エンゲージメントとは?会社で高める方法を自己決定理論から解説

エンゲージメントという言葉を耳にする機会が増えました。けれど、いざ「自社のエンゲージメントは高いと言えるだろうか」と問い直してみると、自信を持ってうなずけない企業も多いのではないでしょうか。

そもそもエンゲージメントとは、組織や仕事、人との関係の中で、自発的に貢献しようとする意欲が、行動として表れている状態を指します。満足度やモチベーションのように、人とのつながりは重要な要素のひとつですが、それだけではエンゲージメントが高まるわけではありません。

自分の仕事がどこにつながっているのか、誰の役に立っているのか、そしてこの組織で働く意味を感じられているか。そうした実感によって、人は前向きな気持ちで仕事や周囲に関わろうとします。
エンゲージメントが高い状態とは、組織や仕事、人とのつながりの中で、自ら関わり、挑戦し、やり抜こうとする状態です。今回は、心理学や行動科学の視点も交えながら、エンゲージメントの正体と、その低下によって組織で何が起きているのかを紐解いていきます。

そして、デジタルサンクスカードサービスである「GRATICA」が大切にしている、小さな物語という視点から、日々のふるまいをていねいに扱うことが、どのように人と人のつながりを温め、組織の未来を変えていくのかを考えていきます。

エンゲージメントが低下する会社で起きている変化とは

エンゲージメントが下がるとき、会社には大きな事件は起こらないことが多いです。むしろ、その変化は気づきにくく、誰にも指摘されないまま少しずつ積み重なっていきます。しかしその見えづらい変化こそが、組織の未来に深く影響します。

組織や仕事に対して心理的なつながりが弱まった職場では、まず「空気」が変わっていきます。会話や笑顔が減り、人と人の距離もじわじわと広がっていきます。表面的には仕事が進んでいても、社員の心の中ではこの会社で働き続ける理由が揺らぎ始めています。
離職を決断する人の多くは、突然辞めるわけではありません。「自分はこの組織で大切にされているのだろうか」「努力が誰の役に立っているのか分からない」といった疑問を、長い時間をかけて積み重ねています。

こうした心の変化は声に出されることがほとんどありませんが、確実に組織の温度を下げていきます。

心理的距離の拡大が協働を難しくする

エンゲージメントが低い会社では、協働が生まれにくくなります。仕事や組織へのエンゲージメントが下がると、人は自発的に貢献しようとする意欲を失っていきます
さらに、人間関係のエンゲージメントが下がると、メンバー間で心理的な距離を感じるようになり、相手に相談しづらくなったり、頼みごとを控えるようになります

本来なら一言の相談で済むことが、言い出せないまま先送りになり、手戻りやムダな工数が増えていってしまうのです。

これはスキルの問題ではなく、組織や人を通じた人と人の間にある見えない壁が少しずつ厚くなっている状態です。オンライン化が進んだ今は、相手の表情の変化や小さな困りごとに気づきにくく、コミュニケーションが必要最低限の情報交換にとどまりがちです。その結果、誰かに頼っていい、助けてもらえる、といった空気が弱まり、協働が徐々に失われていきます。

挑戦が生まれない環境は、組織の成長を止めてしまう

挑戦の少ない組織では、イノベーションは生まれにくくなり、やがて挑戦しない姿勢が普通になっていきます。新しい提案や意見が出なくなり、組織全体が守りに入り、成長のスピードは緩やかに落ちていきます

これは誰か一人の意欲や能力の問題ではありません。職場に漂う遠慮や緊張感によって、行動の選択肢が少しずつ狭まり、主体的に関わろうとする姿勢が失われていく状態です。その積み重ねが、結果としてエンゲージメントの低下につながっていきます。

共通する根底の問題は「関係性の希薄化」

ここまで述べた離職・協働不全・挑戦の欠如は、一見違うようで、根はひとつであることが多いです。それは仕事や組織を通じた人と人のあいだのつながりが弱まっているということ。
つながりが弱まると、自分の役割が誰の役に立っているのか見えなくなり、相談のタイミングを失い、気遣いが届かず、感謝の機会が減り、所属している組織で働く意味が見えにくくなっていきます。

では、人はどのような状態で「前向きに働きたい」と感じるのでしょうか。その手がかりを与えてくれるのが、心理学者デシ&ライアンが提唱した「自己決定理論」です。

エンゲージメントの正体とは?デシ&ライアンの「自己決定理論」と日常のふるまい

エンゲージメントとは、働く人の「気持ちの状態」や「やる気」といった曖昧なものを内包していますが、心理学の世界ではすでに、「人が前向きに動き、組織に深く関わろうとするためには何が必要なのか」についての理論があります。

