男性向けグルーミング市場が急拡大、次代の美容需要を読み解く

新しい“身だしなみ文化”が経済を動かし始めている

男性が美容に関心を寄せる姿は、もはや珍しい光景ではありません。スキンケア用品を手に取る姿や、美容クリニックのカウンターで相談するビジネスパーソンを目にする機会が増えています。背景には、印象管理の重要性が高まり、外見の整え方がキャリアや人間関係に影響するという認識が広がっていることがあります。さらに、オンライン会議という新しい働き方が定着し、自分の顔を日常的に見つめる環境が、男性の美容意識を押し上げたと考えられます。
世界市場では男性向けグルーミング市場が2024年に約5,883億米ドル規模、2029年には約7,509億米ドルに達すると予測されています(Mordor Intelligence)。日本国内でも、2024年に3,745億円強、2033年には約5,069億円へと伸長する見通しが示されています(Newscast Japan)。一方、矢野経済研究所の調査では、国内メンズビューティー市場は2022年度に約2,100億円規模へ拡大し、前年比3.7%増という安定した成長率を示しました。勢いは確実に根付いているといえるでしょう。

 

男性の美容意識が変わる背景

男性が美容に関心を持つ理由として、仕事や人間関係での評価、清潔感、年齢による変化への向き合い方など、幅広い心理が重なっています。国内の調査では、男性の42%が「肌の手入れができている男性は仕事ができそうに見える」と答え、見た目が信頼や能力の印象につながると感じています。さらに、体毛ケアを経験し、継続したいと答えた人が28%に達しており、身だしなみを整えることが特別な行動ではなく生活の一部として受け止められています。

美容と健康の関係も注目されています。肌荒れや薄毛、紫外線によるダメージは、単に外見の悩みというより、生活リズムやストレス、栄養の状態が表れるサインとされ、対策の一環としてスキンケアや頭皮ケアが自然に取り入れられ始めています。見た目を整える行為が、生活の質や心の安定につながるという実感が支えとなって市場が広がっています。

 
フラットな市場競争が生む新戦略

企業側の動きにも変化が見られており、スキンケアやコスメが中心だったラインナップは、ヘアケアや香りのカテゴリーに広がり、さらに、医療機関による頭髪治療や肌改善メニューなど“クリニック型グルーミング”も利用者が増加しています。市場拡大を支えているのは、デジタルの導入です。AIを使った肌診断アプリや、オンライン上で自分に適した化粧品を提案してくれるサービスが普及し、男性が自分に合ったケアを選びやすい環境が整っています。企業は単に商品を販売するのではなく、個々人の生活や価値観に寄り添う“体験”を提供する方向へ舵を切り始めています。
また、年齢別のアプローチも重要です。20代〜30代はトレンドに敏感で美容習慣が自然と生活に溶け込み、中高年層では、加齢による肌弾力低下や薄毛予防といった機能性ニーズが高まり、商品選択の軸が“印象管理”から“健康維持”へと変化しています。グルーミング市場が生活者の多様な目的に応える領域へ広がりつつある状況です。

 
次の成長ステージへ:市場を読み解く視点

この市場をさらに捉えるためには、三つの視点が重要です。まず、外見のケアが健康管理と密接につながり、睡眠や運動、食事といった生活習慣全体に広がる可能性が高いこと。次に、性別にとらわれない美意識が広まり、自分らしさを尊重する価値観のもとで商品やサービスが選ばれるようになっていること。そして、地域の理美容店やクリニックが、親しみやすい距離感で継続的なサポートを提供し、生活圏のなかで美容習慣を支える存在となる余地があることです。

身だしなみが自信や安心感につながり、社会の中での信頼やチャンスを支えるという考え方は、今後ますます広がると見られます。商品だけでなく、知識や体験、サポート体制まで含めた“総合的なグルーミング文化”が形づくられていく時代に向けて、企業や地域がどのように寄り添い、新しい価値をつくっていくかが問われています。

カテゴリ
美容・ファッション

関連記事

関連する質問