故人の借金をどうする?相続放棄の方法と注意点
身近な家族が亡くなったとき、多くの人がまず思い浮かべるのは、葬儀や保険金、遺品整理などでしょう。しかし、あとになって発覚することの多いのが「故人の借金」です。住宅ローン、クレジットカードのリボ払い、消費者金融からの借入などが残されていた場合、それを相続人が引き継ぐリスクがあります。
こうしたリスクから自分を守るために覚えておきたいのが「相続放棄」という選択肢です。ただし、相続放棄には期限や手続き上の厳密なルールがあり、失敗すれば多額の借金を背負う結果になる可能性もあります。
相続放棄とは?財産も借金もすべて「受け取らない」という決断
相続とは、亡くなった人(被相続人)の財産を配偶者や子どもなどの相続人が引き継ぐことをいいます。財産というと「プラスの遺産」ばかりを想像しがちですが、実際には借金などの「マイナスの遺産」も含まれます。
相続放棄は、家庭裁判所を通じて「私は相続人になりません」と宣言する正式な法的手続きです。この申述が認められると、初めから相続人ではなかったことになるため、故人の借金を支払う義務も一切なくなります。
期限は「3か月以内」!見落としがちな相続放棄の落とし穴
相続放棄を行うには、相続の開始(通常は死亡)を知った日から3か月以内に、家庭裁判所に申述を行う必要があります。これを「熟慮期間」と呼びます。例えば、親が亡くなったことを知った日が4月1日なら、相続放棄の期限は6月30日までです。
注意すべきなのは、期限を1日でも過ぎると、原則として放棄はできなくなることです。期限内であっても、下記のような行動をとってしまうと、放棄が認められない可能性があります。
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故人の預金を引き出して使った
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故人の車を売却した
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遺品を処分して現金化した
これらはすべて「相続を承認した(単純承認)」とみなされ、放棄の権利を失うことにつながります。
相続放棄の手続きの流れと必要書類
相続放棄は家庭裁判所で行う正式な法的手続きです。以下の流れで進める必要があります。
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申述書の作成
家庭裁判所の様式に従って「相続放棄申述書」を作成します。申述書には被相続人との関係や放棄理由などを記入します。 -
必要書類の準備
・被相続人の死亡の記載がある戸籍謄本
・申述人の戸籍謄本
・被相続人の住民票除票や除籍謄本など
※必要書類はケースにより異なりますので、事前確認が重要です。 -
裁判所への提出と審査
申述書と書類を家庭裁判所に提出し、書類に不備がなければ受理されます。追加資料を求められる場合もあるため、郵送・来庁ともに早めの対応が安心です。 -
受理通知の到着
審査後、裁判所から「相続放棄受理通知書」が届きます。これで正式に放棄が成立します。
相続放棄後の影響と注意点:家族間トラブルも避けよう
相続放棄には、以下のような影響があります。放棄を決める前に、家族や親族とよく相談することが大切です。
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次順位の相続人に相続権が移る
たとえば、長男が放棄すると次は次男、全員が放棄すれば故人の親や兄弟に権利が移ります。結果として、親族全体に波及するリスクがあります。 -
財産が残っていても一切受け取れない
負債が多いからと放棄しても、あとから不動産や預金が出てきたとしても受け取ることは不可能です。よって、できる限り全財産の状況を確認したうえで判断することが重要です。 -
保証人には放棄の効力が及ばない
故人の借金の保証人になっていた場合、相続放棄しても保証人としての返済義務は残るため、個別に債務整理を行う必要があります。
家族を守る「終活」のひとつとしての備え
相続放棄は亡くなった人の借金を防ぐ手段であると同時に、生前に本人ができる備えも大切です。以下のような終活をしておくことで、遺族の混乱を防ぐことができます。
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借金やローンの一覧をメモに残す
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財産目録やエンディングノートを作成する
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家族に借金の有無を伝えておく
近年では、終活セミナーや専門家による相談サービスも増えています。高齢化が進む現代社会では、「自分の死後に家族が苦しまないように準備しておく」ことが、思いやりの形といえるのではないでしょうか。
まとめ:冷静な判断と早めの対応がカギ
故人に借金があると判明したとき、気持ちが揺らぐのは当然です。しかし、相続放棄という選択肢があることを知っていれば、落ち着いて冷静に行動することができます。重要なのは、「3か月以内に対応すること」「遺産に手をつけないこと」「関係者と情報共有すること」の3点です。
法律知識が乏しいと感じる方は、早めに弁護士や司法書士などの専門家に相談し、正確な手続きを進めましょう。適切な対応をすれば、借金を引き継ぐリスクから家族を守ることができます。
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