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共働き家庭を苦しめる「隠れワンオペ」問題

共働きが当たり前になった現代の日本社会では、家計を支えるために夫婦が共に働く「ダブルインカム」世帯が増加しています。総務省の労働力調査によると、2024年時点で共働き世帯は専業主婦世帯の約2倍に達しており、その割合は年々高まりを見せています。しかし一方で、家事や育児の負担が平等に分担されていない現状があります。特に表面上は夫婦で協力しているように見えても、実際には母親に育児や家事の大部分が集中する「隠れワンオペ」状態に陥っている家庭は少なくありません。

 

見えにくい「隠れワンオペ」の実態

「ワンオペ育児」という言葉は、母親が一人で子育てを担う状況を示します。これに対して「隠れワンオペ」は、共働きにもかかわらず、片方に家事や育児の大部分が偏る状態を指します。外見上は夫婦で協力しているように見えるため、本人や周囲が問題に気づきにくいのが特徴です。

総務省の統計によると、2024年時点で共働き世帯は約1,250万世帯に達し、専業主婦世帯の2倍以上に増えています。それにもかかわらず、家庭内での育児や家事の分担は依然として偏っており、厚生労働省の調査では、母親の平日の家事・育児時間は1日6時間以上、父親は2時間未満という大きな差が示されています。このギャップが「隠れワンオペ」を生み出す要因となっています。

 

数字が示す育児負担の偏り

特に子供が未就学児の場合、母親の負担はさらに重くなります。保育園への送り迎えや病気の際の看病といった突発的な対応は母親に集中する傾向が強く、仕事を早退するのも多くの場合母親です。国立社会保障・人口問題研究所の調査では、子育て中の女性の約4割が「家庭の責任のために昇進やキャリアの機会を逃した」と回答しており、仕事と家庭の両立が女性の職業人生に大きな影を落としています。

また、過度な育児負担は母親のメンタルヘルスに直接影響します。日本産婦人科医会の報告では、出産後1年以内にうつ症状を経験する母親は約10人に1人とされており、その背景には育児負担の偏りや孤立感があると考えられています。家庭内で「私ばかり」という不公平感が募ると、夫婦関係の悪化や子供への接し方の変化につながり、家族全体に影響が及ぶことも少なくありません。

 

解決に向けた家庭と社会の取り組み

隠れワンオペを解消するためには、家庭内の努力だけでなく、社会的な支援の拡充が欠かせません。家庭では、家事や育児のタスクを「見える化」することが有効です。アプリやチェックリストを活用して作業内容と所要時間を共有すれば、夫婦間の認識のズレを修正しやすくなります。

社会的な支援としては、男性の育児休業取得率の向上が重要です。厚生労働省のデータによれば、2023年度の男性育休取得率は17.1%で、政府が掲げる「2030年までに30%以上」という目標にはまだ距離があります。取得率を上げるには、制度の整備だけでなく、企業文化の改善や上司の理解が不可欠です。柔軟な働き方の導入や在宅勤務の推進も、育児負担を分担する上で大きな助けになります。

さらに地域社会のサポートも重要です。保育園や学童保育の拡充、地域での子育てシェアサービス、ファミリーサポート制度の活用は、家庭の負担を軽減する実践的な手段です。子育てを家庭だけに任せず、社会全体で支える仕組みを築くことが、隠れワンオペ問題を根本的に解決するための鍵となります。

 

まとめ

隠れワンオペは、一見協力的に見える共働き家庭に潜む深刻な課題です。母親に偏った育児・家事負担は、心身の健康やキャリア形成に影響し、家庭内の人間関係にも悪影響を及ぼします。この問題は一家庭の努力だけで解決できるものではなく、企業や行政、地域社会を含む幅広い取り組みが必要です。

夫婦間での役割分担を見直し、家事や育児を公平に共有することはもちろん、社会が育児を支える基盤を整えることが求められます。共働き家庭が安心して暮らせる環境を整えることは、少子化が進む日本において持続可能な社会を築くためにも不可欠です。隠れワンオペを「見えない問題」として放置せず、共に取り組む姿勢こそが、家族と社会を健全に保つ力になるでしょう。

カテゴリ
社会

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