会社を辞めずにキャリアを広げる“越境学習”という選択

働き方が急速に変化する今、これまでのキャリアの延長線上に未来を描くことが難しくなりつつあります。企業の寿命は短くなり、終身雇用も約束されないなかで、自分自身の価値をどう高め、どのように成長を続けていくかを問い直す人が増えています。そのような背景から注目されているのが「越境学習」という学びのあり方です。
越境学習は、現在の職場を離れることなく、自分の専門分野や組織の外にある世界に触れ、新たな視点やスキルを身につける実践的な方法です。転職やキャリアチェンジを前提とせず、今いる場所にいながらキャリアを広げられることから、働きながら成長したいと考える多くの社会人にとって、有効な選択肢となりつつあります。

 

異なる世界に身を置くことがもたらす学びの深さ

越境学習は、専門スキルの習得や資格取得とは異なり、実際の現場や人との関わりを通じて“自分の枠”を超える体験に重きを置いています。たとえば、IT企業で働くビジネスパーソンが、地域のまちづくり活動に参加する。あるいは、製造業の現場を経験した人が、異業種のスタートアップとプロジェクトを共にする。こうした経験を通じて、日常では得られない視点や、価値観の違いに触れることができます。

その結果、これまで当然だと思っていた自分の働き方や考え方を見直すきっかけとなり、柔軟性や共感力といった“非認知的スキル”が養われます。とりわけ、他者との対話のなかで思考を深めるプロセスは、単なる知識のインプットでは得られない、奥行きのある学びへとつながっていきます。

 
日常を保ちながら越境するための実践的な方法

越境学習の魅力は、本業を続けながら無理なく始められる点にあります。平日の夜間や週末を使い、社外のプロジェクトやNPO活動に関わる人もいれば、自治体や大学などが主催する越境プログラムに参加するケースも見られます。
企業によっては、副業を認める制度が整備されつつあり、外部との接点をキャリア開発の一環として後押しする取り組みも進んでいます。リスキリングとしての講座やビジネススクールと比べて、越境学習は実践型であるため、学んだ内容をすぐに行動に移しやすいという利点があります。さらに、社内だけでは出会えない多様な人々と協働するなかで、自然と人脈も広がります。そうしたつながりは、新しい発想や仕事の機会につながることも少なくありません。

 

“キャリアの軸”を育てるために必要な視点とは

越境学習を効果的に活かすためには、自分自身のキャリアに対する主体的な問いが欠かせません。何のために外の世界に出るのか、どのような価値を得たいのかといった目的を持つことで、体験がより深い学びへと変わっていきます。
一方で、初めての分野に飛び込むことには戸惑いや不安もあるかもしれません。しかし、それこそが越境の醍醐味です。違和感や失敗と向き合うなかでこそ、今まで気づかなかった自分の特性や可能性が浮かび上がってくることがあります。
たとえば、社内ではリーダーシップを発揮する機会がなかった人が、地域のプロジェクトで調整役を担うことで、自分の新たな一面に気づくことがあります。そうした経験の積み重ねが、やがて職場での役割や発言の質にも変化をもたらし、周囲との関係性にも良い影響を及ぼしていくでしょう。

 

おわりに ― 越境することで“内側”が変わる

キャリアアップと聞くと、転職や昇進のような“外に向かう変化”を思い浮かべがちですが、越境学習がもたらす変化は、むしろ“内側”に起こるものです。他者との関わりを通じて、自分の考え方が広がり、働く意味や価値観を再構築する手がかりを得ることができます。
本業に支障をきたすことなく、少しだけ外の世界に触れてみる。それだけで、日々の仕事に対する視点が変わり、周囲とのコミュニケーションの質も変化していくでしょう。学びは一人で完結するものではなく、人との出会いや実践のなかで深化していくものです。だからこそ、会社を辞めずにキャリアを広げる越境学習という選択肢に、これからの働き方のヒントが詰まっているのではないでしょうか。

カテゴリ
ビジネス・キャリア

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