頭から離れない曲の正体は?TikTokがつくる記憶

拡散力が生む“記憶に残る音楽”とは

ふとした瞬間に頭の中を巡るメロディ。それがTikTokで何気なく見た動画のBGMだった、という経験はありませんか?いま、TikTokをはじめとするSNSでは、音楽が記憶に強く刻まれ、多くの人の心をつかむ存在になっています。わずか15秒の短い動画で、なぜここまで印象的な楽曲が生まれるのでしょうか。その背景には、ユーザーの体験を軸にしたコンテンツ設計、感情との結びつき、拡散力を意識したマーケティング戦略が重層的に絡み合っています。

 
「15秒の記憶」に最適化された音楽構造

TikTokでは、音楽の使われ方が非常に特徴的です。多くの人気楽曲は、冒頭の5秒から10秒に強いインパクトを持たせることで、短時間でも視聴者の記憶に残るよう工夫されています。たとえば、Adoの「踊」やAyaseのプロデュースによるYOASOBIの楽曲などは、音の立ち上がりが印象的で、聞いた瞬間に心をつかまれるような構成になっています。このような音作りは、脳の短期記憶から長期記憶への移行を促すリズムとメロディの設計とも言われており、わずかな時間でも“何度も聞いた気になる”効果を生み出しています。
この「15秒戦略」は、従来のラジオやテレビの尺に縛られないSNSならではのマーケティング戦略であり、音楽の入り口としてTikTokが強い影響力を持つことを意味しています。

また、視覚と音が一体化することで、脳内の記憶定着がさらに強化されます。動画とともに聴くことで、「あの動画の曲」というラベリングが無意識に行われ、単なる音楽ではなく“体験の一部”として記憶されます。

 
ユーザーが物語を紡ぐUGC(ユーザー生成コンテンツ)

TikTokで曲がバズる背景には、音楽そのものだけでなく、ユーザーの参加を促す「UGC(User Generated Content)」の存在があります。たとえば、特定の振り付けやチャレンジ企画と組み合わせることで、その音楽が模倣され、拡散されるという流れが生まれます。

2022年に大流行した「可愛くてごめん」は、ユーザーが自分の“かわいい”を演出するチャレンジに使われ、ダンス動画のテンプレート化によって広がっていきました。このように、ユーザーが自らコンテンツを拡張・再構成していくことで、単なる音楽以上の「自己表現ツール」として機能するようになります。
さらにTikTokのアルゴリズムも重要です。音源を使った動画の再生回数やリアクション数が多いほど、他のユーザーのおすすめ欄にも出現しやすくなるため、拡散性が極めて高い構造となっています。

 
拡散設計された音楽とメディア戦略の進化

音楽レーベルやマーケティング担当者たちは、もはや“耳に残る”ことを偶然には頼りません。現在では、TikTokで拡散されやすい要素をあらかじめ設計した上で、リリースの段階からプロモーションを展開するのが一般的になりつつあります。たとえば、事前に影響力のあるインフルエンサーに音源を提供し、ユニークな振り付けやセリフ付きで公開してもらうことで、リリース前に話題を醸成するケースも珍しくありません。また、テンポ120〜140BPMの“ダンスしやすいリズム”や、印象に残るサビを先頭に配置するなど、音楽そのものの設計も戦略の一環として組み込まれています。

TikTokという媒体は、従来のマスメディアと異なり、再生数や保存数、ハッシュタグの動向といった反応を即座に可視化できるため、リアルタイムで“どの音がどの層に響いているか”を把握できる強みもあります。これは、今後の広告・エンタメ業界において欠かせない要素となるでしょう。

 

音楽は「記憶のメディア」へと進化している

かつて音楽は聴くもの、楽しむものでしたが、今やSNS時代においては“記憶を呼び起こすスイッチ”としての役割を持ち始めています。TikTokで流れる音楽は、ある出来事や人物、感情とセットで記憶されることが多く、「この曲を聴くと、あの夏の日の投稿を思い出す」といった形で、人生の一部に溶け込んでいきます。
このような“感情とのリンク”は、マーケティングにおいて非常に重要なポイントです。商品やブランドの印象を、単なる視覚的な広告よりも、音楽によって感情的に記憶に残すことができるからです。そのため、TikTokで使用される楽曲には、企業CMやキャンペーンとの連携がますます求められています。
音楽と記憶、感情、日常体験が一体となったこの時代、バズる曲とは、単なる流行ではなく、人々の“心に定着する体験”を提供するコンテンツでもあるのです。

 
まとめ:耳に残る曲は、心も動かす戦略設計の成果

TikTokでバズる楽曲が耳に残る理由は、音楽の構造が短時間視聴に最適化されていることに加え、ユーザーの参加や感情と強く結びつく拡散の仕組みが整っているからです。マーケティングとメディア戦略は、“バズ”を起こすことそのものではなく、「いかに多くの人の記憶と感情に残るか」を重視する方向へ進化しています。
今後も、SNSを軸にしたエンタメとマーケティングの融合は進み、「誰が歌うか」よりも「どう拡散されるか」がヒットを決める時代が続くでしょう。TikTokを起点とした音楽戦略は、まさに現代のメディア戦略の最前線といえます。

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