それが、心理学者デシ&ライアン(Deci&Ryan)が提唱した自己決定理論(Self-Determination Theory:SDT)です。
SDTは「人が内側から動機づけられるために欠かせない3つの欲求」を示しています。この理論は、エンゲージメントを理解する上で最も強力な枠組みといえます。

自律性:「自分で選んで働いている」という感覚

人は、自分の行動が他人に決められたものではなく、自らの意志で選択していると感じられるとき、前向きに仕事へ取り組むようになります。自律性とは、裁量の広さそのものではなく、自分自身の行動を自ら選択している状態を指します。
仕事の中で小さな判断を積み重ね、その行動が誰かに届いていると実感できると、自律性が満たされます。こうした実感は、内発的動機を高め、その結果として、仕事や組織に主体的に関わろうとするエンゲージメントにつながっていきます。
逆に、どれだけ任されていても、働きが誰にも気づかれず意味が見えなければ、人は孤独感や無能感を感じ「放置されている」「期待されていない」と感じ、自律性は満たされません。

ここで重要なのが日常のふるまいに対するフィードバックです。小さな行動が誰かの力になっていたと伝わることは、「自分の選択が価値を生んでいる」という確かな手応えを生みます。GRATICAが残す「小さな物語」は、まさにこの自律性の感覚を支える「土壌」になるものです。

関係性:「この人たちと働きたい」と思えるつながり

2つ目は「関係性」です。人は、誰かとのつながりを感じられるときこそ、自然と前向きになります。安心して相談できたり、困ったときに声をかけてもらえたり、ちょっとした助け合いが自然に生まれる関係があると、その職場を「居場所」と感じられます。
逆に、人間関係が希薄な職場では、どれだけ優れた制度があってもエンゲージメントは高まりません。関係性は、会議室で語られる理念ではなく、日々の小さなやり取りの中で育つものだからです。

GRATICAでは、普段なら口にしない感謝や気づきを送り合うことで、相手への理解が深まり、関係性が少しずつ、確かに強くなっていきます。

有能感:「自分の行動が価値を生んでいる」という実感

3つ目の有能感は、人が「自分は役に立っている」と実感するときに満たされる心理的欲求です。職場では、努力したことが誰かの助けになっていたり、工夫がチームの前進につながったりした瞬間に生まれます。
しかし現実の会社では、こうした小さな貢献は言葉にされることなく流れていきます。評価制度に載らない行動は、誰も触れることがないまま、その価値を確かめられないまま消えてしまうのです。

GRATICAでは、「あの時あなたがこうしてくれたから助かった」というように、行動の背景を含めて「ありがとう」を届けることができます。背景の共有こそが有能感を深め、内発的動機が育ち、その結果として、仕事や組織に主体的に関わろうとするエンゲージメント向上へとつながります。

自己決定理論とGRATICAは同じ方向を向いている

デシ&ライアンによれば、自律性・有能感・関係性という3つの心理的欲求が満たされると、人は活力を取り戻し、自らの意思で組織へ関わろうとするようになります。これは、逆を考えるととても分かりやすく、人は、「命令されて」「無能感を感じて」「孤独感を感じて」いる状態では、内発的動機は芽生えず、自発的に行動することはありません。

内発的動機とは、外から与えられる報酬や指示によって生まれるものではなく、自律性・有能感・関係性が満たされた結果として、内側から自然に立ち上がる関わろうとする状態です。結果、人は自発的に仕事や組織に貢献するようになり、エンゲージメントが高まります。

GRATICAは、感謝や称賛、承認のやり取りを通じて、こうした心理的欲求が満たされやすい環境をつくり、組織の土壌を豊かにするツールです。
行動の背景が語られ、小さな物語として共有され、人と人のつながりが深まる。これらはすべて、SDTが示す3要素を自然に満たす日常の営みです。

 

企業がエンゲージメントを高めるためにできること

エンゲージメントは、人事制度や評価の仕組みだけで高まるものではありません。制度を整えることに加えて、日々のふるまいがどのように扱われるかもとても重要です。企業がエンゲージメント向上に本気で取り組むなら、人が人と向き合うための環境づくりに正面から目を向ける必要があります。

これは、組織における「土壌を耕す」という行為です。

ここでは、エンゲージメント向上において効果の高い企業としてのアクションを、行動科学とGRATICAの思想の両面から深掘りしていきます。

行動の可視化:小さな貢献が流れず残る組織にする

エンゲージメントを高める上で最初に必要なのは、日々の小さな行動が組織の中で見える状態になることです。職場では、形式的な成果や評価につながる行動だけでなく、誰かが気づかないうちに支えている優しさや、短時間で済むような小さな気遣いが数え切れないほど存在しています。

