カスハラはなぜ深刻化する?「誘発型」から見直す企業の仕組み

カスハラを「困った顧客」の問題で終わらせない

カスタマーハラスメントへの対応が、企業にとって無視できない経営課題になっています。2026年10月1日には改正労働施策総合推進法が施行され、企業にはカスハラを防ぐための措置が義務付けられました。厚生労働省は、顧客や取引先、施設利用者などの言動のうち、社会通念上許容される範囲を超え、労働者の就業環境を害するものをカスハラとしています。正当な苦情や改善要求まで一律にカスハラとして扱うわけではありません。

厚生労働省の「令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査」では、過去3年間に「顧客等からの著しい迷惑行為」について相談があった企業は27.9%でした。相談件数が「増加している」と答えた企業は23.2%で、「減少している」の11.4%を上回っています。労働者側でも10.8%が過去3年間に被害を経験しており、内容では「継続的な、執拗な言動」が72.1%と最多でした。カスハラを一部の接客担当者だけが抱える問題として扱うことには、すでに限界が見えています。

 

「誘発型」という視点で、その前に何があったかを見る

ここで取り上げたいのが「誘発型カスハラ」という見方です。法律で定められた名称ではなく、カスハラに至るまでの業務や顧客対応に、トラブルを大きくする要因がなかったかを探るための考え方です。企業側にミスがあったとしても、暴言や脅迫、人格否定、執拗な要求が許されるわけではありません。顧客が行った行為の責任と、企業が改善できる問題は別々に扱うべきでしょう。

実際、トラブルの背景には接客以前の問題もあります。厚生労働省のスーパーマーケット業界向けマニュアルでは、カスハラに発展した原因を把握している66社のうち、「顧客対応・サービス対応等の遅延」を挙げた企業が71.2%、「対応者の説明・コミュニケーション不足」が63.6%、「商品の品質不良」が56.1%、「対応者の誤った説明」が39.4%でした。一方で「商品・対応者の不備が確認された事案はなかった」も33.3%あります。特定業界の調査であり、この数字だけで企業側の対応とカスハラの因果関係を決めつけることはできません。それでも、顧客が怒り始めた場面だけを見るのではなく、その前に何が起きていたのかを調べる意味はありそうです。

 

担当者を研修しても、仕組みが同じなら問題は繰り返す

顧客とのトラブルが起きたとき、「説明が足りなかった」「接客をもっと丁寧に」と担当者へ改善を求める企業は少なくありません。しかし、問い合わせるたびに回答が変わるのであれば、担当者個人より社内情報の管理方法に問題があるかもしれません。返金の可否を判断するために何人もの上司へ確認しなければならないなら、現場に与えられた権限が足りていないとも考えられます。顧客が担当部署を移るたびに同じ説明を求められるなら、部署間の情報共有を疑うべきでしょう。

こうした問題は、接客研修を増やしただけでは残ります。問い合わせから最初の回答まで何分かかったのか、同じ顧客が何度連絡しているのか、担当部署が何回変わったのか、上席へ引き継ぐまでにどれほど時間を要したのか。数字を追ってみると、担当者の力量とは別の問題が見えてきます。
特定の商品だけ問い合わせが繰り返されるなら商品説明を見直す、返金時のトラブルが多いなら手続きや権限を変えるといった改善も可能です。カスハラの記録を「誰が何を言ったか」だけで終わらせず、「その前に会社側で何が起きていたか」まで残せば、再発防止に使える情報へ変わります。

 

現場を守ることと、サービスを改善することは両立できる

2026年10月からカスハラ対策が事業主の義務になったことで、企業には方針の明確化や相談体制の整備、発生後の対応などが求められています。従業員が暴言や威圧を我慢する必要はありませんし、悪質なケースでは組織として対応を打ち切ったり、警察や弁護士など外部機関につないだりする判断も必要になります。一方、相談窓口とマニュアルを用意するだけでは、トラブルが起きやすい業務そのものは変わりません。

厚生労働省の調査では、顧客等からの著しい迷惑行為による企業への影響として「通常業務の遂行への悪影響」が63.4%、「労働者の意欲・エンゲージメントの低下」が61.3%に上っています。カスハラは接客中の数十分だけで終わる問題ではなく、その後の仕事や職場にも負担を残します。正当な苦情は商品やサービスの改善に生かし、社会通念を超える言動からは従業員を守る。そして、トラブルが繰り返される場所には、待ち時間や説明方法、社内連携、権限設定といった業務上の原因がないかを探る。
「誘発型カスハラ」という視点を持つ意味は、企業側に責任を押しつけることではなく、現場の担当者だけに問題処理を背負わせないことにあります。カスハラを記録して終わるのではなく、業務を変える材料として扱えるか。組織リスク管理として考えるなら、そこまで踏み込んだ対策が求められるといえます。

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