、まだまだこれらの概念が我々の生活の中で当たり前のように機能しているフェーズとは言えません。
今回、ノンフィクション作家である小松成美が聞き手となり、これらの概念を活用して社会の仕組みを抜本から変える取り組みにチャレンジしようとしているGFA株式会社の松田元社長にお話をうかがいました。松田社長は2025年4月にGFA株式会社の代表取締役社長に就任し、「Web3.0」と「フィンテック」の領域で新しい事業開発に取り組もうとしています。松田社長はどんな未来を描いているのでしょうか?そのビジョンや松田社長ご自身の人となりなども掘り下げて迫っていきます。
※本稿は前後編の前編です。
松田元(まつだ・げん)
実業家、投資家、レジリエンス経営研究者、教育者、作家。長崎県長崎市に本籍を有し、1984年、神奈川県鎌倉市で生まれる。早稲田大学商学部卒業。
在学中より学生ベンチャーを創業。そのほか、複数のベンチャー役員を兼任。卒業前にアズ株式会社を創業。2012年にアズグループホールディングス株式会社設立、代表取締役就任。2016年8月に株式会社創藝社代表取締役に就任。オウケイウェイヴ株式会社(3808)代表取締役社長、ビート・ホールディングス・リミテッド(9399)取締役会議長最高経営責任者を経て、GFA株式会社(8387)代表取締役社長(現職)。衆議院予算委員会「平成28年度の予算案審議のための公聴会」に公述人として出席したほか、著書も多数。
小松成美(こまつ・なるみ)
神奈川県横浜市生まれ。広告代理店、放送局勤務などを経たのち、作家に転身。
主な作品に、『アストリット・キルヒヘア ビートルズが愛した女』『中田語録』『イチロー・オン・イチロー』『勘三郎、荒ぶる』『YOSHIKI/佳樹』『横綱白鵬 試練の山を越えてはるかなる頂へ』『全身女優 森光子』『仁左衛門恋し』『五郎丸日記』『それってキセキ GReeeeNの物語』『虹色のチョーク』『M 愛すべき人がいて』『奇跡の椅子』などがある。現在、執筆活動をはじめ、テレビ番組でのコメンテーターや講演など多岐にわたり活躍中。
小松(以下略):
松田社長、この度はインタビューよろしくお願いします。またGFA株式会社の社長就任、おめでとうございます。
松田元(以下松田):
小松さん、ご無沙汰しております。ありがとうございます。
--2025年4月にGFAの社長に就任され、華々しくプレスリリースも出されましたが、今はどのようなお気持ちですか?
松田:
あまり変わらないですね。もう4年近くGFAグループの取締役としてビジネスに参画していますから、社長に就いたからといって、あまり気持ちという面では変わらないです。
--松田さんが社長に就任されたGFAは、どのような会社ですか?
松田:
もともとは不動産と金融が事業の中心で、2006年にジャスダックに上場した会社なのですが、最近はM&Aを通じてエンターテインメント、ゲーム、飲食など様々な事業に取り組んでいます。私はその中でも新規事業やグループ経営の効率化にかかわってきたのですが、これまでは弊社が手掛けるビジネスにおいて「GFAとしての統一された世界観」のようなものがありませんでした。ビジネスをするからには、それぞれの事業が花開くようなストーリーが必要です。ですから「誰も取り残さず、全事業を包括し、市場性も成長性もあるテーマ」を掲げる必要性を実感しました。それを成功させるキーワードになるのが「Web3.0」と「フィンテック」です。
--Web3.0というのはブロックチェーン技術を基盤とした次世代分散型ネットワークのことですね。フィンテックはファイナンスとテクノロジーを組み合わせた造語で、昨今さらに注目を集めています。
松田:
はい、私はこの2つの世界にはかなり造詣が深く、そのことを前社長であり友人でもある片田朋希さんもよく知っていたので、この2つでGFAの新しいビジネスモデルを構築していく趣旨をすぐに理解してくれ、私も片田さんからの社長の打診を即答でOKしました。
--前社長である片田さんは私も面識があり、対談させていただいたこともあるのですが、証券会社のご出身で、不動や証券取引に精通されている方です。片田さんから松田さんに代表が変わったということは、会社が時代の変化とともに大きく舵を切る必要があったからなのでしょうか?