しかし、多くの場合、それらは記録にも残らず、言葉にもならず、誰かの心の片隅に静かに消えてしまいます。人は誰かに見られていることを求めているのではありません。けれども、自分の行動がどこかで誰かを支えていたという事実は、働く意味を支え、前向きさを育てていきます。

だからこそ、企業は社員の貢献行動が消えてなくならずに残る環境を整えることが有効です。特別な表彰や大げさな仕組みはいりません。

ただ、日常のふるまいが適切に扱われるだけで、人の心は変わります。

GRATICAは、まさにその可視化の役割を持っています。「ありがとう」だけでなく「なぜそれが助かったのか」という背景が残ることで、行動の価値が立ち上がり、組織に積み重なっていくのです。

感謝・称賛・承認の質を高める:行動の背景まで伝える文化をつくる

感謝・称賛・承認は、エンゲージメントを高めるうえでとても強い力を持ちます。しかし、ただ回数を増やせばよいというものでもありません。より効果的なのは、その質を高めることです。

「ありがとう」「助かりました」といった短い言葉も大切ですが、さらに相手の心を動かすのは、なぜその行動が価値を持ったのか、どんな気持ちが動いたのか、といった背景に触れた感謝や称賛、承認です。
人は背景を理解したときに、自分の行動の価値を深く実感します。この価値の実感こそが、内側から湧き上がる自発性の源となり、エンゲージメントが高まります。

企業としては、こういった感謝や称賛、承認を義務化する必要はありません。むしろ、自然に背景が語られる文化を育てることが大切です。

GRATICAでは、感謝・称賛・承認の背景を言葉として残すことができるため、「行動そのもの」だけでなく「その人の姿勢」までを組織のみんなに伝えることができます。これが関係性や有能感といった欲求を満たし、前向きに働きたいという内発的動機を生み出す原動力になるのです。

GRATICAが生み出すエンゲージメントの向上

エンゲージメントは、制度や評価を変更することで一時的に高まることはあるものの、それだけエンゲージメントが高い状態を維持し続けるのは困難です。人が「この組織で働きたい」と感じる瞬間は、もっと日常的で、もっと小さな日々のふるまいの中に宿っています。

GRATICAは、そうした見えづらい関係性を丁寧にすくい上げ、組織に変化を生み出す仕組みです。「ありがとう」の言葉だけでなく、その行動がなぜ価値を持ったのかという背景を書き残せるため、日常の小さな貢献が物語として意味を持ち、受け取った人の有能感を深く満たします。これは、自己決定理論が示す内発的動機づけを高める、ごく自然な方法です。

さらに、GRATICAでは、普段あまり接点がないメンバー同士の間でもメッセージのやりとりが可能です。これにより、組織の中にゆるやかな接点が生まれ、部署や役割を超えたつながりが広がっていきます。ゆるやかな接点が増えていくことで協働を促し、組織の活力や創造性につながります。

蓄積されたメッセージは、組織文化を形づくる未来の記憶でもあります。誰かのふるまいが次の誰かの行動を生み、その行動がまた別の物語へとつながっていく。この連鎖によって組織文化が育まれ、エンゲージメントを高めることにつながります。

エンゲージメントは一方向に与えるものではなく、人と人のあいだを循環する流れの中で育つもの。GRATICAは、その最初のきっかけとなり、小さな物語が連鎖する仕組みを組織に届けています。

まとめ

エンゲージメントは、特別なイベントや制度変更だけで一時的に高まることはあるものの、継続して高まるものではありません。日常的な蓄積が重要です。

誰かがそっと手を差し伸べたこと、忙しい同僚を気づかって声をかけたこと、陰で支えてくれていた行動に気づき「ありがとう」と伝え合うこと。そうした小さなふるまいが意味を持ち、物語として共有されるとき、人はここで働いていてよかったと静かに感じ始めます。

GRATICAは、そういった見えづらい関係性を可視化し、自律性・有能感・関係性という人が前向きに働くための土台を支える仕組みです。メッセージの往来によって関係性が育まれ、感謝の言葉が循環し、組織にはやさしい流れが育っていきます。

エンゲージメントは一方向に与えるものではなく、組織や仕事、人と人のあいだを行き交う温度そのもの。小さな物語が積み重なる場をどうつくるか。その問いに向き合うことが、これからの組織づくりの鍵になるでしょう。

文:根本 理沙(株式会社Lipple)

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