推し活は贅沢?Z世代の自己肯定感と経済意識

推し活に込める思い――Z世代の価値観を映す鏡

「推し活」という言葉が当たり前に使われるようになった今、その背景にはZ世代の心の動きが深く関係しています。好きなアイドルやアーティスト、アニメキャラクターなどを応援する活動は、かつての趣味や娯楽とは異なり、日常の中で自分自身を保ち、前向きに生きるための支えとなってます。
Z世代は、デジタル社会で育った世代でもあります。SNSを通じて“推し”とつながることができる環境は、孤独を感じやすい現代において大きな安心感を与えています。ある調査では、Z世代のうちおよそ70%が「推し活が生きる活力になっている」と回答しており、自分の存在価値を感じられる手段として推し活を大切にしている様子がうかがえます。
応援することに喜びを感じ、その喜びが日々の原動力となる。このような循環の中で育まれる自己肯定感は、Z世代にとって必要不可欠な心の栄養ともいえるでしょう。

 

「贅沢」ではなく「投資」――推し活と経済意識の関係

推し活には多かれ少なかれ出費がともないます。たとえば、アーティストのライブチケットは平均で1枚9,000円前後。グッズを一式そろえれば数万円、地方遠征ともなれば交通費や宿泊費でさらに負担が増えます。年間の推し活関連費用が10万円を超えるという人も珍しくありません。それでも、Z世代の多くはこうした出費を「贅沢」だとは考えていません。むしろ、自分の好きなことに真剣に向き合い、それにお金を使う行為を「自己投資」だと捉えています。2024年に行われた若年層消費意識調査では、Z世代のうち63%が「推し活は生活の充実に必要な支出」と回答しており、衣食住以外に重きを置く“感情消費”の傾向が浮き彫りになりました。
また、推し活によって得られる「成果」もあります。たとえば、好きなコンテンツを海外ファンに紹介するために語学を学び始めたり、ファンアートを描いて副収入を得たりと、スキルアップや仕事につながる例も増えています。このように、推し活を通じて得る経験や達成感は、単なる娯楽を超えて人生の一部となっているのです。

 

節約上手なZ世代――推し活との共存を図る工夫

推し活に力を注ぎながらも、Z世代はお金の使い方にシビアな面も持ち合わせています。将来の不安や物価上昇の影響もあり、無駄な支出を抑えつつ、好きなことにはしっかりとお金をかけたいと考える傾向が強まっています。実際に、フリマアプリを活用して不要品を売ったり、ポイントサイトを使ってグッズ代の足しにしたりと、創意工夫をこらす姿が見られます。日常の買い物ではセールやクーポンを積極的に利用し、家計管理アプリで毎月の支出を細かくチェックするなど、デジタルネイティブ世代ならではの節約術も浸透しています。
推し活のためにお金を使うことと、日常生活で倹約を意識することを矛盾と感じることなく両立できるのは、価値観が多様化した現代を柔軟に生き抜くZ世代の特徴で、“楽しむために節約する”という前向きな姿勢にあります。欲望を抑えるのではなく、賢く満たす方法を考えることで、推し活と生活のバランスを保っているのです。この柔軟で戦略的な姿勢は、これからの時代の新しい消費モデルともいえるでしょう。

 

“好き”を社会と共有する時代へ

推し活が個人の楽しみを超えて、社会に影響を与える存在になりつつあります。アイドルやアニメとのコラボ商品は売上を大きく伸ばし、地方自治体が推し活を通じた観光施策を展開する例も増えています。また、企業が「推し休暇制度」を導入する動きも出ており、推し活を支援する空気が広がっています。この背景には、“好きなものを大切にしたい”というZ世代の思いが、共感を呼び起こしている現状があります。推し活を通じてつながるコミュニティや共通の話題は、世代や地域を超えて広がり、新しい人間関係や消費のかたちを生み出しています。
Z世代が大切にしている「推し」への思いと、それを取り巻く経済・社会の動きは、単なる一過性のブームでは終わらないかもしれません。彼らが示す「自分らしい消費」「心を満たすための支出」は、今後の社会全体の価値観にも少しずつ影響を与えていく可能性があります。

 

おわりに――推し活は“贅沢”ではなく“選択”

推し活は、Z世代にとって単なる趣味ではなく、自分を支え、前を向く力となる大切な行動です。お金をかけることに意味を見出し、そのために工夫を凝らして生活を整える姿からは、新しい消費スタイルと豊かさのかたちが浮かび上がってきます。
「贅沢」という言葉では語りきれない、Z世代の真剣な思いと選択が、これからの社会や経済を少しずつ変えていくかもしれません。“好き”を大切にしながら、自分の軸で生きる――推し活は、そんな時代の象徴ともいえるのではないでしょうか。

カテゴリ
趣味・娯楽・エンターテイメント

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