松田:
そうですね、上場企業がビジネスモデルを変えるのは珍しいことではありません。かつてIT企業がスマホゲーム黎明期にゲーム事業に転換して伸びたように、事業のストーリーさえ成立すれば発展は可能です。
--GFAの株主の皆様にとっては、株価も気になるところです。株主の皆様にサプライズを届けたいお気持ちもありますか?
松田:
経営者としてもちろんそれはあります。ただ、短期的に株価を釣り上げるだけでは意味がありません。株価を動かすのは「収益力」「将来性」「それらを束ねるストーリー」だと考えています。これをコツコツと積み上げていくのが最善です。
--松田さんが社長に就任され、御社のホームページには松田さんのスローガンが掲載されました。私も拝読させていただいたのですが、改めてこのスローガンに込めた思いを教えていただけますか?
松田:
私達は様々な事業を手掛けており、少々複雑な部分もありますからすぐに理解しようとしてもなかなか難しいのですが、ありのままを伝えるよう心がけました。要点は以下の3つだけです。
1)結果主義からプロセス主義へ--ブロックチェーンはプロセスを刻む
2)それに伴い、資本主義の形が変わる
3)みんなが楽しく、ハッピーになる
私はあの代表挨拶で少々むずかしいことを言っていますが、実は要点だけお伝えするとこのようにシンプルなものです。
--GFAのミッションとして最先端フィンテック×メタバースで未来を創るというものがあります。御社の事業の一つであるブロックチェーンや暗号通貨もフィンテックの一つとして捉えてよいのでしょうか。
松田:
フィンテックと一言で言っても本当に多岐にわたります。PayPayなどの決済サービスもフィンテックですしGMOのような証券・FX事業などを展開しているのもフィンテックといえます。ですが私達が注力しているのは、オーガニックで行動データが反映されるブロックチェーン型のペイメント、このサービスをフィンテックと捉えています。
--もう少し分かりやすく教えてください。
松田:
今では世界中のどこの国も、お金は銀行が中央集権的に管理する決済サービスを導入していますよね。例えば日本円だったら日本銀行が発行しており、日本銀行のお墨付きがあるから日本円を信頼して我々は交換手段に使っています。しかしこのような決済サービスは僕らの目指す姿ではなく、この仕組みは間違っていると考えています。
2009年にブロックチェーンという革命的な技術が誕生しました。この技術のおかげで、人類は今の社会が抱える金融課題を解決することができます。そしてこのブロックチェーン技術を社会のためにどうやって活かして役立てるか?ここが弊社の存在意義であると考えています。
--ブロックチェーンはこれまでの資本主義を根底から覆す革命的な技術で、それを活用して社会や金融の世界を変えていく、ということですね。社長の挨拶で松田さんはイギリスの首相だったチャーチルの言葉を引用されていました。どのような意図があるのでしょうか。
松田:
「資本主義は最悪だ。これまで試みられた他の全ての経済システムを除けば」という言葉ですね。あれは約150年前のチャーチルの言葉なのですが、資本主義の次の仕組みを作れない人類はダメだ。だから我々が作るという宣言です。
もう少し正確にお伝えしますと、日常で感じる矛盾を形にするだけです。経済学においては「完全情報」と「完全合理」を前提にしていますが、どちらも現実には存在しません。だから今ある資本主義という考え方にズレが生じてきているのです。ですからブロックチェーンを使ってプロセスを刻み、結果主義の資本主義からブロックチェーンによるプロセス主義の社会を作り出す、というのが私達の目指すところです。
--「資本主義の次の仕組みを作れない人類はダメだ。だから我々が作る」は、途轍もない宣言ですね。社員の皆様にも伝わっているのでしょうか?
