Z世代は「察してくれない」上司を見抜いている――“わかり合う努力”が信頼の起点
職場における人間関係のトラブルは、いつの時代も避けられないものですが、特に深刻化しているのが「Z世代」と呼ばれる若手社員と管理職との間に生じる価値観のすれ違いです。
Z世代は、1990年代後半から2010年頃に生まれた若者たちを指し、物心ついたときからスマートフォンやSNSに親しんできた、いわゆる“デジタルネイティブ”世代です。彼らは「思っていることは伝えるべきもの」という価値観を当たり前のように持ち、逆に「言わずに察する」ことには違和感を覚えがちです。
一方で、多くの管理職世代は「口に出さなくても気持ちは伝わる」「上司は多くを語らない方が部下にとって成長につながる」といった、いわば“昭和・平成的”なマネジメントの感覚を無意識のうちに持っていることも少なくありません。その結果、Z世代の若手社員は「察してくれない上司」に不信感を抱き、上司は「最近の若者は自分から話さない」と感じてしまうという、両者にとって不幸な関係が生まれているのです。
Z世代が求めるのは「察し」よりも「対話」――すれ違いの根底にあるもの
Z世代が上司との関係において最も違和感を覚えるのは、「なぜ伝えていないのに分かってくれないのか」という受け身的な態度への反発ではありません。むしろ、「言ってもわかってもらえないのではないか」「どうせ伝わらないだろう」と感じさせる“壁”の存在に敏感なのです。
彼らは学生時代からSNSなどを通じて、情報の即時共有とレスポンスの速さを当たり前に体験してきました。そのため、あいまいな表現や無言の空気に頼ったコミュニケーションを「不誠実」と受け取る傾向すらあります。たとえば、明らかに疲れているのに上司が気づかず声もかけてくれなかった場合、Z世代の部下は「私に興味がないんだ」と感じてしまい、関係性に距離を置こうとします。
一方で、「今日は顔色がよくないけれど大丈夫?」「仕事の進捗に困っていることはないかな」といったちょっとした声かけがあるだけで、「見てもらえている」「気にかけてもらえている」という安心感が生まれます。つまり、Z世代にとって信頼とは、言葉や行動によって明確に示されるべきものであり、曖昧な期待や“察する文化”にはもはや価値を見出していないのです。
上司に求められるのは、対話によるマネジメント
Z世代と良好な関係を築くためには、「察する力」よりも「対話する力」が求められます。部下が何を考えているのか、どのような価値観で動いているのかを知るには、こちらから積極的に声をかけ、対話の機会をつくることが不可欠です。
具体的には、業務を任せる際に「この仕事はなぜ必要なのか」「あなたの強みがここでどう活かされるのか」といった説明を丁寧に行うことで、Z世代の部下は納得感を得ることができます。また、成果を評価する場面では、「どこが良かったのか」「次はどのような改善が期待できるのか」といった具体的な言葉を用いることで、彼らは「自分を見てもらえている」という実感を持つことができ、自然とモチベーションが高まります。
さらに重要なのは、中長期的な成長ビジョンを共有することです。Z世代の多くは、ただ日々の業務をこなすことよりも、「この職場でどんな未来が描けるか」「自分はどう成長できるか」に強い関心を持っています。その期待に応えるには、日頃の関わりのなかで「あなたの能力をどう伸ばしたいと考えているか」や「数年後のキャリア像をどう描いているか」を対話の中で共有する姿勢が必要です。
「伝える責任」は部下側にもある――一方通行ではない信頼関係
もちろん、上司だけが変わればすべてが解決するわけではありません。Z世代自身にも「伝える責任」が求められます。自分の不安や意見を言葉にせず、「察してくれなかった」と感じるだけでは、建設的な関係は築けません。
「この業務、少し自信がありません」「この進め方に不安があります」と素直に打ち明けられる部下は、信頼されやすくなります。なぜなら、上司もまた「何を考えているのか分からない」と感じているからです。思いや課題をオープンに共有することで、上司側も適切な支援がしやすくなり、結果として信頼が相互に育っていくのです。
また、Z世代が陥りがちな“察され待ち”の姿勢は、結果として自分のチャンスを狭めてしまいます。「伝える」「求める」「相談する」という行為を通じて、自分の意思を職場の中で確立していくことが、個人としての成長にも大きく寄与していきます。
まとめ:世代を越えて信頼を築くには、「察する」から「語り合う」への転換が必要
「Z世代は察してくれない上司を見抜いている」という言葉の背景には、単なる不満や批判ではなく、相互理解を求める切実な声が隠れています。彼らが求めているのは、「わかってくれそうな人」ではなく、「わかろうとしてくれる人」なのでしょう。上司と部下という立場の違いを超えて、共に働くパートナーとしての関係性を育てるには、「伝え合う努力」「確認し合う姿勢」が欠かせません。曖昧な関係を良しとするのではなく、丁寧なやり取りを重ねることで、職場の空気は少しずつ変わっていきます。
「察する」のではなく「語りかける」「聞いてみる」「伝えてみる」。その一つひとつの積み重ねが、Z世代と管理職世代の溝を埋め、組織全体に温かい信頼の空気を生み出していくのではないでしょうか。
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