観光地の収益モデルはどう変わったか?コロナ後の視点

かつてにぎわいを見せていた観光地は、コロナ禍で突然静けさに包まれました。インバウンドの激減、イベントの中止、外出自粛による宿泊キャンセルなど、多くの地域がこれまでの収益モデルの限界と向き合うことになりました。しかし、その逆境は、観光地にとって自らの魅力を見つめ直し、新たな価値の創造へとつながる転換点でもありました。現在、多くの観光地では「人が来るのを待つ」から「人とつながり続ける」戦略へと舵を切っています。では、コロナ後の今、観光地はどのようにして収益モデルを再構築しているのでしょうか。

 

地域循環型モデルへの転換がもたらす構造的変化

コロナ前の観光地の多くは、訪日外国人観光客による直接消費を中心とした「単一収益依存構造」にありました。2019年の訪日客の旅行消費額は4.8兆円(観光庁)と、GDPの約0.9%を構成する水準にまで成長していました。しかし、この構造はパンデミックの影響で一挙に崩壊します。

その結果、観光地の収益モデルには「地域内経済循環」を組み込む視点が求められるようになりました。農業・工芸・地域福祉・教育など、観光と他産業の横断的連携による複合収益化(クロスセクター型モデル)への移行です。たとえば、長野県小布施町では、観光と地域農業を融合し、滞在型農泊や市民協働の「学びの観光」を軸に再設計が行われています。
この転換は、地域内乗数効果(Local Multiplier Effect)を高める施策でもあり、域内雇用や文化資源の継承にもつながっています。

 

ファンとの関係構築による継続的な収益戦略

もうひとつ顕著な変化は、観光客を「一度きりの顧客」として捉えるのではなく、「共感をベースにした継続的関係の担い手」と見なす発想への転換です。観光を“消費”から“関係性”に変えるこの流れは、ファンベース型マーケティングと呼ばれ、LTV(顧客生涯価値)を重視した戦略と合致しています。
たとえば岐阜県郡上市では、郡上おどりをオンライン化するだけでなく、オフシーズンでもファンが地域と関われる「郡上サポーター制度」を導入しました。サブスク型で特産品を届けたり、寄付とリターンを組み合わせたクラウドファンディングを実施したりするなど、観光を単発収益ではなく「関係構築の資産」として再定義しています。
このような仕組みは、顧客との接点を増やすだけでなく、地域の文化的アイデンティティを磨き直す機会にもつながっており、観光とまちづくりの境界が薄れる象徴的な事例といえるでしょう。

 

デジタル技術と自治体の連携による観光再生

ポストコロナで加速したもう一つの流れが、観光領域におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進です。観光庁の「デジタル田園都市国家構想推進交付金」や「観光DX推進事業」などを背景に、多くの自治体でデータ基盤の整備と活用が進められています。

北海道美瑛町では、観光客のGPS移動データを分析し、時間帯ごとの滞留傾向を可視化。それに基づき、混雑回避のガイダンスや、デジタルクーポンによる購買促進を実施しています。また、AIチャットボットや多言語対応の自動ガイドツールも導入され、外国人観光客の受け入れ対応も強化されつつあります。こうした取り組みは、単なる観光サービスの改善にとどまらず、「観光政策の科学化(Evidence-Based Policy)」という行政改革の文脈とも接続しており、観光がまちづくりの指標となる時代が到来しつつあります。

 

サステナビリティと収益性の両立をめざす次世代モデル

最後に見逃せないのが、観光における「サステナビリティ」の視点です。環境への負荷や地域住民との摩擦といった課題を前提としながら、観光を地域資源としてどう活用していくか。そこに収益性をどう両立させるかが、今後の核心です。鹿児島県屋久島町では、登山者の数に上限を設ける管理体制とともに、入山税を導入し、観光による収益を環境保全費に充当しています。このように「持続的利用」と「経済的還元」が両立されたモデルは、他地域でも参考にされつつあります。また、観光を通じて得られる収益を、教育や医療、公共交通など地域インフラに回す事例も増えており、観光そのものが「地域価値の再投資エンジン」として機能し始めています。

 

まとめ:観光は“集客”から“価値の共創”へと進化する

コロナ後の観光地は、単に観光客を呼び込むだけではなく、いかに地域と関係を築き、多面的な価値を生み出していくかが問われる時代に入っています。インバウンド依存を脱し、ファンとの関係を深め、自治体や産業と連携し、環境と共生する――それぞれの要素が一体となって、観光が持つ可能性はより大きく、より社会的なものへと広がっているように感じられます。

これからの観光は、地域の文化・産業・人をつなぐ「社会的ハブ」として、新たな役割を果たしていくでしょう。その変化にどれだけ柔軟に対応し、戦略的に取り組めるかが、観光地の未来を大きく左右していくのではないでしょうか。

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