松田:
おそらく伝わっていません(笑)。でも社員に理解してもらうよりも、結果を出したほうが早いと思っていますし、おそらく前社長である片田さんが社員には私の考えを「通訳」して伝えてくれているはずです。
--この先10年、令和の時代がさらに進んでその先の時代に入った時、ブロックチェーンとWeb3.0事業を推進しているGFAはどんな姿になっているのでしょうか。
松田:
10年後もまだ「Web3.0」と呼ばれているかはわかりませんが、今よりも「資本の民主化」は進んでいるでしょう。ブロックチェーン技術により通貨の発行権が中央政府から民間に移るという革命が起きるのですが、それによって個々人が自分たちのオリジナル通貨を発行して流通させる世界が見えています。
たとえば、今は物価の高騰もあり、店によってはラーメンが2000円を越えたりしています。これは日本においては日本円しかなく、貨幣の価値というのは中央だけでコントロールされているからです。もし将来、「ラーメントークン」なるものが発行されて、日本円に影響を受けなければラーメンの値段が上がるようなことはなくなるでしょう。同じように日本中の各自治体が独自の通貨を発行して、そのレートを自分たちで決められるような社会になれば、それが本当の地方創生になると思います。まさにこれが資本主義からの脱却で、これが実現できれば日本はいつでも変わることができます。ポイントは本当にこれを実現する人間が出てくるか? そこだけだと思ってますし、我々がそれを実現させます。
--スティーブ・ジョブズやビル・ゲイツ、イーロン・マスク、ジェフ・ベゾス、マーク・ザッカーバーグ、ラリー・ペイジ、 セルゲイ・ブリン。アメリカには登場した革命を起こす人たちが現代の日本で出てこないのはなぜなのでしょうか。
松田:
日本人同士が潰し合って共食いをしているからです。マスメディアも既得権益に支配され、日本人の読書量は激減し、XやTikTokやYoutubeなどからの情報だけで「分かった気」になっている人が圧倒的に多いのが現実です。
--一方で経済に目を向けると、以前は世界の経済大国でしたが他国に大きく水を開けられる状況になり、日本円の価値も下がった状況にあります。この円安を打開するためには、製造業を復活させる必要があるという意見もありますが、今の人口を本当にそれで支えられるのでしょうか?
松田:
私は無理だと思っています。むしろ製造業は全て海外に売却した方がいい。日本の国力の源は精神性、つまり侍スピリットや武士道であって、製造業に執着するのは明治時代に写真を珍しがった人と同じ発想です。
--となると、ものづくりを担ってきた製造業に携わる人たちはどうしたらいいのでしょう。
松田:
その最適解は、製造業のノウハウや知識をライセンス化してアジアに展開することです。そして製造技術の指導料やIP(知的財産)料として仮想通貨で受け取れる仕組みを作ればいいんです。そうすれば雇用は維持できるし高く売れます。このようなビジネススキームにはブロックチェーンの仕組みは親和性が高い。つまり技術のライセンスをブロックチェーンで管理して収益化するべきです。たとえば日産を10兆円で買ったとしても、技術者が全員辞めてしまったら価値はゼロになりますよね。でもブロックチェーンであればそれを防ぐことができます。
--IP(知的財産)の獲得。そこには大いなる可能性がありますね。日本独自の技術は比類なきものですから。
松田:
私が皆様に強くお伝えしたいのは、ブロックチェーンは社会課題をほぼ全て解決できる、ということです。資本が最重要視されている今、多くの人はブロックチェーンという技術はビットコインのような暗号通貨、金融商品と結びつけることが多いのですが、実のところブロックチェーンという考え方は地球に転がっている様々な課題を片っ端から解決できる素晴らしい技術なのです。GFAはそこへ事業創生をシフトしますし、私はそのために社長になりました。
--GFAが展開しているミームコインの一つであるにゃんまるコインもその戦略の一環なのですか。
松田:
