CLVを重視する企業が増加、顧客生涯価値が利益を左右する時代へ

顧客との関係を育てる時代へ

企業が長く生き残るために求められているのは、単なる顧客の数ではなく「どれだけ深い関係を築けるか」という視点です。人口減少が進む日本では、新規顧客の獲得が難しくなり、広告費やキャンペーンコストも上昇しています。そうした中で注目を集めているのが、顧客生涯価値(Customer Lifetime Value:CLV)という考え方です。

CLVは、一人の顧客が企業にもたらす利益を生涯にわたって数値化したものです。顧客がどのくらいの頻度で商品を購入し、どのくらいの期間関係が続くかを見える化することで、企業は「どんな顧客を大切にすべきか」を明確にできます。経済産業省の報告では、小売業の広告費が過去10年間で約1.3倍に増えており、既存顧客との関係を強化する重要性が高まっていることが示されています。新しい顧客を追い続けるよりも、信頼を積み重ねた関係を育てる方が安定的な利益につながるという流れが進んでいます。

 

CLVが変えるマーケティングと企業戦略

CLVの向上は、企業の収益構造を大きく変えています。たとえば、1回の購入額が5,000円で年に4回利用する顧客が5年間継続すれば、単純計算で10万円の価値になります。関係が7年続けば14万円、10年続けば20万円へと伸びていきます。

米国の調査会社ベイン・アンド・カンパニーは、顧客維持率を5%上げるだけで利益が25〜95%高まると発表しています。このデータからも、長期的な顧客維持が企業の利益を大きく左右することがわかります。

国内企業でもこの潮流は進んでおり、無印良品の会員制度や楽天のポイントプログラムのように、顧客が繰り返し利用したくなる仕組みが整えられています。さらに、AIによる購買データの分析を通じて、顧客一人ひとりに合わせた提案を行うケースも増えました。これにより、顧客が「自分のためのサービス」と感じられる体験を提供できるようになっています。

企業がCLVを指標として意識するようになった背景には、経営の持続性があります。短期的な売上を追うよりも、信頼を基盤にした長期的な関係を築くことで、安定した収益とブランド価値を維持できるようになるからです。

 
対話がつくる顧客との絆

CLVを高める上で欠かせないのは、数字だけでは測れない「対話と信頼の積み重ね」です。企業の価値は、顧客との接点でどれだけ誠実に向き合えるかによって決まります。

トヨタ自動車の「カスタマーリレーションセンター」では、年間40万件以上の顧客の声を収集し、商品開発やサービス改善に反映させています。こうした取り組みは、単なるサポート対応ではなく、顧客との共創の仕組みといえます。

社内体制にも変化が見られており、営業やマーケティング、カスタマーサポート、データ分析などの部門が垣根を越えて協力し、顧客情報を共有しながら一貫した対応を行う企業が増えました。クロスファンクショナルチームの導入により、顧客体験の質を全社で支える体制が整いつつあります。

このような流れは、働き方にも影響を与えています。社員が自分の役割を超えて顧客理解に関わるようになり、顧客の課題解決を一緒に考える姿勢が求められるようになっています。CLVの向上は、顧客との関係だけでなく、組織文化の成熟にもつながる動きといえるでしょう。

 
CLVが導く新しいビジネスの方向性

CLVを経営に取り入れる企業は年々増えています。日本経済新聞社の調査では、上場企業の約7割が「中期経営計画で顧客生涯価値を重視する」と回答しています。

Amazonのプライム会員制度のように、長期的な会員関係を前提としたビジネスモデルは、世界的な成功例として知られています。日本でも、ヤマトホールディングスが「クロネコメンバーズ」を通じて継続的に顧客とつながり、配送体験を最適化しています。これらの事例は、販売という枠を超え、生活に寄り添うサービスづくりへと発展しています。
企業がCLVを軸に事業を進めるには、顧客を数字ではなく“パートナー”として見る視点が欠かせません。社員一人ひとりが「どうすれば顧客の期待を超えられるか」を考え、信頼関係を時間をかけて築く姿勢が求められます。こうした姿勢は、働く人の意識も変えています。営業職やサポート職は、商品を売る存在から、顧客の課題を共に解決する伴走者へと変化しています。日々の対話や小さな改善の積み重ねが、企業全体の信頼を生み、最終的にCLVを押し上げていきます。

 
まとめ

顧客生涯価値を高めるという考え方は、単に利益を追う手段ではなく、顧客との関係をどう育てるかという姿勢の表れです。短期的な売上よりも、長期的な信頼を重んじる企業こそが、これからの時代に選ばれていくでしょう。

CLVを軸とした経営は、企業に安定をもたらすだけでなく、顧客に安心感や愛着を与えます。利益を決めるのは、取引の回数ではなく「どれだけ長く信頼され続けるか」です。ビジネスの中心が「獲得」から「関係」へと移る中で、顧客との絆を丁寧に育てる姿勢が、未来の企業価値を形づくる鍵となっていきます。

カテゴリ
ビジネス・キャリア

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