大手企業がエンタメ資産を本気活用?コンテンツ重視の戦略転換

企業が生き残るための価値創造が問われる時代に入り、商品やサービスそのものだけでは差別化が難しくなっています。そうした中で注目を集めているのが、企業が持つ「エンタメ資産」を戦略的に活用する動きです。アニメやゲーム、音楽、動画といったコンテンツをマーケティングやブランド体験に結びつけ、ファンの感情を軸にした新たな経済圏を築く取り組みが広がりつつあります。日本企業もこの流れを本格的に取り入れ始めており、従来の広告中心の戦略から“体験重視型”への転換が進んでいます。

 

エンタメを「感情資本」として扱う発想

デジタル化によって情報があふれる社会では、単に機能的な価値を打ち出すだけでは選ばれにくくなりました。消費者が求めているのは「心が動く瞬間」や「共感の体験」です。そこで注目されているのが、企業が持つエンタメ資産を“感情資本”として活用する発想です。
エンタメ資産には、映像・音楽・キャラクター・ゲーム・ブランドのストーリーといった多様な要素が含まれます。これらは単なる宣伝素材ではなく、人々の記憶や感情に直接働きかける媒体です。電通グループの調査(2024年)によると、ファンとの継続的な関係を築いた企業は、そうでない企業に比べて顧客生涯価値(CLV)が平均2.6倍高い傾向を示しました。つまり、感情に基づく関係性は、長期的な売上を支える「見えない資産」として機能しています。
この考え方が広がる背景には、企業が社会的な存在として信頼を築くためには、物語性と一貫した価値観の提示が欠かせないという認識があります。エンタメを媒介とすることで、企業は自らの理念を言葉ではなく“体験”として伝えることができるようになりました。

 

コンテンツ重視への転換:日本企業の変化

国内では、自社ブランドを物語化し、コンテンツを通じて顧客との接点を広げる動きが目立ちます。トヨタ自動車は若者層に向けたアニメとのコラボレーションでブランドの未来像を発信し、KDDIはメタバース上で音楽イベントを開催して新しいファン層を獲得しました。ユニクロも音楽や映像を通じて「LifeWear」の価値観を情緒的に伝える取り組みを続けています。
経済産業省のデジタルコンテンツ白書(2024年版)では、日本のデジタルエンタメ市場規模が13兆7,000億円に達し、そのうち企業によるブランドコンテンツ関連の比率は全体の約3割を占めると報告されています。企業は広告から“共感型の物語発信”へと重心を移しつつあり、そこに投資を集中させることでブランドの記憶定着率を高めています。
さらに、SNS上でファンと直接つながることで、企業は消費者との関係を「購入の瞬間」から「共に語る時間」へと変えつつあります。これは、モノを売る企業から“体験を提供する企業”へと変わる重要な転換点といえます。

 

海外で進む「体験の拡張」とブランドの一貫性

海外では、すでにこの戦略が企業価値を高める主要な手段として確立されています。米ウォルト・ディズニー社は映画、ゲーム、テーマパークを連動させる「トランスメディア展開」を早期に確立し、体験を多層的に拡張してきました。近年ではAIを活用して来園者の嗜好を分析し、パーク内の体験を最適化する仕組みも導入しています。
また、Netflixは配信作品をもとにリアルイベントやグッズ展開を行い、Amazonはオリジナル映画を通じてファッションやゲームに波及効果を持たせています。いずれの企業も共通しているのは、コンテンツを「一過性の消費物」ではなく、「長期的に育てるブランド資産」として管理している点です。

日本でもこの潮流を取り入れる企業が増えており、ソニーグループは音楽・映画・ゲームを横断したIP運用を強化。同社の2024年度第2四半期決算によれば、エンタテインメント事業の営業利益は前年同期比28%増と堅調な成長を示しています。エンタメを軸とした戦略転換が、確実に企業価値を押し上げているといえるでしょう。

 

企業とファンが共に育てる「共創の経済圏」へ

これからのエンタメ資産活用の鍵は、ファンとの共創にあります。SNSの発達によって、ファンは単なる受け手ではなく、自らコンテンツを二次創作し、拡散する主体へと変化しました。企業はその熱量を尊重し、オープンな形で協働することで、ブランドの信頼性を高めています。
AI分析を活用したパーソナライズド配信や、感情データに基づくストーリー設計なども今後の重要な要素です。たとえば、バンダイナムコはファンコミュニティの投稿データを分析し、ゲーム開発に反映する取り組みを進めています。これにより、開発初期段階からユーザーの声を反映させ、満足度とエンゲージメントを同時に高める仕組みを実現しています。
企業とファンが共に価値を作り出すこの「共創の経済圏」は、デジタル時代における新しい資本のかたちです。エンタメ資産を感情のインフラとして活用することで、企業は単なる製品提供者ではなく、「体験の共作者」として社会に存在するようになるでしょう。

 

まとめ

エンタメ資産の活用は、企業経営の周辺にある付加価値ではなく、中心に位置づけられる戦略へと変化しています。人々が「好き」や「共感」を通して企業と関わる時代において、感情をどう扱うかが競争力の差になります。経済合理性を追うだけでなく、感情や体験を共有することで社会とのつながりを築く企業は、ブランドの信頼と持続的な成長を両立させることができるでしょう。エンタメを資産として見つめ直すことは、単なる話題作りではなく、企業が社会にどう感情を届けるかという未来への挑戦です。
その挑戦の先にあるのは、企業とファンが共に世界を描き、育てていく新しい経済の形です。エンタメは、もはや娯楽にとどまらず、人と企業をつなぐ“感情のインフラ”として、確かな存在感を確立するでしょう。

カテゴリ
趣味・娯楽・エンターテイメント

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