そうです、ミームコインはインターネット上で展開される「ミーム(流行りのネタなど)」をベースにした仮想通貨の一つなのですが、にゃんまるコインはパチンコメーカーであるマルハンの公式キャラクターであるにゃんまるを使ったミームコインです。世の中には猫好きが結構多くて時価総額が高いのですが(笑)、2025年3月にはこのにゃんまるコインが日本初の暗号資産として、インドネシア国内での寄付決済手段として正式に採用されました。これによってトークンを通じた支援型の循環経済モデルが本格的に始動します。このプロジェクトを広めるべくインドネシアの国民的女優でインフルエンサーでもありフォロワーが約3900万人いるルナ・マヤさんとパートナーシップを締結したりしています。
--インドネシアはアジアの中でも急成長を遂げています。2050年には日本を抜いてGDP世界4位になるとも言われています。先見の明がある国は新しい技術を社会の仕組みづくりに積極的に取り入れていますね。ところで松田社長が、ブロックチェーンという技術が世の中を大きく変えるかもしれないと本気で気づいたのは、いつ頃だったのでしょうか?
松田:
正確な年月は失念してしまったのですが、確か2016年の3月〜4月頃だった気がします。ビットポイントジャパンの小田社長(当時)が10年来の友人であり、暗号通貨取引システムの改修を手伝って欲しいと頼まれた時でした。
当時ビットコインの存在はもちろん知っていましたが、論文を深く読んでいるわけでもなく、まあ「取引されているデジタルの資産」なんだろうな、将来デノミネーションで使われることになるんだろうな、位の認識でしかなかったんです。ただその後に暗号通貨取引システム改修の要件定義をするため、2008年に発表されていたSatoshi Nakamotoが書いたとされる8ページほどの論文を読み、「これは世界を変えてしまうかもしれない」と雷に打たれたような衝撃を受けました。
--どういった部分に衝撃を受けたのでしょうか?
松田:
システムにおいてはFXと大差がないのですが、ビットコインの大きな特徴は「在庫がない」という点です。コイン発行の上限は2100万枚で、当時はすでに1600万枚掘られていました。ただ眠っているアドレスやハッキングされた分などもあるので、流通量はもっと少ないはずです。「これは価値が跳ね上がる」と直感しました。ただ、金融の基本は「夢を売る側に回ること」です。だから自分でビットコインを買うのではなくて、このブロックチェーン技術を使ってコインに代わる「何か」を売ろうと決めたのです。
論文を読んで「在庫がない」という設計思想に雷を打たれ、「これに人生を賭ける」と決心しました。
--まさしく人生のターニングポイントだったのですね。
松田:
私はそれまで、金融ディラーとして稼ぎ、色々な会社に出資もしていましたが、面白さを感じなくなっていたのです。そこに人生を賭けてもいいと思う技術が現れたんです。早速エンジニアやハッカーを集めて検証して、取引所間アービトラージシステムを試作してみたところ大成功したので、自信が確信に変わりました。
もうそこからは、ビジネスの横展開など考える余裕もなく「これはヤバい。全部やめてブロックチェーンに人生を賭けてシフトしよう」と決めたのです。
--未来の見えない日本を変える一筋の光となる技術、ブロックチェーンと出会って様々な事業を推進している松田社長が考えているビジョンを詳しく知ることができました。ありがとうございます。
ここからは松田社長の生い立ちと、GFA株式会社の社長に就任なさるまでの来歴やエピソードをお伺いいたします。松田さんは、映画や漫画の題材になるような激動の日々を駆け抜けて来たのですよね。
松田:
はい、僕が10代で世界の成り立ちや経済の仕組み理解し、最先端のテクノロジーに触れられたのは、特別な出会いと、がむしゃらに目の前にあった仕事に飛び込んでいったからだと思っています。
(後編につづく)
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