戦後80年。戦争体験を未来へつなぐ──Dress agingが挑む「人生のちえ」の循環
「年齢を重ねることは素晴らしい」——。
Dress aging合同会社代表の柴原由美子さんは、加齢をネガティブに捉える社会の風潮に対し、経験や感情を“衣”のようにまとい勇敢に生きる、そんな価値観を広げていくことを使命としています。
この理念から生まれた事業が、さまざまな人生経験と感情をシェアし合う場「ちえシェア」です。2025年の戦後80年を機に、「ちえシェア」ではクラウドファンディングを通じて、8月31日に戦争体験と人生のちえを未来へつなぐ特別イベントを開催。併せて、絶版となっていた戦争体験記録書の復刻を進めるプロジェクトを展開しています。
人が歩んできた人生の重みや感情は、時に他者の未来を変える力を持っています。戦争体験をシェアすることで、どんな“ちえ”を未来へつなげていくのか。プロジェクトへの思いを代表の柴原さんにうかがいました。
加齢=華麗な“経験値”を自信として身にまとう生き方を提案
柴原さんが2024年9月に立ち上げたDress agingは、「年齢=価値」という視点を社会に根付かせることを目的とする合同会社です。社名の由来は、「年齢を重ねることで得た経験や感情を、ドレスをまとうように身につける」という発想からきています。
一般的に「エイジング」という言葉は、アンチエイジングや若返りといった意味合いで使われがちです。しかし柴原さんは、年齢を重ねることで生まれる強みや深みを、人生のキャリアとして肯定的に捉えるべきだと考えています。
「年を取るほどに経験値は増え、困難を乗り越える力や人としての深みが備わっていきます。それは多少のことでは揺らがない強さになる。その価値は、当人自身が気づいていないことも多い。むしろ“ひどい体験”“十字架”としてネガティブに捉えてしまっていることすらあるんです。でもそんな経験は他の人にとっては、勇気や希望になりうる。自分だけで抱え込まずに社会へ還元したいと思ったのです」。
「ちえシェア」──経験を他者と分かち合う場
Dress agingの理念を具体的な形にしたのが「ちえシェア」です。
これは人生で得た“ちえ”——経験や感情——を語り合い、聞き手だけでなく語り手にとっても、これからの人生のヒントへとつなげていくことができる場です。
開催形式はシンプルですが奥深く、語り手が自分の人生を振り返り、その経験や思いを参加者に共有します。参加者はそれを聞き、自分の生活や価値観と重ね合わせながら感想や質問を返します。単なる体験談発表ではなく、語り手が安心して本音を語れる空間であり、聞き手が真剣に耳を傾け、最後には感想や思いを直接返す。この「双方向性」が、ちえシェアの核となっています。
これまでのイベントでは、2つの印象的な事例がありました。
ひとつは、柴原さんの父、88歳の喬さんが登壇した回です。喬さんは、8歳のとき旧満洲で終戦を迎え、命からがら日本へ引き揚げてきた経験を持ちます。混乱の中で命をつなぎ戦争孤児となった喬さんは、あまりに過酷な体験であるため、長く家族にさえ詳細を語ることはありませんでした。しかし「ちえシェア」という場で、初めて一から十までを語る決意をしました。
過酷な体験を経て生き抜いた喬さんは、時に柴原さんの行動に辛くあたることもあったといいます。背景を知らない柴原さんは、父の行動の理由がわからずただおびえている時期が長かったそう。イベントで父の背景を深く知り、「諦めたら死んじゃうという体験をしたからこそ、すぐに諦めてしまう私を父は許せなかったんだな。それをうまく言葉で伝えることもできなかったんだなとわかったんです。それが親子理解へつながりました」と、語り・聞くことの効果を実感したと振り返ります。
もうひとつは、83歳のシャンソン歌手・Sorakoさんが登壇した回です。華やかな舞台の裏で、愛と葛藤、孤独と闘いながら生き抜いてきた半生を語りました。言語化することで過去を客観視でき、また参加者は失敗や迷いも隠さず話す姿に胸を打たれました。
