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年金の受け取りが心配…繰り下げと繰り上げはどちらが得?

将来の家計を考えるとき、年金を「いつから受け取るか」という選択は避けて通れません。65歳を基準に受給開始を早める繰り上げと遅らせる繰り下げがあり、どちらを選ぶかによって生涯に受け取る金額は大きく変化します。制度の仕組みは数字で理解できますが、実際に生活にどのような影響があるかを考えるとなると、健康状態、貯蓄状況、暮らしのスタイル、さらには不動産の収支やローンの残り具合など、多くの要因が関係します。物価上昇、為替の変動、金利の上昇といった経済環境の変化が続く中では、年金の受給開始をいつにするかという判断が以前よりも重みを持っています。将来の安心感を高めるために、自分に合う受給の仕方を考えるきっかけになればと思います。

 
繰り上げと繰り下げの仕組みと損益分岐の目安

公的年金の受給開始は原則65歳ですが、60歳からの繰り上げと75歳までの繰り下げが選べます。

制度上の調整率は次のようになっています。

  • 繰り上げ:1か月あたり0.4%減額
    60歳で受け取る場合、60か月分早まるため24%の減額となります。

  • 繰り下げ:1か月あたり0.7%増額
    75歳で受給を始めると120か月遅れるため84%増額となります。

これらは2022年の制度改正後の数値で、現在の標準的な基準です。

損益分岐点を確認すると、繰り上げの場合は77〜80歳前後、繰り下げの場合は82〜85歳前後が一般的な目安と言われています。厚生労働省の「簡易生命表2023」によると、日本人の平均寿命は男性81.5歳、女性87.6歳で、長く生きるほど繰り下げが有利に働く可能性が高くなります。ただ、受給額は一度決めると原則として生涯固定されるため、開始年齢の選択は慎重に考えたいところです。

 
家計状況・資産・金融環境を踏まえた判断が重要

年金の受給開始年齢を考える際に「どちらが得か」を一概に言い切れないのは、生活状況によって最適解が変わるためです。

たとえば、早期に資金が必要な場面が多い家庭では繰り上げが有効になる場合があります。

・住宅ローンが65歳以降も残っている
・築年数の古い不動産の修繕が迫っている
・退職直後の収入減を補いたい


こうした状況では、年金を早めに受け取って現金収入を確保したほうが家計が安定します。

反対に、健康状態に問題がなく、貯蓄や投資収入が一定程度ある場合は繰り下げによる増額を生涯にわたって活かせる可能性があります。預貯金や債券は金利上昇の影響を受けやすく、利息収入が増える局面では余裕を持って受給開始を遅らせる選択がしやすくなります。外貨建て資産を持つ人は、為替の変動で評価額が揺れやすいため、増額された年金を生活の基盤に置くことで市場変動の影響を抑える働きも期待できます。

また、働き続ける人にとっては「在職老齢年金」の調整が関係するため、65歳前後の収入が高い場合は、繰り上げよりも繰り下げのほうが調整を受けにくく、結果として受け取り額が安定するケースもあります。

生活費の出方にも特徴があり、60代後半は趣味や旅行にお金を使いやすい時期で、国土交通省のデータでは戸建て住宅の大規模修繕が築30〜40年で発生しやすく、一度に数百万円の支出となる例もあります。その時期と定年退職のタイミングが重なる家庭では、繰り上げが安心感につながる場面があります。

一方、75歳以降は医療費・介護費の割合が増える傾向があり、厚生労働省の要介護認定率の統計では、75〜79歳で約30%前後となっています。もし健康に問題が出てくる年齢を見据えるなら、受給額を増やしておくことに価値が生まれます。

 
自分にとって納得できる受給開始年齢を見つける

繰り上げ・繰り下げを比べる際の大切な視点は、「どの時期に最も安定した資金が必要か」を見極めることです。老後前半にゆとりを求めるか、後半に必要な支出を意識するかで選ぶ方向性は変わります。
判断材料としては、


・65歳時点の貯蓄残高
・医療・介護のリスクの見通し
・不動産の修繕やローンの返済計画
・投資や預貯金の運用状況
・世帯としての将来の暮らし方


これらを組み合わせて考えると、自分にとって最も安心できる受給時期が見えてきます。単に「繰り下げが有利」「繰り上げが損」という考え方ではなく、暮らしの流れに合わせて年金を位置づけることが大切です。

ファイナンシャル・プランナーに相談すると、家計のキャッシュフローを数十年単位で整理したうえで、受給開始の違いによる影響を比較できます。老後の暮らしを数値で把握できるため、納得感のある選択に近づきやすくなります。

 
まとめ

年金の受給開始年齢は、単純な損得では測りにくいテーマです。繰り上げは早期の資金確保に向き、繰り下げは長生きした場合の安心感を高める働きがあります。経済環境の変動、物価上昇、不動産の修繕計画、ローンの返済状況など、多くの要素が関係するため、自分の生活にとってどの時期に安定した収入が必要かを整理することが欠かせません。損益分岐点の目安は80歳前後ですが、数字だけで判断しないほうが後悔の少ない選択につながります。

老後を安心して過ごすために、受給開始を考える際は家計全体の流れを確認し、将来の自分がどのように暮らしたいかを思い描きながら計画を立てることが大切です。判断に迷う場合は専門家の意見を取り入れながら、納得できる選択を見つけていきたいところです。

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