「推し活費」は浪費ではない?:熱狂的消費が個人と社会に与える経済的恩恵

「推し活に月5万円って、さすがに使いすぎじゃない?」

そう言われた経験のある人は、きっと少なくないはずです。ライブ遠征のホテル代、積み上がるグッズ、次のツアーに向けてこつこつ貯める専用口座——周りからは心配され、自分でも「これっていいのかな」と思いながらも、やめられない。でも、経済学や心理学の研究を追っていくと、むしろ「推し活にお金を使う人のほうが賢い」という結論が見えてきます。

矢野経済研究所の試算によれば、国内の推し活市場は2023年度に約8,000億円規模に達しています。これは一部のマニアの話ではなく、数百万人が「好き」にお金を使った結果です。その消費行動が、なぜ幸福度を高めるのでしょうか。

 

「モノ」を買うより「体験」にお金を使うほうが、長く幸せでいられる

コーネル大学の心理学者トーマス・ギロビッチ教授は、2003年から10年以上にわたって「お金と幸せの関係」を研究しました。その結論はシンプルで、物を買ったときの満足感は思ったより早く消えるけれど、体験に使ったお金の満足感は長続きするというものです。

これには「快楽的適応」という名前がついています。難しく聞こえますが、要は「新しいスマホを買ったときのワクワクが、1か月後にはもう当たり前になってしまう」あの現象のことです。物質的な買い物は慣れが早いのですが、体験の記憶はそう簡単に色あせません。

ライブ会場で推しと同じ空気を吸った瞬間、泣きながら一緒に歌った記憶、隣の席の見知らぬ人と目が合って笑い合ったあの感覚。こういった体験は記憶として残り、何年経っても「あのとき最高だったな」と思い出せます。ギロビッチ教授は「体験はその人自身の一部になる」と言っており、推し活への支出が「後悔しない買い物」になりやすいのはそのためです。月5万円のライブ遠征費が、5年後も10年後も「あれは行ってよかった」と語られるとしたら、コスパとしては決して悪くないでしょう。

 

推し活は「友だちができる仕組み」でもある

推し活を単独の趣味として見ていると、大事なことを見落とします。推し活には、人とつながる力があります。ある調査では、趣味を共有できる友人がいる人の生活満足度は、そうでない人より約1.4倍高いという結果が出ています。ライブ会場で隣になった人と連絡先を交換して、今も仲良くしているというのは、推し活あるあるのひとつです。SNSのファンコミュニティでは、年齢も職業も住む場所も違う人たちが、「推しが好き」という一点だけで深くつながれます。

ハーバード大学のロバート・パットナム教授が「社会関係資本」と呼んだ概念があります。簡単に言うと、信頼できる人間関係のネットワークは、お金と同じくらい実質的な価値を持つというものです。孤独がじわじわと広がっている現代において、推し活が作り出すコミュニティは、その「社会関係資本」を育てる場として機能しています。推し活費の一部は、ある意味でこのネットワークへの会費でもあって、そう考えると相当お得な投資といえるかもしれません。

 

「応援している」という感覚が、生きる力になる

デューク大学のダン・アリエリー教授の研究では、人が最も深い満足感を得るのは、ただ楽しいだけでなく「意味を感じられる」活動に時間やお金を使ったときだと示されています。

推し活がここに当てはまります。推しのライブに行くのは、ただ音楽を聴くためだけではありません。「成長を見守っている」「夢を一緒に追いかけている」という感覚が、消費にひとつの役割を与えます。単なる娯楽費とは違い、「自分もこの物語の一部だ」という能動的な意識が生まれるわけです。これが繰り返されることで、推し活は生活の中に「自分なりの意味」を作り出す行為になっていきます。

また、推し活経済の波及効果は個人の幸福にとどまりません。ライブやイベントにともなう交通、宿泊、飲食、グッズ製造といった周辺産業への経済効果は、観光庁の試算をもとにした推計で年間数千億円規模とされています。個人の「好き」という感情が、気づけば地域経済を動かしているわけです。アリエリー教授は「意味のある消費は持続する」と語っていますが、推し活がそれを体現しているといえるでしょう。

 

経済学的に見ると、推し活は「合理的な選択」だった

ノーベル経済学賞を受賞したリチャード・セイラー教授は、人間が実際に感じる幸せは「客観的な損得」だけでは測れないと長年主張してきました。感情、記憶、人とのつながりといった要素が、実際の満足度を大きく左右します。これを「経験効用」と呼びます。

推し活への出費は、この「経験効用」を最大化する行動です。従来の経済学の教科書的な視点では「余剰な支出」に見えるかもしれませんが、行動経済学の観点では「自分の幸福に最も効果的な配分」と解釈できます。何に使うかではなく、使った後の自分がどう感じるかを基準にすれば、推し活への支出はむしろ優等生な選択です。

月5万円を推し活に使う人を笑えない理由は、ここにあります。体験の記憶は長持ちし、人とのつながりを生み、生きがいを育て、そして自分の幸福度を着実に引き上げる。数字で測りにくい部分も多いですが、研究が積み重ねてきたデータは、その方向性を一貫して支持しています。熱中できるものがあって、それにためらわずお金を使える人は、むしろ豊かな選択をしているのかもしれません。

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趣味・娯楽・エンターテイメント

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