過去の体験が辛くて消化できていない、人から非難をされた経験がしこりとして残っている。疼く傷跡は、まだ「古傷」にならず、今も「生々しい傷」のままです。しかし、その経験は人に話すことで誰かに届き、希望や勇気となった瞬間、「×」が「〇」に変わります。その時、“あの体験”はポジティブな価値をまとうのです。柴原さんは、この変化こそがちえシェアの意義だと感じています。
「話すことで、過去が肯定される。聞くことで、自分の中にも変化が起きる。ちえシェアは、ただ話を聞く場ではなく、人生を再評価する場なのです」。
活動の原点──自信を取り戻すまでの道のりと、ちえシェアの意味
Dress agingを立ち上げるまで、柴原さんの道のりには、長い時間をかけて自分を取り戻す過程がありました。
「気づくと履歴書に書けるキャリアが何もなかった」と語る柴原さんは、長距離ウォーキングからスタートし、マーケティング講座や起業塾に参加。小さな成功体験を積み重ねながら自信につなげ、50歳を超えて起業をしました。この起業塾で、現在ちえシェア代表の徳光氏や岡部氏をはじめ、素晴らしい仲間に出会ったと話します。
「自分には何もない」という自己否定感は、「50歳をすぎてもやれるんだ」という確かな自信へ好転。理解できなかった父に苦しんだ過去も事業の大きな糧となり、「過去には意味があった」と思えるようになった――。
そんな柴原さんだからこそ、「ちえシェア」は生まれました。過去の経験は、誰かの人生の希望の光や癒しの水となる。×が〇へと転じ、それがやがて“赦し”となり、その先に「自信」へと変わっていく——そんな未来を、彼女は願っているのではないでしょうか。
戦後80年を機にクラウドファンディングに挑戦
2025年は戦後80年という節目の年です。柴原さんは「ちえシェア」の事業で、戦争体験を未来へ残す大きなプロジェクトを立ち上げました。
柱は二つです。
【戦争体験者との交流イベント(8月31日開催)】
東京都豊島区で、被爆体験者と旧満洲引き揚げ経験者という二つの視点から戦争を語るイベントを開催。オンライン参加も可能です。
【『ハルビン 朱の曠野』の復刻】
絶版となっている父・喬さんの著書を復刻し、後世に残す計画です。
戦争を“過去の出来事”としてではなく“今を生きるためのちえ”として受け取ってもらいたい。その願いを、形にしたものです。
ちえシェアでは、登壇者の話を聞くだけで終わりません。必ず質疑応答や感想共有の時間を設けています。そこで生まれる対話は、教科書や映像では得られない臨場感を伴い、参加者自身の人生に深く入り込みます。
柴原さんはこう語ります。
「経験を語る側も、それを聞く側も、お互いの存在が人生の意味を深めます。地方からもオンラインで参加できる環境を整え、世代や距離を超えた交流を広げたいです」。
今回のクラウドファンディングでは、支援者へのリターンとして、
・お礼の手紙
・イベント配信・アーカイブ視聴
・現地参加券
・復刻版『ハルビン 朱の曠野』(名前掲載可)
などが用意されています。
資金はイベント運営費、出版委託金、返礼品発送費などに充てられます。支援額の大小に関わらず、プロジェクトを知り広めること自体が応援になります。
「誰かの人生が、別の誰かの生きるヒントになる」——これはちえシェアの活動理念そのものです。
戦後80年を迎える今、戦争体験者と直接向き合う機会はますます貴重になっています。
8月31日のイベントは、東京会場とオンラインの両方で参加可能です。ぜひあなたも“ちえのわ”に加わってみてください。
※クラウドファンディング詳細・支援はこちら
【戦後80年】 “2つ”の「戦争の記憶」と「人生のちえ」を未来へ。 – CAMPFIRE (キャンプファイヤー)
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